世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

おいで

2012-04-30 12:10:41 | 薔薇のオルゴール

おまえたちが いるから
おれは苦しいんだって
君は 言う
おまえたちが 馬鹿だから
おれはつらいんだって
君は 言う

でも ぼくには
君のほんとうに言いたいことがわかる
君は
だれよりも
おれを大切にしてくれって
言いたいんだ
だれよりも
おれを愛してくれって
言いたいんだ

遠い昔 君は おかあさんとけんかして
おかあさんが くれた絵本を
みんな 燃やしてしまった
それには おかあさんがかいてくれた
きれいな絵や ことばが
たくさんつめてあったのに
おかあさんを きらいだと言って
みんな もやしてしまったら
君は なにもかも なくしてしまった

知ってる 
君は それがつらくて
悲しかったのが いやで
みんなに 背を向けて
むりにでも さみしくなんかないんだって
風の向こうに 走って行った
何もない 灰色の心臓を抱いて

君はそれが今でも いたいんだ
つらいんだ 悲しいんだ
泣いているんだ
だから 誰よりも
おれを大切にしてくれって
言う
誰よりも

おいで
今 君が
ぼくを 振り向いてくれたら
いっしょに行ってあげるよ
手をつないで おかあさんのところにいって
一緒に あやまってあげるよ

おいで
一緒に行こう
振りむいて
ぼくは 知ってる
本当は 君が
とても いい子だってことを


(オリヴィエ・ダンジェリク詩集『空の独り言』より)







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薔薇を盗む

2012-04-30 07:31:36 | 薔薇のオルゴール

毎夜毎夜 ぼくの胸から
薔薇を盗んでいたのは 君かい?
薔薇がほしいのなら いつでもあげるけど
なんでそんなに欲しいの?

ああ 君は
良い人になりたいんだね
正直できれいな 良い人になりたいんだね
だから 薔薇を盗んでいくんだね
人の心の 薔薇を

嘘なんかつかない 
良い人になるために
嘘を つくんだね
君は

薔薇は あげてもいいけれど
本当に それでいいの?
だって薔薇は 君の胸にだって
咲いているんだから
その薔薇は どこへやったの?

ああ ぼくは
悲しくて 胸に降ってくる
白い雪を ボールにして
空に向かって 思い切り投げたくて
でも どうしても投げられなくて
ああ またぼくの胸に薔薇が咲く
雪のように 白い薔薇が咲く

薔薇は あげるよ
どうしてもいるのなら あげるよ
でも 君には 君の薔薇のほうが
ずっとすてきだって
ぼくは 思うよ


(オリヴィエ・ダンジェリク詩集『空の独り言』より)



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トーマ・ヴェルナーを描いてみた

2012-04-29 11:46:33 | 画集・ウェヌスたちよ

萩尾望都先生がこのたび、なんかとてもえらい勲章をもらえたそうで、そのお祝いというか、ちょっと描いてみたくなって、描いてみました。

「トーマの心臓」から、トーマ・ヴェルナー、のつもりです。
一生懸命描いてみたんだけど、全然似てませんね。当たり前ですけれど、人の絵を真似するのは難しい。

まあ、てんこ的トーマ・ヴェルナーという感じで。なんとなく天使のような感じが出せれたらいいかと。

実は、「ポーの一族」のエドガーも描いてみたんですけれど、こっちはもっと難しくて、なんだか目がきつくなりすぎてしまって、とてもお見せできません。描いてみて初めてしったのだけど、エドガーって、茶色の髪をしてるんですね。目は青い。

色鉛筆の絵ですから、作画に要した時間は、ほんの一時間というところかな。なんせ簡単な絵ですから、次々とできてしまう。

今度はオスカー・ライザーに挑戦してみましょうか。でもむずかしそうだな。やっぱり私は、王様や聖者やオリヴィエを描いていたほうがよさそうだ。

あ、明日は、オリヴィエが出てきます。

とにかくも、萩尾望都先生、おめでとうございます。これからもがんばってください。




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光散る

2012-04-29 07:00:58 | 歌集・恋のゆくへ

光散る 野の草陰に 咲く花の かをるこころは 風のみや知る


うすべにの のばらにあれば 野に潜む われにふれるな 血に割れる指


風の香に 阻むものあり 見ゆるとも 薔薇の岸辺に ゆめちかよるな


世にありて 見ゆといえども ありてある われのこころは 月にしぞ揺る


戸を開き 鳥の小籠に しづもりて 文なすものの 影は夢なれ


去りゆきて なほとどまれる なよたけの とほきまなこは 月影に閉づ


ゆくものは たれなりやとぞ とふものは たれなりやとぞ われはとひぬる


くすのきの こかげに揺るる あをき目を 玉と見出す 者もなき世よ


いにしへの ゆめのゆふべに 見し鳥を 忘れずといひ 忘れ去る人


人の世に ありて来し身の おもひでを 海辺のかひに 語りてもみむ



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ゆきしろばらべに・解説

2012-04-28 11:50:46 | 薔薇のオルゴール

これも、ジョバンニとカムパネルラと同時期に描いた絵です。絵の中ではゆきしろちゃんは茶色の髪、ばらべにちゃんは金髪になってますが。

もうおわかりの方もいらっしゃると思いますが、今回は、グリム童話の再話に挑戦してみました。けれども、てんこ的な味付けが濃くて、半分は創作みたいなものになってしまいましたが。原作がどんなものか知りたい方は、どうか各自で検索して調べてみてください。どうも、いまだにわたし、リンクの仕方がわかっていないもので。いや、ただ面倒くさいだけなんですが。

原作を読んでみると、違いがよくわかると思います。少々論語的というか、説教くさくなるのは、わたしの長所と思っています。

まあ、要するにこのお話は、いろいろ悪いことばっかりして、女の子を馬鹿にしてばっかりいる意地悪な男性(小人)が、心正しく、強く、女の子にもやさしい男性(熊、王子)にやっつけられて、女の子は無事に、やさしい王子様と結婚すると言う、とてもすてきな、おとぎ話です。

まあその、現実は、本当に苦しかったから、こんなおとぎ話ができたんじゃないかなあって、思います。昔から、女の子には、本当に苦労が多かったから。

ゆきしろも、ばらべにも、かわいくて、勉強も真面目にして、おかあさんのお手伝いもちゃんとしている、いい女の子。熊に姿を変えられ王子が、お嫁さんにしたいと思ったのも無理はないというもの。

今の世間では、いろいろ、物事に対して斜めに構えたり、乱暴に持論をぶつけ合ったり、時に支配的な態度で物事を強引に運んだりすることが、何となくかっこいいかのようなことが、よくありますけれども。わたしは、物事にはまっすぐに、きれいに打ちこむのが好きだ。まあ、簡単に言えば、まじめで正直というだけなのですけど。

そういうのが、いちばんいいと思うのですけどね。むずかしいのは、今の時代、嘘というのは、本当に進化していると言うか、物事がとても上手にやれて、まことにうまく、真実に化けることができるということだ。

ほんとうのほんとと、ほんとうのまねをしたうそは、どうちがうでしょう。そこに、愛があるかどうかですね。



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ゆきしろばらべに・3

2012-04-28 07:16:39 | 薔薇のオルゴール

ばらべにが、少し悲しい顔をして、目を伏せました。親切をしてあげたつもりだったけど、かえって迷惑をかけたのかしら? するとゆきしろは、すぐにばらべにの心がわかって、言いました。
「気にすることはないわ。動物たちが言ってたもの。失敗するのは、すっかり自分が悪いってことじゃないって。勉強すればいいことなんだって」
するとばらべには、少し微笑んで、「そうね」と答えました。

それからまた、少したって、ふたりは今度は、おかあさんの言いつけで、町に買い物に出かけました。市場に行って、針と糸と布を少し、買って来なければならないのです。
ふたりが森を出て、岩だらけの草原に出てくると、少し離れたところで、大きなワシがばたばたと翼をはためかせて飛んでいるのが見えました。それと同時に、どこかで聞いたことのある悲鳴が聞こえてきたので、ふたりが目をぱちぱちさせてよく見てみると、例の小人が、大きなワシの足にがっしりとつかまれて、今にも空につれていかれそうになっていたのです。

「たあすけてくれえ!!」
小人は青い顔をいっそう青ざめて、叫んでいました。ふたりの女の子たちは、いそいで走りより、小人の服を捕まえて、力いっぱい引っ張りました。ワシはなかなか小人を離してくれませんでしたが、娘たちは協力し合って、がんばって、一生懸命にひっぱりました。するとワシはようやく、あきらめて、小人を離して、飛んでいきました。

ワシが飛び去っていなくなると、また小人は、顔に醜いしわを寄せて、女の子たちを憎々しげににらみつけて、言いました。
「このとんまで不器用でいらんことしいの低能のばかめ! 何をやってもうまくできんのか! おかげでおれさまの大事な服がぼろぼろじゃないか! おまえらなんぞ、できそこないのうずらにでもなって、そこらのごみでも食べていろ!」
そう言うと、小人は、また袋をかついで、行ってしまいました。ふたりは、ちょっと困ったような顔をしましたが、もうあの小人の言い方には慣れてきていましたので、少し肩をすくめて顔を見合わせただけで、何も気にしないようにして、いそいそと町へと向かって歩き始めました。

町の市場で、買い物をすませて帰って来る途中、ふたりはまた、森の中で小人を見かけました。ふたりは、小人にまた怒られてどなりつけられると思うと、少し気持ちが苦しくなって、気付かれないようにそっと木の影に隠れて、しばらく小人の様子を見ていました。小人は、誰にも見られていないと思って、持っていた袋の口を開けて、中身をざらりと外に出しました。すると、地面の上に、それはそれはきれいな、色とりどりの、金や銀の粒や、サファイヤやルビーや、真珠や珊瑚などの、きれいな宝石の山が現れました。ふたりは、びっくりして、思わず、あっと声をあげました。すると小人が、声のした方を振り向き、ふたりを見つけて、ぎろりとにらみつけ、どなりました。
「なんでおまえら、そこにいるんだ!」
小人は、青い顔をいっそう青ざめさせ、その青いのがもっとひどくなって、炭のように黒くなり、恐ろしい形相で目を光らせました。そして、今にもふたりに襲いかかって来ようとして、手を振りあげました。

するとそのとき、向こうの茂みが、がさりと動き、大きな黒い熊が一匹、のそりと現れました。熊は牙を見せてぐるぐると吠えながら、怖い目で小人をぎろりとにらみました。
とたんに、小人は縮みあがって、ふるえだしました。
「こ、これはこれは、だんな、どうか、どうか、ごかんべんを…」

熊はゆっくりと小人に近づくと、ゆらりと立ち上がり、その大きな手を棍棒のように振って、一打ちで、小人をのしてしまいました。小人は、ぎゅっという悲鳴をあげて、地面の石に頭をぶつけて、あっという間に、死んでしまいました。
ゆきしろとばらべには、その恐ろしい熊から、走って逃げようとしましたが、そのとき、聞き覚えのある優しい声が、ふたりを呼びとめました。

「ゆきしろ、ばらべに、ぼくだよ、逃げないでおくれ」
ふたりは、驚いて足をとめ、振りむきました。よく見るとそれは、本当に、一緒に一冬を仲良く過ごした、あのやさしい熊でした。熊の目に、それはやさしい星が点っていたので、ふたりにはすぐにわかったのです。

ふたりがほっとして、熊の方に歩いて来ようとしたときでした。熊の毛皮がふと風にゆらいだかと思うと、それは.まるで幕が外れたように、するりと下に落ちて、そこにいつしか、美しい若者が立っていました。若者は、涼やかな瞳で二人を見つめると、優しい声で言いました。
「ゆきしろ、ばらべに、ぼくは、ある国の王子なのです。悪い小人に魔法をかけられて、熊に姿を変えられた上に、大切な宝物を、ずっと盗まれ続けていたのです。でもこうして、やっと小人をやっつけることができて、もとの姿に戻ることができました」
ふたりはただびっくりして、王子を見つめていました。王子の目には、あの熊と同じ、やさしい星が点っていました。

やがて王子は、ゆきしろに結婚を申し込みました。ばらべには、王子の弟と、結婚しました。ふたりの娘は、おかあさんを新しい家に呼んで、大切に孝行しました。家の庭には、もちろん、白い薔薇の木と、赤い薔薇の木を植えました。薔薇は季節がくると、それはきれいに咲いて、幸せな香りをふりまきました。

盗まれた宝物も、みんな戻ってきて、王子はそれを、みんなに分けてあげました。そしてそれからずっと、みんな仲良く、とても幸せに暮らしたということです。

(おわり)



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ゆきしろばらべに・2

2012-04-27 11:52:20 | 薔薇のオルゴール

ゆきしろとばらべには、熊が怖くはないことがわかりましたので、こわごわと、熊の毛皮に触ったり、小さなその瞳をそっとのぞき込んだりしました。するとその目の中には、暖炉の明かりが映り込んで、それはあたたかな、星のようにきれいな心が見えていました。ゆきしろとばらべには、すっかり安心して、とうとう、熊の耳をひっぱったり、くすぐったりしてしまいました。それでも、熊が何も言わず、ただ笑っているので、しまいにいたずらっけを起こして、ちょっと蹴飛ばしてみたり、転がしたりしてしまいました。すると熊は困って、「おいおい、ゆきしろよ、ばらべによ、かんべんしておくれ。死んでしまったら、君たちと結婚できなくなってしまうよ」と言いました。
ゆきしろも、ばらべにも、このおどけたやさしい熊が、大好きになりました。そして熊は、冬じゅう、毎日のように、家にやってきては、ゆきしろとばらべにと、遊んだり、話をしたりしました。そして、一冬は、とても楽しく、幸せに過ぎていきました。

そうして、やがて雪が解け、春の風が森に吹きこみ始めたころ、熊はふたりに、言いました。
「ゆきしろ、ばらべに、ぼくはそろそろいかなくてはならない。春になると、冬の間は眠っていた悪い小人が目を覚まして、ぼくの宝物を盗みにくるんだよ。ぼくはその小人から、宝物を守らなくてはならないんだ」
ゆきしろとばらべには、熊が行ってしまうのを、さみしがりましたが、冬になったらまた来ると、熊が言ってくれたので、安心して、言いました。
「また来てね。暖炉の薪は、いっぱい集めておくわ」
「今度の冬には、栗の実で、おいしいお菓子をつくってあげる」
ふたりは手を振って、森の奥へと去ってゆく、熊を見送りました。

それからしばらくたった、ある春の日のことでした。おかあさんは、ふたりを、森へ芝を集めに行かせました。ふたりが森の中をゆく途中、大きな木が倒れているところがあって、その上で、何かが飛び跳ねているのを、ふたりは見つけました。近づいてよく見てみると、それはひとりの小人でした。小人は青っぽいおじいさんのような顔をしていて、しわくちゃの長い白い髭を、倒れた木の割れ目に挟まれて、それをどうしても抜くことができなくて、かんしゃくを起こして暴れていたのです。
小人はふたりを見つけると、いまいましそうに言いました。
「何をじろじろ見ているんだ。このうすのろの馬鹿め! このおれさまを助けることもできんのか!」
それを聞くと、ふたりは大急ぎで小人に走り寄り、言いました
「いったいどうして、こんなことになったの?」
「うるさい! とんまなちびっこめ! おれさまは薪をとろうとして、この馬鹿な木に髭をとられただけだ!」
ふたりはなんとかして、小人の髭を木の割れ目からとろうとしましたが、くしゃくしゃの髭が木の割れ目にからみついて、どうしてもとることができませんでした。そこで、ゆきしろは、ポケットから小さなハサミを取り出すと、小人の髭の先っちょを、ちょんと切ってしまいました。小人は、木の割れ目から解き放たれるや否や、耳に刺さるような甲高いぐちゃぐちゃした声で、わめきたてました。
「この馬鹿娘! おれさまの立派な髭をよくも切ったな! おまえなんぞ、カッコウのえさにでもなってしまえ!」
小人はそう言うと、あっという間に、森の奥に走って逃げていってしまいました。

ゆきしろは、ちょっと悲しい顔をしました。いつもお母さんに、困っている人は助けてあげなさいと言われていたので、なんとかしてあげたつもりだったのだけど、あまりに、ひどいことを言われてしまったので、かえっていけないことをしてしまったのかと思ってしまったのです。すると、ばらべには、すぐにゆきしろの心がわかって、言いました。
「気にすることはないわ。小鳥が言ってたもの。悲しいことがあっても、勉強なんだと思えば、なんでもいいことになるんだって」
するとゆきしろは少し微笑んで、ばらべにに、「ほんとうにそうね」と言いました。

それからまた、何日かが過ぎました。ふたりは今度は、夕御飯の魚をとるために、つりざおを持って、森の中の小さな池に出かけました。池のほとりにつくと、そこにはまた、あの小人がいました。小人は木にしがみついて、何かわけのわからないことを言いながらひいひいと悲鳴をあげていました。よく見ると、小人は、長い髭の先を、池の中の大きな魚にくわえられて、今にも池の中に引っ張り込まれてしまいそうになっているのです。
ふたりは、目を丸くしながら言いました。
「いったいぜんたい、どうしてそんなことになったの?」
すると小人は、ふたりをぎろりとにらんで、ぐしゃぐしゃな声で、またわめきました。
「うるさいうるさいうるさい! このうすらとんかちのでっかいだけの能無しの馬鹿な魚が、おれさまの髭をうらやんで気に入りよったんだ!」

ばらべには、小人の髭をひっぱって、どうにかして魚の口から髭を助けようとしましたが、魚はいよいよ強く引っ張るばかりで、小人の髭をどうしてもはなしてくれませんでした。そこでばらべには、ポケットから小さなハサミを取り出して、仕方なく、小人の髭をちょんと切ってしまいました。魚は、小人の髭の先を加えたまま、どぼんと池に沈んで見えなくなりました。小人は、何とか助かって、ほっと息をつきましたが、すぐに目をぎらつかせて、娘たちをにらみました。
「なんて頭の悪いやつらだ! またおれさまの髭を切りよって! ほかにもっとましなことはできんのか! 馬鹿でのろまな女のちびっこめ、魚に食われてくそにでもなってしまえ!」
小人は、そう言うと、池のほとりにおいてあった袋を大急ぎで担ぎ、すぐに森の向こうに走って消えていきました。

(つづく)



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ゆきしろばらべに・1

2012-04-27 07:06:55 | 薔薇のオルゴール

昔々、ある深い緑の森の奥に、一見の小さな家がありました。家の庭には、白い薔薇の木と、赤い薔薇の木が、こんもりと静かに植えられていました。白い薔薇と、赤い薔薇は、季節ともなると、それはきれいに咲いて、透き通った香りが、森の風の中を流れました。

その家には、ひとりのやさしい女の人が住んでいて、ゆきしろと、ばらべにという、ふたりのかわいい娘がいました。

長い黒髪に雪のように白い額をした娘が、ゆきしろ。亜麻色の髪に、薔薇色のほおをした娘が、ばらべにです。母親が、とてもやさしく、きちんとしつけをして、正しいことを教えましたので、ふたりの娘は、とてもやさしく、気立てのよい娘に育ちました。
「自分の心に、恥ずかしいことはしてはいけませんよ。いつも心はきれいにして、人には親切にしてあげなさい」
母親はいつも、娘たちに教えました。
「賢いことは、よいことです。森は、いろんなことを教えてくれるから、たくさん勉強しなさい。知りたいと思うことがあったら、遠慮なく、鳥や動物や木や花に、尋ねなさい。みんなきっと、いいことを教えてくれるから」

娘たちは、森が大好きでしたので、毎日のように、森の動物たちや小鳥たちと遊びました。花や木とも、いろんな話をしました。風も時々、声をかけてくれました。一度など、森と話をするのに夢中になって、家に帰るのを忘れてしまい、そのまま木の根元に抱かれて眠ってしまったことがありました。そのときは、木々が静かに子守唄を聞かせてくれて、小さな星明かりの秘密を、夢の中にささやいてくれたりしました。娘たちは、森の中で、まるで宝物のように、みんなに大切にされて、育てられていました。

娘たちは、いろいろなものにやさしくすると、とてもいいことがあるということを、森のみんなに教わりました。お母さんと、森に育てられて、娘たちは、どんどんかしこく、美しく成長していきました。そしてふたりは、とても仲良く、いつもいっしょで、お互いのことがとても好きで、何をするにも、助け合っていました。

それは、ある、とても寒い冬の日のことでした。外には、しんしんと白い雪が静かに降っていました。お母さんは、暖炉の前の揺り椅子に座り、娘たちに本を読んであげていました。娘たちは、それぞれに、糸車を回したり、小さな襟巻を編んだりしながら、おかあさんの読む、昔のお話に耳を傾けていました。物語は、不思議な古いきれいなことばで書かれてあって、お母さんがそれを読むと、まるで歌のように流れて、二人の胸に静かに沈み込んでいきました。ゆきしろとばらべには、ときどき、ほうっとため息をつきました。お母さんの読んでくれるお話には、昔の人のきれいな知恵が、宝物のように隠れていて、それは真珠のような雫になって、二人の胸に、深くしみ込んでくるのです。それはそれは美しくて、本当にうっとりするほど、心がうれしくなるのです。

ゆきしろは言いました。「なんてきれいなお話なのかしら。つらいことがあっても、知恵があって、努力をすれば、ちゃんと立派なことができるって意味なのね」ばらべには言いました。「うん、わたしもそう思うわ。賢くなるためには、時々つらいことがあっても、逃げたりないで、ちゃんと自分で考えて、自分で工夫して、それでがんばってみなさいってことなのよ」
ふたりは、顔を見合せながら、お互いに同じことを感じていることが嬉しくて、微笑みながら、うなずきあいました。

そのときでした。誰かが、戸口を、とんとんとたたく音がしました。
「おやおや、こんな時分に、どなたでしょう。きっと旅の人だよ。この寒さの上に、雪に降られて困っているのだわ。ゆきしろや、ばらべにや、戸を開けておあげ」
おかあさんが言いました。ゆきしろとばらべには、戸口の方にかけていって、かんぬきをあげて、静かに戸を開きました。するとそこには、なんとまあ、それはそれは大きくて真っ黒な、一匹の熊がいました。
「おお、寒い、寒い。ゆきしろよ、ばらべによ、どうか中に入れておくれ。この寒さで、ぼくは胸まで凍りついてしまいそうだ」
熊はぶるぶると震えながら、言いました。

ゆきしろとばらべには、驚いて、最初は怖くて、逃げようとしましたが、熊の声が、それは優しく、きれいな声でしたので、少しほっとして、家の中に入れてあげました。
おかあさんは、暖炉の火の前の場所を開け、熊をそこに座らせてあげました。そして娘たちに言いました。
「ばらべにや、布を持ってきて、雪でぬれた毛皮をふいておあげ。ゆきしろや、山羊のミルクを、少し温めておあげ」
二人は、おかあさんのいうとおり、熊のぬれた毛皮を布でふいてあげ、温かい山羊のミルクを飲ませてあげました。熊は、毛皮はごわごわで、山のように黒くて大きくて、牙や爪などもとがっていて、様子はたいそう恐ろしくもありましたが、温かい暖炉の火や山羊のミルクで一息入れると、それはきれいな声で、何かしらやさしいことを言ってくれるものですから、三人は最初はちょっと不安だったのですけれど、少しずつ安心して、熊に気を許すようになりました。熊は、たいそう気の良い、親切な熊で、二人の娘たちに、にっこりと笑って、おもしろい話をしてくれました。

(つづく)



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今年の春

2012-04-26 13:12:13 | 花や木

もうそろそろ4月も過ぎようとしていますね。このたびの春に撮った花の写真もいっぱいたまってしまったので、今回一気に紹介してみたいと思います。
まず最初は、近くの海辺に咲き乱れている、ダイコンの群れ。わたしの小さなデジカメで、思い切りズームで撮ってみたのですけど、まあまあきれいに撮れました。



これは、ご近所の庭先に咲いていた、カジイチゴ。白い星みたいできれいです。夏になってくると、オレンジ色の小さないちごの実が生ります。



これも、近所の空き地でであったカラスノエンドウ。日に透けて、紅がきれいです。



おなじみの、ナガミヒナゲシ。花は小さかったけれど、きれいに咲いていました。野っぱらにともる、きれいな明かりみたいだなあ。温かい色ですね。



これはなんだろう。のいちごかな? わかりません。でもきれいなので、撮ってしまいました。なんだか、赤い不思議な実がなりそうだ。どんなものでしょう。



セイヨウタンポポ。草陰に咲いていました。影の中に咲いていると、タンポポ自身が光っているように見えますね。ほんとうに野っぱらの星のようだ。



最後は、キュウリグサ(だと思う)。こんな小さな花を撮るのは、結構今のデジカメくんでは難しいです。前のデジカメくんでは、もっと大きく撮れてたんだけどな。また買い換えるときは、そこのところ、よく調べておかないと。

まあ、カメラのことなんて、ほとんど何もわからないから、結局はみんなカメラまかせになるんだけど。今のデジカメくんもいい仕事をしてくれるし。長いことつきあっていきたいです。

もうすぐ五月。つつじが咲き始めますね。また花が撮りたまったら、ブログにあげたいと思います。

今年のわたしの箱庭お花畑でした。毎年おんなじ面々に見えるけれど、絶対に、去年とは違う花。今年も出会えてうれしかったなあ。



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ジョバンニとカムパネルラ

2012-04-26 07:13:08 | 薔薇のオルゴール

だいぶ前に描いた絵ですが。説明するまでもなく、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」から。
いつもの、一枚にふたりを描く構図です。ふたりの真ん中に見えるのは、一応、「さそりの火」のイメージ。

「月の世の物語」に、水晶球を地球各地に埋めに行くと言う話がありますが、実はあれは、この「銀河鉄道の夜」にあった、ある一節がヒントだったりします。こう言ってすぐにわかる人はいるかな?

   *

 さきに降りた人たちは、もうどこに行ったか一人も見えませんでした。二人がその白い道を、肩を並べて行きますと、二人の影は、ちょうど四方に窓のある室(へや)の中の、二本の柱の影のように、また二つの車輪の輻(や)のように幾本も幾本も四方へ出るのでした。そして間もなく、あの汽車から見えたきれいな河原に来ました。
 カムパネルラは、そのきれいな砂を一つまみ、掌(てのひら)にひろげ、指でぎしきしさせながら、夢のように云っているのでした。
「この砂はみんな水晶だ。中で小さな火が燃えている。」
「そうだ。」どこでぼくは、そんなことを習ったろうと思いながら、ジョバンニもぼんやり答えていました。
(「銀河鉄道の夜」宮沢賢治)

   *

なぜかしら、この一節が、昔から忘れられず、何となく、いつの間にか、月の世の物語に忍び込んできました。

宮沢賢治には、今もいろいろなことを学んでいます。一番大事なことは、自分の好きなように書くのが一番いいことだと、習ったことかな。

上手に書くよりも、自分の気持ちに快い言葉で書くのが、一番いいことだと。

賢治の童話の文章は、美しいけれど、上手い、というものではありません。文章の上手な作家はほかにもたくさんいる。技術の長けた人は、たくさんいる。でも、賢治のことばの美しさには、上手さとか、技術ではない、何かが、まさに、水晶の中の火のように、灯っている。

大切なのは、その光なんだ。

水晶の砂の中に燃えている火は、何の火でしょう? わかるような気がする。でも今は、言わないでおきましょう。いつかきっと、誰にでもわかる日が来ると思うから。




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