「そして八月三十日の午ごろ、わたくしは小さな汽船でとなりの県のシオーモの港に着き、そこから汽車でセンダードの市に行きました。三十一日わたくしはそこの理科大学の標本をも見せて貰うように途中から手紙をだしてあったのです。わたくしが写真器と背嚢をたくさんもってセンダードの停車場に下りたのは、ちょうど灯がやっとついた所でした。」
宮沢賢治「ポラーノの広場」より
センダード駅に隣接する高層ビル内のクリニックでの人間ドックを終えた僕は、商業ビルの自由通路の飾られた大きなツリーに見送られるようにして帰路についた。
パルコ前のものも撮影するつもりだったが、あまり美しくなかったので、ホテルメトロポリタンのロビーまで足を延ばし、そちらを写真に収めている。
「クリスマス・ツリー」(1968年)、悲しい映画。
グレーのスーツにキャンディ・ストライプのシャツ、レジメンタル・ストライプのタイ
足しげくライブに通った(いや、皆勤した)ブルー・トニックのテレビ番組出演時の映像が最近再度、違法アップロードされているのに気付いた。
何度か書いたが、1984年の後半はブルー・トニック&ザ・ガーデンのライブへ着飾って踊りに行くのが最高の楽しみだった。ひょっとすると、生涯で一番楽しかったのかもしれない。
バンドはその年の暮れにわずか半年で解散、87年にバンド名をブルー・トニックと改め、メンバーチェンジも行なって再デビューする。ライブ会場が渋谷から六本木や芝浦に移ったせいもあって、メンバーも客もさらにおしゃれになった。
結局、二枚のスタジオ録音アルバムと12インチシングル2枚、それに解散ライブを収めたライブアルバムを残してブルー・トニックは89年4月に解散する。
僕らは一つのバンドが始まる前から終わりまでを見ることとなった。
リーダーだった井上は現在、ソロ活動のかたわら佐野元春や布袋、桑田佳祐などのバックでベースを弾いており、スタジオミュージシャンとして、サポートメンバーとしてひっぱりだこの存在だ。たまにテレビで見かけると、同い年だけに、ちょっと嬉しい気分になる。
後ろにしっかり居る
今年もまた人間ドックを受検した。
昨年と同じ日に設定したことで、データとしては確実この上ない。
県都のJR駅に直結する高層ビルにテナントとして入居しているこの最新のクリニックは、システムもホスピタリティも面白く、学ぶことも多々ある。
とはいえ、健康に留意することが、ゴルフやカラオケと同じくらい「ロックじゃない」イコール、ダサい、とひそかに考えている僕が毎年、きちんきちんと人間ドックを受検するにはそれなりの理由がある。
ご存知の方も多いと思うが、経営者の多くは自身に万が一のことがあった時のために、銀行借入残高を目安にした経営者向け生命保険に加入している。
その保険は大半が年々保障額が目減りして行くため、借入額が思うようにシンクロせず減らなかったり、逆に事業が拡大して借入額も増えた場合などは本数を追加することになる。
その加入に際して、保険会社の事前査定を健康診断か人間ドックの結果表扱いとすることができるのだ。
自分のためでなく、いわば周囲のため、と思えば我慢できることもある。
この一年、食事量の調整や毎日のウォーキングなど、自分なりによく努力した。いい数値が出てくれることを心から願う。
10代からプレッピー、アイビーボーイを自任していた僕だが、大男な上に老け顔だったため、自分にはピーコートやダッフルコートのような可愛いアイテムは似合わない、と決めつけて、とうとう着なかった。
その代わり、ベージュ(カーキ)やネイビーブルーのコットン地のステンカラーコートは大のお気に入りで、今なお秋になるとよく着る。
ところが今年は暑い夏がやっと終わるとすぐ、冬が来てしまった。
まだブルックス・ブラザーズの素敵なハーフコートを一回と、ロングコートを一回、着ただけだというのに。
今日はこの街でも雪がちらちら降り、もう厚手のオーバーコートでないと、景色に不釣り合いだ。
地球温暖化の影響で、来年以降もこんなカンジだろう。
こうして僕がステンカラーコートを楽しく着る機会がなくなって行くのは、残念だな。
ステンカラーコートは和製英語。
諸説あるが、スコットランドの地名が由来のバルマカーンコートが正式名称と言われている。バルカラーコートはその略称だ。
(ここはさほどこだわらなくてもいい、と個人的には思っている。)
学生時代のアルバイトとして廃刊寸前のロック雑誌にレコードレビューを書いて以来、駄文を書き散らかしてきた。
思い返してみると、片田舎に住んでいた十代の頃から、一番書きたかった題材はクリフォード・オデッツ(劇作家)だった。
彼の戯曲と映画化作品を全部観て読んで、評論を書きたかった。
僕はオデッツの作品に魅了されていた。
結果として、「悪徳」や「喝采」、「成功の甘き香り」など、一部ではあるけれど実際に書いて、とても満足している。
これから書いてみたいのは、人物スケッチのようなもの。
トルーマン・カポーティの「観察記録」のような。
「観察記録」は、写真家リチャード・アヴェドンが撮影した有名人のポートレートにカポーティが珠玉の文章を添えた、アヴェドン初の写真集だ。
カポーティの文章はのちに自著「犬は吠える」に収録され、現在日本国内では「ローカル・カラー/観察記録」と「詩神の声聞こゆ」に二分冊されている(上の写真)。
できるかな?無理かな?
ピカソ
ボギー
マリリン