今日はNPO法人なごやかの理事長の元を、夫君の転勤でやむなく退職された元管理者が訪ねてきている。
理事長はとても喜び、話が弾んでいた。
「あのころは会社が小さくて、僕ら家族のようなものだった。そしてきみたちはいつもガンコで大真面目で、とにかく一生懸命だった。
そういえばずいぶん前に、こんなことがあった―ご家族様や官公庁、外部の方へお渡しする封筒やクリアファイルは未使用のきれいなものにしましょう、と月例管理者会議で僕が指示した。
というのも、そこに気を遣っていない会社が結構あって、たとえば大手の生命保険会社などから送られてくる契約書類なども、かなりの頻度で薄汚れたクリアファイルに入っている。
これは本当に興ざめだ。
そこを、当法人だけでもしっかりしましょう、と。
職員たちが備品を大切にしてくれているのはよくわかるけれど、あまりに汚れているもの、傷んでいるものは、誤まって外部に出てしまうのを防ぐためにも、管理者が(かさばらないよう)切って捨ててほしい、と話した。
そのあと少ししてグループホームシグナレスを訪ねたところ、事務室からパチンパチンと音がする。
なにかと思ったら、きみの後任のN管理者が古いクリアファイルを5センチ角ほどに細かく切っていたんだ。
僕は思った、ヘタに冗談を言ったらきみたちは真に受けてそのとおりに遂行しようとするだろうから、よほど考えてから口にしないとな、とね。」
ひとしきり笑ったあと、元管理者が言った。
「私、今の職場でも、外部へ出るクリアファイルはこっそり新しいものに交換しています。理事長がお話しされるように、あまりそこに気づいている方は周りにいませんが、受け取った相手がどう感じるか、考えられる職員でありたいと思っています。」
そう、今もそうしてくれているの。理事長は柔和な笑みを浮かべ、うなずいた。
「ひょっとすると、それは僕がきみに教えることができた、たった一つの有意義なことかもしれないね!」
歓談は尽きることがないようだった。