「ある時僕は高額な輸入住宅の建設を受注した。
市内でも山深い田園地帯になぜ、とは思ったけれど、そこは口を出すべきところではない。
併せて着工前に、施主さんが住んでいる築80年以上の住宅の解体をも依頼された。
その家に出入りしていた気取った植木屋が話をさっそく聞きつけ、どのように解体するのか、解体したら材料を無償で譲ってくれないか、と何度も連絡してきたが、僕は言を左右して答えなかった。あつかましい男だ。
以前から興味はあったものの、古民家の解体は初めてだった。
そのため自称古民家解体のプロだという同業者から経験談を事前に聞き取って工程表を作成し、助力も頼んだ。
そして迎えた当日、瓦屋根はなんとか落としたものの、かつて中二階で養蚕を行なっていたというその家は、建具や壁材を取り外すたび我の死骸が大量に出てきて、僕は内心震え上がっていた。材料にびっしりこびりついたすすも、想像以上に汚かった。
ほこりだらけ、すすだらけになった大工たちが気の毒になった。
翌日、僕は重機(パワーショベル)を呼ぶと、ハサミ(フォーク)でつかんで一気につぶしてしまうよう命じた。
ものの1時間もしないうちに建物は形がなくなった。
さらに重機のアームの先(アタッチメント)をショベルに付け換えて大きな穴を掘らせ、そこへ残材をすべて押し込んで火をつけた。
巨大な炎と黒煙を見つけて地区の消防団が駆けつけたけれど、よそ者の僕らに遠慮したのか声をかけず、消防車でぐるぐると現場の回りを走り続けていた。
『ふん、あまり回ると(「ちびくろサンボ」の虎のように)バターになっちまうぞ。』
昨日から気が立っていた僕は腹の中で毒づいた。
職人たちもまた、全身から殺気を放っている僕を遠巻きにして眺めるだけだった。
後日、あの材料はどうなりました、と事務所を訪ねてきた植木屋に尋ねられ、全部燃やしましたよ、とあっさり告げた際の彼のなんともいえない表情が忘れられない。
この一件で、自分はとても短気なのだと再認識した。
これは20年以上昔の出来事なので、時効ということにしてほしい。
廃棄物処理法でゴミの野焼きが違法とされる前だ。
でも、消防法ではもう違法行為だったかもしれないね、、。」