まだサラリーマンになりたての頃、会社の近くに住んでいた同僚から、アルバイトの学生たちと自分の家で飲み会をするからお前も来い、と誘われた。面倒なので断ると、総務部で日ごろアルバイトや派遣社員の困り事処理に当たっているお前が来なきゃダメでしょう、と周囲に聞こえるような大声で言うので仕方なくついて行った。
ところが、食材を買いにコンビニへ入ると、そいつは声を潜めて僕に言った、「コンビニで2千円以上買い物をする女の子とは結婚したくないよな。」
店のほとんど斜め向かいに中型スーパーがあった。
誰が聞いているかわからないので返答せず受け流したのだが、その言葉は妙に頭に残った。
のちに娘にも、昔そんなことを言っていた同僚がいたよと話したが、私はないから大丈夫だよ、と一笑に付されている。
コロナ禍の中で、ある日突然、自室と事務所以外立ち入り禁止になってしまったことがある。
あわてて買い物リストを書き、当座の食料を近くのコンビニへ買い出しに行った。
「1880円になります。」
お、かろうじて限度内だったな、危ね~、と胸をなでおろしたあとで、こんな非常事態にもかかわらず、元同僚の一言にこだわっている自分が可笑しかった。
三日後、やや気持ちが落ち着いた僕はエコバッグと、前回の買い物リストを持ってスーパーへ出かけた。
商品をあわあわなりながらなんとかセルフレジへ通すと「合計1360円」と画面に表示された。あれ、何か買い忘れたっけ?
店を出た後にレシートを確認したが、点数は前回と同じだった。
あの元同僚は、はたして堅実なパートナーを見つけることができただろうか。