サー・ジョン・フォルスタッフ:われわれはかつて真夜中の鐘を聞いたものですな、シャロー君。(シェイクスピア作「ヘンリー四世第二部」より)
「荒野の七人」をリメイクした「マグニフィセント・セブン」は、予想に反してそこそこ楽しめた。
たぶん、作りが雑なせいだと思う。それでかえって気楽に観れた。
無謀な戦いにあっさり加わるメンバーの動機づけの弱さに、おいおい、大丈夫か、これじゃあ大津波でも来たら我先にと逃げ出されるぞ、と内心ツッコミを入れたりしたが、物語は淡々と進み、あっさり終わった。
イーサン・ホークが「荒野」のロバート・ボーンとブラッド・デクスターを受け継いだキャラクターで、ボーンと同じPTSD。
この二重写しの苦悩に、暗闇で泣けた。
「恋人までの距離(ディスタンス)」三部作に主演しているホークは脚本や小説も書くうえ監督までこなす異才だ。
またシェイクスピア作品を現代に置き換えた「ハムレット」(2000年)と「アナーキー」(2014年、原作は「シンべリン」)にも主演している。
劇中、旧知の仲という設定のホークと七人のリーダーのデンゼル・ワシントンが再会するシーン、ハグして言い放つのが、冒頭に掲げた台詞である。
ひょっとすると、ホークの台詞は自分で書いたのかもしれないな、と思った。
「オーソン・ウエルズのフォルスタッフ」(1966年)より
理事長はアイディアマンだったが、時には思ったように事が進まないこともあった。
例えば―平成23年9月にやまねこデイサービスを再建すると、大震災後のノウハウを使い、元々事業所があった隣町に民家改修型の、定員6名の小規模デイサービス、くらかけデイサービスを開設した。
NPO法人なごやかはその成り立ちから隣町在住の職員が多く、事業所が流失したことによってK市までの通勤を余儀なくされていた。
この事業所開設は、その負担軽減と雇用維持のための時限措置なのは、私たちの目からも明らかだった。
民家改修型と書いたが、大家さんが生活している普通の住宅の一部をそのままお借りして月曜から金曜までデイサービスを行なうという、大げさに言うと前代未聞の破天荒なスタイルだった。
しかし、そんな理事長の心遣いと大家さんのご厚意に当の職員たちは気づくこともなくただ漫然と月日を過ごし、結果、事業所は一度も収支が合うことなく二年で幕を閉じた。
職員の大半はK市内の事業所への異動を受け入れず退職し、どこか別の法人に勤めている。
たまに泣き言めいた携帯メールやLINEを送ってくる元職員もいるが、私は関わっている暇もないのでほぼスルーだ。
「親の気持ち子知らずだな」
普段は柔和な理事長が珍しくつぶやいたのを聞いた私は、労使の物事の捉え方の違いと、いざという時に信頼するに足る人間や恩義を知る人間がいかに少ないかを、この件を通してはっきりと見たような気がした。
(つづく)