ミューズの声聞こゆ

なごみと素敵を探して
In search of lovable

このたびの東日本大震災で被災された多くの皆様へ、謹んでお見舞い申し上げます。

大震災直後から、たくさんの支援を全国から賜りましたこと、職員一同心より感謝申し上げます。 また、私たちと共にあって、懸命に復興に取り組んでいらっしゃる関係者の方々に対しても厚く感謝申し上げます。

姉弟子

2017年08月22日 | 珠玉

  私が長年通っている日舞の会は、師匠のお父様、夫君が二代続いてTH大工学部の教授を務められており、三代続く国会議員Iさんのお嬢さんも在籍していることから、他の会から一目置かれていた。
「お弟子さんたちはハイソな方々ばかりでしょ?いろいろ大変ね」とよく言われるが、それは誤解で、私のような普通のOLでも快く入れていただいてのびのびとお稽古に励むことができていたし、姉弟子もみな揃って気さくな奥様方だった。
もちろん、何かと物入りなのは確かだ。
名取になってからは特に、お給料のほとんどを月謝や観劇代などに費やしていた。
でも、それくらい私は日舞が好きだった。

  遠方への転勤で会を離れている一番弟子の方が久しぶりに浴衣会のお稽古を見学にいらした。
とても可愛がっていただいた姉弟子だったので、私は隣に座ってあれこれ話しかけた。
真千園さん(私たちはお互い芸名で呼び合うのだ)、あちらでは踊ってらっしゃるのですか?
ううん。私はこの藤園会ですべてを学んだの。
だから、別のお師匠さんについてまで踊ろうとは思わない。
この会も、みんなも、大好きだったから。
なんだか違うなって思えて。
いつもは広いお稽古場の上座に厳然と着座している高齢の師匠が、ハンカチを取り出した。
―お姉さんたら、お師匠さんを泣かせて。
たぶん師匠も心の奥ではそれを望んでいたのだろう。
本当に師匠孝行な姉弟子だ。
かく言う私も彼女同様に、この会を心から誇りに思っている。
私もきっとそうするだろう。

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離園

2017年08月18日 | 珠玉

  ずいぶん前に千厩ぽらんで起きた離園事故を、時々思い出す。
気仙沼からホームまで35分。
管理者からの連絡を受けて車を飛ばしながら、周囲の地形や当該利用者のADLなどを繰り返し頭の中で反芻した。
到着後まもなく、園庭下の沢道でうずくまっているのを発見して事なきを得たのだけれど、あの出来事はそのあと利用者を背負ってホームへ戻った際の、安堵した管理者の愛らしい泣き笑い顔とともに、一生忘れないだろう。
あのころは事業所も少なくて、自分が行けば必ず見つけるという自信があった。
 ところがここ二回ほど続いた離園事故では、どちらも捜索に加わったものの、それができなかった。
もちろん、誰が見つけようと無事であればいいのだろうが、内心ややショックだった。
別事業所のI管理者へそう話したところ、このように事業所が増え、利用者様も職員も大勢になっては仕方ありませんよ、と優しく慰められている。
 その二日後、さらに別のホーム近くを通りがかると、居室から消えた男性利用者を探している職員の車に出くわした。
そのまま捜索に加わり、計3台で手分けして30分ほど探していると、運よくその方の姿を見つけた。
ああ、よかった、と胸をなでおろすと同時に、当法人が引き受けたすべての利用者について、以前のように自信が持てるくらいよく知ろう、親身になろう、と改めて強く思った。

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エクスカリバー

2017年08月17日 | 珠玉

  先日、他法人の職員さんから、市内でぽらんさんの活動車を見ない日はないのですが、なぜナンバーが8000番なのですか?と尋ねられた。
「アーサー王のエクスカリバー(魔剣)のようなものかな。
それがあれば絶対に負けない、という。
個人的な思い込みだけどね。」




ニューフェイスです。

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ニックネーム

2017年08月16日 | 珠玉

  同い年の男性職員から、頼みがあると言われて、何かと思いきや、きみをニックネームで呼ばせてくれないか、という突拍子もない申し出だった。
私たちは同僚で、仕事仲間でしょ、それにNPO法人なごやかは、同僚同士は職位で呼び合うことが不文律になっているわよね?
彼は顔を赤くしてもじもじしながら言った。
こないだきみの元同僚のナースがホームに来て、きみをマッチ(私の名は真千子だった)と呼んでたじゃない、その響きがすごくよかったので、僕もそう呼んでみたいなあって思ったんだ。ダメかな。
いいけど、あのひとくらいよ、私をそう呼ぶのは。
じゃあ、あなたのことは何て呼べばいいの?
彼はさらに赤くなった。考えてもいなかったらしい。
僕はそういう柄じゃないから。
  あれから一週間が過ぎたけれど、彼からは一度もニックネームで呼ばれていない。
たぶん、そういう柄じゃないのだろう。
私の視線に気がついたのか、彼はそそくさとホールから逃げ出して行った。

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ピグマリオン③

2017年08月15日 | favorite songs

  アルバムのヒットを反映して、ソフィーのツアー会場はどこも大盛況だった。
気をよくした彼女は、きびきびとしたステージアクションを見せてくれた。
エドは彼女のかつての大ヒット曲をアレンジし直してエンディングやアンコールに置いた。
それがまた観客にはウケた。
会場は次第に大きくなり、野外フェスティバルの大トリに呼ばれることすらあった。
  そのうちに何かが変化し出した。
メンバーはソフィーのバックバンド扱いになり、彼女の夫のリッチがあれこれ口を出すようになっていた。
ソフィーの成功を導いたエドにはプロデュースの話がいくつか届いており、潮時かも、と感じた彼は自分のレコーディングをも理由にしてツアーを降りると宣言した。
彼の後任は、リッチのバンドのキーボーディストが務めることにほどなく決まった。
妻のジータはそのままバンドに帯同したが、時々ホテルからソフィー夫妻の専横ぶりへの泣き言をメールで知らせてきた。
ツアーは遠くロシアやポーランドにまで及んだ。
妻からはBBCでソフィーが番組まるごと生で歌う企画が近々収録されると聞いたが、結局彼には声がかからなかった。
  放送日当日、迷いながらもエドはソファに座ってテレビを点けた。
ハイヒールでステージ狭しと歌い踊るソフィーは相変わらず素敵だった。
そして曲は確かに自分が書いたものだ。
エドはテレビを消すと画面に向かって古い映画のセリフをつぶやいた、
「イライザ、僕のいまいましいスリッパはどこだい?」







                                                              (おわり)
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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