寝る前に少しずつ読み進めているデュマの『モンテ・クリスト伯』、もう何度目かの再読なので、ストーリーは頭に入っています。その分、復讐の布石が着々と打たれていく様々なエピソードが興味深く感じられます。
たとえばマクシミリヤン・モレルを愛しているヴァランティーヌ。ヴィルフォールと先妻の娘ですが、ヴィルフォール自身の告白によれば、エドモン・ダンテスを冤罪に落とすまでは良かったが、あの後は辛く苦しい日々だった、とのこと。様々な秘密を暴く可能性のある敵を封じることに汲々として、検事総長という現在の地位を築いたのでしょう。もっとも、これを告白した相手が、結婚早々に不倫をはたらいた相手のナルゴンヌ侯爵未亡人こと、現ダングラール夫人なのですから、何をかいわんや、ですが。
さて、中風で寝たきりとなったノワルティエ老人が、孫娘ヴァランティーヌを、父ヴィルフォールの押し付ける結婚から救おうとしてとった措置は実に興味深いものです。公証人を前にまばたきによってその意思を示し、老人のかつての政敵の息子であるフランツ・デピネー男爵と結婚するのならば、90万フランの遺産を相続させないと遺言するのです。まばたきでイエスとノーを示すことができれば、意思の表明は可能だという可能性は、現代のコンピュータ技術により、まばたきを通じて意思を表明し会話することができる装置に結実していますね。
さて、義父ノワルティエ老人の措置は、継娘の死後に溺愛するアホ息子エドゥワールへの相続につながる可能性を示し、ヴィルフォール夫人にとっても重大な関心事でした。実は全く逆の目的で、夫人はヴァランティーヌとデピネー男爵との結婚に反対するのです。
印象的なエピソードの一つ、信号機の事件の章には、ほろ苦い味があります。園芸を趣味とし生きがいとする初老の男の小市民的な平和の前に示された、ただ一度の不正という誘惑。このあたりは、一時は巨額の財産を持ち、後にそれを蕩尽した作者の身辺で見かけた風景なのかもしれません。
銀行家ダングラールは、夫人が内閣情報官リュシアン・ドブレーと組んで行っていたインサイダー取引による投機の失敗で手ひどい打撃を受けます。損失を取り返そうとあせるダングラールに与えられたチャンスは、オートゥイユの家で紹介された詐欺師カヴァルカンティ侯爵父子(?)でした。
かつてヴィルフォールの義父サン・メラン侯爵の持ち家であったパリ郊外のオートゥイユの家では、豪華な晩餐会が行われますが、そこでモンテ・クリスト伯はヴィルフォールに対して、庭に赤ん坊の死骸が埋めてあったと告発します。告発を受けた検事総長ヴィルフォールこそ、実は未遂に終わった嬰児殺しの犯人であり、出産した母こそかつてのナルゴンヌ侯爵未亡人であり現在のダングラール夫人でした。この夫人の不誠実・不行跡も、唖然呆然愕然級のしろものですが、それを承知で金儲け一筋の銀行家ダングラールもやっぱり悪党です。そして、ベネデットもカドルッスも悪党ですね。
だが、ヴィルフォールは重大な決意をします。かつて自分が嬰児を埋めた箱は持ち去られていた。だから、モンテ・クリスト伯が発見するはずがないのです。モンテ・クリスト伯とは何者なのか、検事総長は自らの権力にかけてその正体をあばくことを誓うのでした。
【追記】
全14回の記事にリンクを追加しました。
(1), (2), (3), (4), (5), (6), (7), (8), (9), (10), (11), (12), (13),(14)
たとえばマクシミリヤン・モレルを愛しているヴァランティーヌ。ヴィルフォールと先妻の娘ですが、ヴィルフォール自身の告白によれば、エドモン・ダンテスを冤罪に落とすまでは良かったが、あの後は辛く苦しい日々だった、とのこと。様々な秘密を暴く可能性のある敵を封じることに汲々として、検事総長という現在の地位を築いたのでしょう。もっとも、これを告白した相手が、結婚早々に不倫をはたらいた相手のナルゴンヌ侯爵未亡人こと、現ダングラール夫人なのですから、何をかいわんや、ですが。
さて、中風で寝たきりとなったノワルティエ老人が、孫娘ヴァランティーヌを、父ヴィルフォールの押し付ける結婚から救おうとしてとった措置は実に興味深いものです。公証人を前にまばたきによってその意思を示し、老人のかつての政敵の息子であるフランツ・デピネー男爵と結婚するのならば、90万フランの遺産を相続させないと遺言するのです。まばたきでイエスとノーを示すことができれば、意思の表明は可能だという可能性は、現代のコンピュータ技術により、まばたきを通じて意思を表明し会話することができる装置に結実していますね。
さて、義父ノワルティエ老人の措置は、継娘の死後に溺愛するアホ息子エドゥワールへの相続につながる可能性を示し、ヴィルフォール夫人にとっても重大な関心事でした。実は全く逆の目的で、夫人はヴァランティーヌとデピネー男爵との結婚に反対するのです。
印象的なエピソードの一つ、信号機の事件の章には、ほろ苦い味があります。園芸を趣味とし生きがいとする初老の男の小市民的な平和の前に示された、ただ一度の不正という誘惑。このあたりは、一時は巨額の財産を持ち、後にそれを蕩尽した作者の身辺で見かけた風景なのかもしれません。
銀行家ダングラールは、夫人が内閣情報官リュシアン・ドブレーと組んで行っていたインサイダー取引による投機の失敗で手ひどい打撃を受けます。損失を取り返そうとあせるダングラールに与えられたチャンスは、オートゥイユの家で紹介された詐欺師カヴァルカンティ侯爵父子(?)でした。
かつてヴィルフォールの義父サン・メラン侯爵の持ち家であったパリ郊外のオートゥイユの家では、豪華な晩餐会が行われますが、そこでモンテ・クリスト伯はヴィルフォールに対して、庭に赤ん坊の死骸が埋めてあったと告発します。告発を受けた検事総長ヴィルフォールこそ、実は未遂に終わった嬰児殺しの犯人であり、出産した母こそかつてのナルゴンヌ侯爵未亡人であり現在のダングラール夫人でした。この夫人の不誠実・不行跡も、唖然呆然愕然級のしろものですが、それを承知で金儲け一筋の銀行家ダングラールもやっぱり悪党です。そして、ベネデットもカドルッスも悪党ですね。
だが、ヴィルフォールは重大な決意をします。かつて自分が嬰児を埋めた箱は持ち去られていた。だから、モンテ・クリスト伯が発見するはずがないのです。モンテ・クリスト伯とは何者なのか、検事総長は自らの権力にかけてその正体をあばくことを誓うのでした。
【追記】
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