電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

デュマ『モンテ・クリスト伯』を読む(10)~ヴィルフォール家の秘密

2006年12月10日 10時32分34秒 | -外国文学
少しずつ読み進めてきた集英社版世界文学全集の松下和則・彩子訳『モンテ・クリスト伯』の第二巻がいよいよ大詰めです。休日を利用して、一気に読み進めることができました。

モンテ・クリスト伯の正体に疑問をいだいた検事総長ヴィルフォールは、謎の大金持モンテ・クリストに関する情報を集めます。船乗りシンドバッドと呼ばれるイギリス人ウィルモア卿やイタリア人のブゾーニ神父らの証言により、マルタ島生まれの青年ザコーネが銀鉱を発見し大金持になった経緯が明らかになり、当面の敵という認識はやわらぎますが、どうもまだ落ち着かないようです。

モルセール伯の舞踏会において、夫人メルセデスは、モンテ・クリスト伯が決して食物を口にしないことに気がつきます。メルセデスはそれを確かめようと、モンテ・クリスト伯を温室にいざないます。ブドウも桃も、彼はかたくなに辞退し、決して口にしようとはしません。息子アルベールがモンテ・クリスト伯を尊敬する様子を身近に知るだけに、エドモン・ダンテスの悲劇の真実を知らないメルセデスは、かつての婚約者として悲しみ、アルベールの母親として恐れます。

いっぽう、ヴィルフォールの家では、不幸の種子が芽を出し、棘のつるを家中に伸ばしていました。まずサン・メラン侯爵が急死します。孫娘ヴァランティーヌの幸福を願う侯爵夫人はフランツ・デピネー男爵との結婚を急がせますが、夫人もまた急死。診察したダヴリニー医師は、屋敷内に毒殺犯人がいると警告しますが、ヴィルフォールはひた隠しにして手を打ちません。このあたりも、「他人には法の正義、自分には都合」を優先するヴィルフォールの性格が現れています。

マクシミリヤン・モレルを愛するヴァランティーヌは、父と祖母が命じたフランツ・デピネー男爵との結婚に窮地に陥りますが、不随のノワルティエ老人の劇的な暴露により父の死の真相を知ったデピネー男爵は憤然として去り、辛くも危機を脱します。このあたり、革命から帝政、そして王政復古へと変動するフランス政治の激動期にあって、一貫して揺れ動くことのないノワルティエ老人のすごさが浮かびあがります。

そして、もう一人の敵フェルナンが成り上がったモルセール伯にとって致命傷となる最悪の知らせが東方より届きます。問い合わせたのは、娘ウージェニーの嫁ぎ先をアルベールからカヴァルカンティ子爵に変更するため、父モルセール伯を陥れようとしたダングラールでした。もちろん、それらの情報の出所はただ一つ、ねらいが復讐にあることは言うまでもありません。でも、モルセール伯を狙った砲弾は、メルセデスとアルベールの生活をも破壊せずにはいられないのです。

これで、全集版第2巻の終わり。以後は、第3巻において急展開します。


【追記】
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