電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

ベートーヴェンの交響曲第9番を聞く~セルとクリーヴランド管ほか

2006年12月26日 21時11分03秒 | -オーケストラ
今年の映画で印象的だったものに、「バルトの楽園」があります。第一次大戦で捕虜になったドイツ人たちが、四国徳島の坂東捕虜収容所でベートーヴェンの「第九」を演奏する記録物語です。

私がLPレコードでベートーヴェンの交響曲第9番をはじめて聞いたのは、たぶんカール・ベーム指揮ウィーン交響楽団の演奏による廉価盤で、フィリップスのグロリアシリーズ(FG-9)だったと思います。1950年代のベームの演奏は熱気が感じられましたが、いかんせん音がモノラル録音を擬似ステレオ化したもので、とくにヘッドホンで聞くことの多かった学生時代には、頭の中で音が揺れるようで、どうもいま一つの印象でした。

その後、だいぶ苦労してジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団のLP全集を購入し楽しみましたが、やがてCDの時代になり、同じセルとクリーヴランド管のデジタル・リマスター版を購入することに。さらにムーティ盤やマズア盤など、いくつかの「第九」の演奏が集まりました。

第1楽章、アレグロ・マ・ノン・トロッポ、ウン・ポコ・マエストーソ。歯切れの良いリズムと速いテンポが、強い緊張感を感じさせます。たっぷりとヴィヴラートをかけた演奏というよりは、速いテンポでも正確に弾ききることを求めた演奏なのでしょうか。
第2楽章、モルト・ヴィヴァーチェ。セルとクリーヴランド管の特質が見事に現れた例が、この第2楽章かと思います。速めのテンポにもかかわらず驚くほど軽やかで精妙なリズム、それでいて全曲を貫く緊張感が弛緩することはありません。

CDでありがたいと思ったのは、LPだと第3楽章の途中でB面に裏返さなければならないという制約から逃れることができたことです。立派な演奏であればあるほど、緊張感が途切れないように聞きたいと願うのは自然なことでしょう。特に、セル盤の第三楽章は、アダージョ・モルト・エ・カンタービレの指示通り、おそいテンポで緊張感にみちた素晴らしい音楽になっています。この楽章だけ思わず聴きなおしてしまうほどです。それだけに、途中でひっくり返す必要がないというのはありがたく、デジタル技術の恩恵を感じるところです。

第4楽章、管弦楽の立派さはもちろんですが、バリトンのドナルド・ベルをはじめ、テノールのリチャード・ルイス、ソプラノのアディーレ・アディソン、メゾ・ソプラノのジェーン・ホブスンの四名の独唱者がいずれも素晴らしい歌唱。トライアングルと競い合うように歌われる人間の声は、ほんとに素晴らしいです。そしてロバート・ショウ指揮クリーヴランド・オーケストラ合唱団。セルの要求する緻密で切れの良いリズムによくこたえた、きわめてレベルの高い合唱であると感じます。



ムーティ盤は、現在通勤の音楽で聞いておりますが、まだコメントできるほど内容を整理できておりません。ぱっと聞いた感じでは、非常にゆったりとしたテンポで、堂々とした音楽になっているようです。

面白いな、と思うのは、第四楽章の声楽が入るところのテンポです。サヴァリッシュ盤(*)も含めた3種の演奏とも、いずれも計24分強となっています。この理由は、たぶん歌う人間の肺活量は、極端なテンポを指定されても、それに応えることができないのかもしれない。いわば、生理的な条件によって制約され、妥当なところに落ち着かざるをえないのかな、と思います。

■セル指揮クリーヴランド管
I=15'34" II=11'23" III=15'20" IVa=6'10" IVb=17'56" total=66'33"
■ムーティ指揮フィラデルフィア管
I=16'25" II=14'42" III=14'09" IVa=6'42" IVb=3'39" IVc=14'09" total=69'46"
■サヴァリッシュ/チェコフィル(LD*)
I=15'48" II=11'51" III=14'05" IV=24'22" total=66'06"

(*):サヴァリッシュ指揮チェコフィルの「第九」を聞く

写真は、セル盤と「第九」第四楽章の合唱用楽譜です。以前、山響と第九を歌うチャンスがあり、いさんで申し込んだのですが、仕事で急に渡米することになり、あえなく断念。いわば、そのときの「残念記念品」です。
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