goo blog サービス終了のお知らせ 

電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

藤沢周平『人間の檻~獄医立花登手控え(4)』を読む

2007年10月09日 06時26分54秒 | -藤沢周平
藤沢周平の立花登シリーズ全4巻中の最終巻、『人間の檻~獄医立花登手控え(4)』を読みました。おあきの危難を救い、旅立つ登とおちえとの約束を描きます。

第1話「戻って来た罪」、子どもをさらって殺す事件の裏に隠れていた30年前の出来事。事件そのものよりも、叔父の小牧玄庵の描き方がいかにも面白い。

叔父は極めつけの俗物で、つねに金持ちの商人、または名の聞こえた武家屋敷からお呼びがかかるのを待っているのだが、大金を懐に叔父の診療を乞いに来る病人は皆無で、寄りあつまって来るのは、大概が薬代の払いにも事欠く裏店の人びとである。勢い数でこなすしかないから、往診のもとめにもマメに足を運ぶというだけに過ぎないのだ。
しかし俗物根性というのは頭の中のことで、手は医者の本能にしたがって別に働く。払いが悪いからと、かりにも手を抜くようなことはしないから、叔父の評判がいいのも一面、真実を伝えてはいる。

俗物の叔父も世の人のためになっているという現実認識。こういった描写は、世間というものをよく知った人の描き方だと感じます。
第2話「見張り」、牢内で押し込みの相談をして行った奴がいる。女房の養生と遊び心で、酉蔵は見張りを引き受けた。どうやったら仲間から疑いを受けずに酉蔵を抜けさせることができるのか。
第3話「待ち伏せ」、叔父が倒れて、おちえは初めて不安を感じる。けちな盗癖のある父親・馬六の娘おかつは、多田屋の後添にと望まれるが、父親のことが心配だ。だが、多田屋の中で、馬六は昔なじみの男を見つけた。
第4話「影の男」、「甚介は無実だ」と男は言う。それは、自分に疑いがかからないための工作だった。知能犯に足がついたのは、女だった。
第5話「女の部屋」、大黒屋のおかみ・おむらが店の中で槌屋に襲われそうになり、手代の新介が槌屋を殺してしまう。新介はおむらを思慕していた。そして、寝たきりの大黒屋は真相に気づいていた。
第6話「別れ行く季節」、黒雲の銀次の弟が、おあきをさらい、うらみを晴らそうと登に呼出状を突き付けて来た。今は豆腐屋のおかみとなっているおあきは、かつておちえと登を争った娘だった。おあきの危難を救い、医学修行のために大阪に旅立つ登に、おちえは約束をしてほしいと願う。おちえの言う約束とは、娘にできる精一杯のことだった。

たしか、テレビドラマの最終回がこの場面だったように記憶しています。原作では、抑制された表現だけに、この甘美なラブシーンが静かな余韻を残します。見事な幕切れです。

それにしても藤沢周平は、おあきの描き方がうまい。蓮っ葉な女が修羅場を見せるほど、もう一人のヒロインのひたむきさ、可憐さが引き立ちます。おあきが、不幸の中にも幸せを見つけようともがく、でもいつも裏目に出てしまう、その間の悪さに、作者は同情を寄せているようでもあります。



写真は、10月初旬のイヌサフランです。
コメント (8)