電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

マーク・トウェイン『アーサー王宮廷のヤンキー』を読む(4)

2010年08月11日 06時02分47秒 | -外国文学
大久保博訳の角川文庫で、マーク・トウェイン著『アーサー王宮廷のヤンキー』の続き(*)です。

第31章「マルコ」、第32章「ダウリーの屈服」、第33章「六世紀の政治経済学」、第34章「ヤンキーと国王、奴隷として売られる」、第35章「哀れな出来事」。
 中世のイングランドの庶民生活をお忍びで見学するアーサー王とヤンキー君、庶民の階級意識と卑屈さ、とくに上の者にへつらい、下の者に冷たい様子を目の当たりにして、いささか後味がよろしくないようです。「六世紀の政治経済学」問答では、自分の頭で考えず、お題目を繰り返すだけ、という特徴が描かれますが、ちょいとやりすぎた上に、アーサー王が妙ちきりんなことを言い始めたものだから、すっかり疑われ反発され、追われる身となってしまいます。助かった!と思ったら、一難さってまた一難。なんと二人は奴隷の身に。自分は自由民であり奴隷ではないことを証明できないなら奴隷だ、というのは困った法律ですね、王様!しかし、アーサー王は、自分が七ドルの価値しか付けられなかったこと、ヤンキー君よりも安かったことに、いたく自負心を傷つけられた様子です。奴隷の行進の途中には、吹雪の夜に魔女とされた女が焼き殺される火でようやく体をあたためたり、夫を攫われ、飢えて乳が出なくなった若い母親が、赤子のためにリネンの布を一枚盗んだ罪で絞首刑になったりするなどの出来事を経験するのです。

第36章「暗やみの中での衝突」、第37章「恐ろしい苦境」、第38章「救援に駆けつけたサー・ラーンスロットと騎士たち」、第39章「ヤンキーの、騎士たちとの戦い」、第40章「それから三年後」。
 奴隷としての辛い旅をして、ようやくロンドンに到着します。夜、騒ぎを起こして逃亡しようとしますが失敗、王様とはぐれて牢屋に捕えられてしまいます。が、なんとか言い逃れて保釈、電信電話線をたどってロンドンの電話局を探り当て、クラレンスに、王と二人が遭遇している危難について告げます。その後、街で自分が見つかってしまい、逃亡奴隷として処刑されるハメに。アーサー王の方が先に絞首刑になりかかったところへ、間一髪、サー・ラーンスロットらの騎士の一団が、銀輪をきらめかせて自転車で到着します!見せ場ですね~(^o^)/
作者のホラ話は絶好調で、意地の悪い騎士サー・サグラムアとの一戦は、重戦車のごとく突進する騎馬の騎士vs投げ縄で迎え撃つヤンキー君との対決です。いやはや、マーリンが投げ縄を隠したりしなければ、根性悪サー・サグラムアも、デリンジャーの餌食にまではならずにすんだはずでした。それから三年後、遍歴の騎士制度を崩壊させたヤンキー君は、学校、鉱山、工場、電信、電話、蓄音機、タイプライター、ミシン、蒸気船、鉄道など、19世紀の文明を一気に花開かせます。このあたりは、エンジニアという主人公のヤンキー君の想定が生きていますね。
後半、全然登場しなかったサンデーは、なんだか厄介なおしゃべり女ではなくなり、二人の間には愛娘「ハロー・セントラル」が生まれていて、病気をしたときなど、たいへんな子煩悩パパぶりを見せています。話はここらでハッピーエンドにすることも可能でした。でも、作者はハッピーエンドにはしない。

第41章「破門」、第42章「開戦!」、第43章「サンド・ベルトの戦い」、第44章「クラレンスによるあとがき」、「M.T.による最後のあとがき」と続く意外な結末は、読者のお楽しみといたします。トム・ソーヤーやハックルベリー・フィンが、明るく陽気な物語というだけのものではないように、本書もまた、風刺の陰には怒りとペシミズムが基調にあるようです。

(*):マーク・トウェイン『アーサー王宮廷のヤンキー』を読む(1),(2),(3)~「電網郊外散歩道」
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