まだ若い頃に、暁登山に挑戦したことがあります。懐中電灯の光を頼りに登山道をのぼる途中、草の上に寝転んで文字通り満天の星空を仰ぎ、ペルセウス流星群から発する流れ星を観察したものでした。夜明け前に蔵王の山頂に到着し、遠く太平洋から上るご来光を、感動しながら眺めました。こうした自然の大きさにうたれた経験は、その後の気分に大きな影響を与えるように思います。積極性、自信、高揚感や前向きな気分などです。
ブルックナーもまた、幾度となく味わう失意を越えて、1879年の夏に交響曲第6番に着手したとき、音楽の大きな方向性はまだ定まっていなかったのかもしれません。それが、翌1880年の夏にスイスを旅行して、モンブランの周辺をトレッキングし、大パノラマと荘厳な日の出・日の入りを体験したとき、きっと大きな影響を受けたのではないかと思います。あまり威圧的でない、むしろ自然の中を逍遥するような第6交響曲は、このような文脈の中でとらえることができるように思います。
第1楽章:マエストーソ、イ長調、4分の3拍子。ごく静かにリズムを刻むヴァイオリンに続き、チェロとコントラバスの低弦がテーマを奏し、これに管楽器が加わって第一主題を提示して、ソナタ形式の大きな音楽が流れ出します。第二主題はヴァイオリンで。金管が再現するところは、透明感のあるブルックナー・サウンドです。通勤の車内で聴くときや、音量を絞りぎみで聴くときには、金管部隊が目立ち、細やかな弦楽セクションの素晴らしさがとらえにくいのですが、自宅のステレオ装置やヘッドホンで聴くときには、(ほぼ)二管編成のオーケストラのバランスのよさを感じます。
第2楽章:アダージョ、きわめて厳粛に、ヘ長調。第1楽章と同様に、三つの主題を持つソナタ形式だそうですが、様式的なことよりも、この緩徐楽章の美しさにうたれます。オーボエによるエレジーも、弦楽による慰めに満ちた音楽も、あるいはまた、たとえその後に悲しげな表情があったとしても、全体としては希望や憧れを感じさせます。実演を聴いた立場からは、とりわけこの楽章の弦楽セクションの素晴らしさを特筆大書しておきたいところです。
第3楽章:スケルツォ、速すぎずに。イ短調。ブルックナーはオルガン奏者として高名だったわけですが、考えてみるとオルガンの音にはヴィヴラートはかけられないはず。その意味では、極力ヴィヴラートを抑えた山響の響きは、ブルックナーがねらったであろう、オルガンでは出せない pp を表現できる楽器としてのオーケストラ・サウンドに、まっすぐ通じているのではと思います。
第4楽章:フィナーレ、動きをもって、しかし速すぎずに。イ短調。弦の弱奏で始まります。中間部では、途中に小鳥の鳴き声のようなフルートの音も楽しみながら、フィナーレの壮大な盛り上がりに向かって行きます。ラストはいかにも大団円といったふうで、ああ、いい音楽を聴いたなあと満足感が残ります。
飯森範親指揮の山形交響楽団による、震災の翌月、2011年4月の定期演奏会直後に収録されたデジタル録音で、音響の良いホールの響きを生かしながらのセッション録音だそうです。CDは山響自主レーベル YSO-Live の中の一枚(*2)、型番は OVCX-00065 です。録音はオクタヴィア・レコード(*2)が担当し、SACD/CD のハイブリッド盤となっています。これまでの山響のブルックナー・シリーズ(第3~第6番)の録音の中でも、何度も繰り返し聴くほどに味のある、優れた演奏・録音だと思います。
(*):山形交響楽団第212回定期演奏会でブルックナーの「交響曲第6番」を聴く~「電網郊外散歩道」2011年4月
(*2):山形交響楽団ホームページより、CD等の販売のページ
(*3):制作に当たったオクタヴィア・レコードが本CDを紹介するページ
ブルックナーもまた、幾度となく味わう失意を越えて、1879年の夏に交響曲第6番に着手したとき、音楽の大きな方向性はまだ定まっていなかったのかもしれません。それが、翌1880年の夏にスイスを旅行して、モンブランの周辺をトレッキングし、大パノラマと荘厳な日の出・日の入りを体験したとき、きっと大きな影響を受けたのではないかと思います。あまり威圧的でない、むしろ自然の中を逍遥するような第6交響曲は、このような文脈の中でとらえることができるように思います。
第1楽章:マエストーソ、イ長調、4分の3拍子。ごく静かにリズムを刻むヴァイオリンに続き、チェロとコントラバスの低弦がテーマを奏し、これに管楽器が加わって第一主題を提示して、ソナタ形式の大きな音楽が流れ出します。第二主題はヴァイオリンで。金管が再現するところは、透明感のあるブルックナー・サウンドです。通勤の車内で聴くときや、音量を絞りぎみで聴くときには、金管部隊が目立ち、細やかな弦楽セクションの素晴らしさがとらえにくいのですが、自宅のステレオ装置やヘッドホンで聴くときには、(ほぼ)二管編成のオーケストラのバランスのよさを感じます。
第2楽章:アダージョ、きわめて厳粛に、ヘ長調。第1楽章と同様に、三つの主題を持つソナタ形式だそうですが、様式的なことよりも、この緩徐楽章の美しさにうたれます。オーボエによるエレジーも、弦楽による慰めに満ちた音楽も、あるいはまた、たとえその後に悲しげな表情があったとしても、全体としては希望や憧れを感じさせます。実演を聴いた立場からは、とりわけこの楽章の弦楽セクションの素晴らしさを特筆大書しておきたいところです。
第3楽章:スケルツォ、速すぎずに。イ短調。ブルックナーはオルガン奏者として高名だったわけですが、考えてみるとオルガンの音にはヴィヴラートはかけられないはず。その意味では、極力ヴィヴラートを抑えた山響の響きは、ブルックナーがねらったであろう、オルガンでは出せない pp を表現できる楽器としてのオーケストラ・サウンドに、まっすぐ通じているのではと思います。
第4楽章:フィナーレ、動きをもって、しかし速すぎずに。イ短調。弦の弱奏で始まります。中間部では、途中に小鳥の鳴き声のようなフルートの音も楽しみながら、フィナーレの壮大な盛り上がりに向かって行きます。ラストはいかにも大団円といったふうで、ああ、いい音楽を聴いたなあと満足感が残ります。
飯森範親指揮の山形交響楽団による、震災の翌月、2011年4月の定期演奏会直後に収録されたデジタル録音で、音響の良いホールの響きを生かしながらのセッション録音だそうです。CDは山響自主レーベル YSO-Live の中の一枚(*2)、型番は OVCX-00065 です。録音はオクタヴィア・レコード(*2)が担当し、SACD/CD のハイブリッド盤となっています。これまでの山響のブルックナー・シリーズ(第3~第6番)の録音の中でも、何度も繰り返し聴くほどに味のある、優れた演奏・録音だと思います。
(*):山形交響楽団第212回定期演奏会でブルックナーの「交響曲第6番」を聴く~「電網郊外散歩道」2011年4月
(*2):山形交響楽団ホームページより、CD等の販売のページ
(*3):制作に当たったオクタヴィア・レコードが本CDを紹介するページ