那覇市民劇場や国立劇場おきなわの大きな舞台で見た「奥山の牡丹」が念頭(記憶)にあるので、ちょっとコンパクトなイメージで、花道もなく、芝居ホールとしてはちょっとの感想です。
さゆきさんと真次さんがこの歌劇のために声を鍛えたことが伝わってきました。三良の上原崇弘さんは二枚目で姿形も美しい。最前列で見ていて、みなさんの顔の表情もよく見えました。上原さんの歌はすこしくぐもっているようで、表情にか弱さが見えて、ちょっと驚きました。歌舞伎の中村吉右衛門さんの実在感のある演技や表情から習得するところが多いのでは?真喜志康忠さんの録画された芝居のDVDなど見ても、表情や身体の動きがいいですよね。
主演のお二人は熱唱でしたね。かなり歌を鍛練したのですね。役柄に徹する情熱と責務が感じられました。舞台上の動線は、かつて親泊興照さんと舞台に立った吉田妙子さんによると、冒頭の場面は赤子を寝かせつける場面でチラーが小屋の前で立ってはいないとのお話でした。さゆきさんの声量はよく、最後まで歌いきったのですね。チラーの活躍と歌唱がこの歌劇の決め手です。そして山戸の凛々しさでしょうか。
チラーの歌唱力は伊良波冴子さんの声音がいいですね。この間何人かの沖縄芝居女優のチラーを見たのですが、声音の高さは吉田妙子さんですね。高音で聞かせました。小嶺和佳子さんのチラーも良かったですね。兼城道子さん、瀬名派孝子さんも演じていますね。チラーはかなり歌唱力がないと興ざめしますね。今回安定して歌っていましたね。でもキャラクターとしてはどちらかというときつい雰囲気のさゆきさんは、妾の役が似合うね、とは芝居のベテランの評です。
真次さんの山戸、好青年(若者)は一貫して最後のフライマックスに向かっていましたね。二枚目の雰囲気は上原さん、いいですね。背丈があって見栄えがいい。真次さんは母を捜し求める若者の必死な思いが若衆の雰囲気で声音も落ち着いていました。(大宜味小太郎さんが身長が低くてもいい味を出した役者だったことを彷彿させます)。二枚目としてはちょっと気になります。
さて脇役のアヤーの赤嶺啓子さん、主の前の高宮城実人さん、いいですね。妾の亜希さんと総聴の道彦さんも安定感がありました。ステージが広くないゆえに、馬舞者の人数はもっとほしかったのですが、それで手ごろだったのでしょうね。真玉津は新人でしょうか。瀬名派さんは一番席から見ても気がはって見えました。85歳の力量ですが、舞踊「かたみ節」はちょっとよろけそうな雰囲気もあって、踊ることのタイヘンさが伝わってきました。
歌劇は主役の歌唱力と演技力が試されるのですが、脇役は小さいようで小さくはなく、誰でも簡単にできそうで、役者の年歴が問われるのですね。
ステージが不満でした。背景幕も斜めに見えたり、芝居プロップがちゃちに見えたりしたのが残念です。奥行きと幅がないので、コンパクトな空間で動きまわります。花道がないので下手の動きが弱かったですね。下手での見せ場がちょと物足りなかったですね。
歌劇は主役が誰でどれだけの歌唱力か、が先ず第一、脇役は新人ではちょっと物足りないことがよくわかりました。芝居の場数を踏んでいる方々は必要ですね。ステージの空間の重要さがわかりました。そして花道ですね!
以上、一番前で観劇した印象です。