ド―ベルマンは成犬を手に入れた、雄大な身体が黒光りしている、ところが狭い小屋で育てられたらしく、まったくの世間知らず、それに、基本的な躾(しつけ)ができていない、だから、手に余って手放したようだ。
唯一の取りえは素晴らしい体力、自転車を漕がなくても2kmぐらいは引っ張っていく、疲れをしらない体力だ、そして、子犬がいるとガッーと走り寄り、前脚で抑えこんでしまう。
ある晩、ワオーワオーやっている、明りを点けると口からアワを出しジリジリと後ずさり、もう半狂乱、彼の鼻の先を見るとセミの幼虫がノロノロ、これが恐かったようだ。
初めて見たんだろう、初めてならセミの幼虫ほど不気味なモノはない、ド―ベルマンが誕生したドイツにはセミがいないのだろうか、このイヌのDNAにセミの情報はインプットされていないのかもしれない。
前脚でヒョイと踏めばすむこと、知らないということは恐ろしい。