そろそろ午後4時。日が傾いた。畑に出よう。
*
したいことをして、したくないことはしない。
*
いい暮らしだ、このお爺さんの老後は。
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したい時間にしたいことをする。日が暮れるまで。ぼそりぼそり。
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畑の草取りをする。耕す。苗物に施肥する。水遣りをする。
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疲れぬ程度に。一人遊びに興じる。
そろそろ午後4時。日が傾いた。畑に出よう。
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したいことをして、したくないことはしない。
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いい暮らしだ、このお爺さんの老後は。
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したい時間にしたいことをする。日が暮れるまで。ぼそりぼそり。
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畑の草取りをする。耕す。苗物に施肥する。水遣りをする。
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疲れぬ程度に。一人遊びに興じる。
♪ 障子開ければ、大島一目。なぜに佐吉は山のかげ。アラヨーイショ、ヨイショ、ヨーイショ、ヨイショ ♪
♪ ついておいでよ、この提灯に。決(け)して苦労はさせはせぬ アラヨーイショ、ヨイショ、ヨーイショ、ヨイショ♪
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今日は串本節を歌っている。いい気分で。
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山の岩陰に佐吉がいて、こっちを見ている。会いに来たのだろう、きっと。提灯に火を灯して、ゆらりゆらり揺らして、迎え入れる。今夜は佐吉といっしょだ。花になる。
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民謡はいい。悦に入って歌っていると、佐吉になってしまう。花になる。
まもなく午後3時半になる。とろりとろりの昼寝から覚めた。寝覚めが悪い赤ん坊ではなく、このお爺さんはいい気分だ。
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今日は客人が来られる。一晩泊まられる。家族の一人として受け入れる。客人は酒が好き。午前中、町へ出て、酒の肴を買って来た。夕方6時に、駅に迎えに行く。家内がお布団を干した。
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我が家の畑でとれた赤玉葱を使った料理をしてもらえそうだ。客人は若い。セロリ、パセリが好物。これも摘んで来た。早朝、家内がズッキーニの初物を収穫した。
気温はこれから上昇して、午後には27℃にまで達するらしい。快晴である。
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27℃に上がれば、もう外にはいられない。暑くて暑くて。この頃の暑さは、しかも、痛い。刺すように痛い。尖ってる。
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日が落ちるまでは、家の中に居るのが、それが賢明。しばらくはごろんとなって昼寝をすることに。昼寝は極楽の間(ま)だ。
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ただし、油断してると風邪を引く。風邪引きは恐い。何が恐いと言って、咳が恐い。年寄りはすぐに咳が止まらなくなってしまう。
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そうこうしてるまに、上の目蓋と下の目蓋が、互いを欲しがって、急接近しているようだ。
おかしいね。お金に振り回されるなんて、おかしいね。
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老人なのに、まだ欲がある。遊びたがる。遊びに出たがる。美しい風景風物を見たがる。うまいものを喰いたがる。
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じっとしてればいいものを。ひたすら閉じ籠もっていればいいものを。
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実は、ほんとうはタダなんだ。なんでもタダなんだ。生きている天地は、お金を要求したりはしていない。空も山も海も風も光も、みんなタダなんだ。
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お魚屋さんに行って魚を買うが、お魚そのものにお金を払ったことはないんだ。お魚屋さんにお金を払っても、お魚はただなんだ。
風景風物もそう。無料である。拝観は無料である。
バラ園の薔薇もお金を要求しない。バラ園の亭主がお金お要求するが、薔薇の花そのものは、無料である。
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雲雀が麦畑の上空で鳴いているが、これも無料である。好きなだけ聞いてていい。
市役所から封筒が届く。
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固定資産税金の徴収書類だ。五月になるとこの納税書類が届く。
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家と家の周りの畑しか、資産はない。
(家庭菜園の畑にまで税金をかけないでいいのではないか、と思う)
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大金ではないが、でも、金が要る。老人のわずかな年金から支払うしかない。
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金のなる木が欲しい。打ち出の小槌が欲しい。魔法のランプが欲しい。
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遊びに出るお金も要る。薩摩芋の蔓を買うお金も要る。晩酌の酒代、酒の肴代も要る。
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でもでも、生きているときにしか、お金は使えない。いまは生きている。遊びにも出たい。遊ぶお金が出て来ない。
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どうしようどうしよう。
豊かな宇宙銀行さまの、<無料無制限利用払い出し自由システム>にお願いをしてみようか。
曽て、愛唱していた「南部牛追い歌」が、どうしてもどうしても思い出せない。
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このごろ、こんなことがよくある。忘れている。頭を両手でパタパタと叩いても、同じだ。
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「南部牛追い歌」という歌の題名すら浮かんでこない。
(メロデーだけが、かすかに思い出せる)
歌いたいのに歌えない。詰まって出て来ないと苦しい。困った困った。
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今朝、ふっと思い出せた。題名が分かれば、ネットで調べられる。調べてみた。メモ帳にメモをした。
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♪ 田舎なれども、サーハーエー、南部の国は、サー、西も東もサーハーエー、金の山、コリャ、サンサーエー ♪
♪ 沢内三千国、サハーハーエー、お米(よね)の出どこよ、枡(ます)で計らなで、サーハーエー、箕(み)で計る、コリャサンサーエー ♪
♪ 牛よ辛かろ、サーハーエー、今ひと辛抱よ、サー、辛抱する木に、サーハーエー、金がなる、コリャ、サンサエー ♪
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今日は畑仕事をしながら、鼻唄しよう。日本の民謡が好きだ。民謡はいい。独特な調べだ。日本人でいる魂が泣き出してしまう。
午前7時半の気温13・8℃。窓の外に日は照っているが、ひんやりする。
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夜中寒かった。
押し入れから冬の掛け布団を出して来て、着た。
寒暖の差が激しい。
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明日は雨になるらしいから、種苗店に行って、薩摩芋の蔓を購入して来よう。60本ほど。
10本1束で約500円だ。値が張る。
お爺さんのままごと遊びも金が要る。
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畑に畝を盛っている。ここに植え付けよう。雨が降るなら、水撒きが省略できる。
これで今季はラストになる。