あきはぎのはなさくころは来て見ませいのちまたくばともにかざらむ 大愚良寛
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平仮名書きの多い歌である。筆に書いてさらさらと贈られたのであろうか。もちろん贈った先は貞心尼である。平易な歌だ。秋に萩の花が咲く頃にはどうぞまた尋ねて来てください、まだその時まで老いのわたしが生き延びていられたら、あなたといっしょに飾って楽しみたいものです。ほんとは良寬様は秋と言わず明日も明後日もと言いたいところだったが、お慎みになられたようだ。逢いたい思いがいよいよ募って募っておられたはず。禅師は山の庵に一人で住んでおられる。しかし、その後しばらく貞心尼は音沙汰もなかった。彼女の方も慎み深くしておられたのであろう。そこでまた催促の歌を贈られた。
秋萩の花の盛りも過ぎにけり契りしこともまだ解けなくに
秋が来て萩の花が咲いた。今か今かと待っていたのだけれど、萩の盛りも過ぎてしまった。とうとうあなたは姿をお見せにはならなかった。あれほど頼んでおいたことだったのに。老いの身の禅師は、寒くなって病を得て床に伏せるようになってしまわれた。病のことは歌にしておられない。心配をかけるといけないからであろうか。
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良寬様の恋の歌を観賞しているとこちらまで切なくなる。貞心尼を待っているような気持ちになる。いつのまにか同調をしてしまっているようだ。