「鈴鹿墨」
Description / 特徴・産地
鈴鹿墨とは?
鈴鹿墨(すずかすみ)は三重県鈴鹿市白子地区で生産されている墨です。墨としては日本で唯一伝統工芸品に指定されていますが、現在では「進誠堂」一軒のみでその伝統を守っています。
鈴鹿墨は制墨に適した気候風土に恵まれた鈴鹿の山の松などが用いられることにより、高い品質が保たれています。時代のニーズに応えながら開発が続けられていく中で一般文具として書道や絵画などで愛用されるだけでなく、その品質の高さから墨染の染料や塗料、彫刻を施した美術工芸品などとしても利用されています。
鈴鹿墨の特徴は天然のゼラチンである膠(にかわ)を使用し、伝統的な制墨を行うことで生み出される発色やにじみ、基線の良さ、抜群の書き味、年月を経ても変わらぬ墨色です。しばらく寝かせて古墨化させることで、より深い墨色を出すことができるのも天然の膠を使用した鈴鹿墨ならでの特徴と言えます。
また墨業界で初めて色墨に成功し、用途に合わせた彩り鮮やかな鈴鹿墨が生産されています。
History / 歴史
鈴鹿墨は平安時代初期に鈴鹿の山でとれた松の松脂(まつやに)を焚いて煤(すす)を取り、それを膠(にかわ)で固めて作ったのが始まりと言われています。
鈴鹿は原材料となる松や弱アルカリ性の水質が製墨の条件として最適であるなど地理的にも気候風土的にも上質な墨作りに恵まれていました。
江戸時代になると大名家は家紋を持つことが定められ、裃(かみしも)や小紋(こもん)を身に付けるようになると、家紋を書くための上質な墨が必要とされるようになりました。また、その頃から寺子屋が発展してきたことも墨の需要性を高めたのです。
鈴鹿墨はその需要に応えるべく高い技術を用いて開発を行い、徳川家紀州藩の保護下において大きく発展しました。現在でも伝統の工法を守り、重厚な黒色から青灰色に発色する「油煙墨(ゆえんぼく)」や艶と深みのある純黒な「松煙墨(しょうえんぼく)」の他、色とりどりの「色墨」などの特殊墨も制作されています。
*https://kogeijapan.com/locale/ja_JP/suzukasumi/ より
生きている墨玉と全身で格闘 鈴鹿墨
江戸時代から良質の墨の産地として知られる鈴鹿墨。ほとんど手作業で、微妙な環境の変化に反応する墨作りは、職人の経験と勘が頼り。鈴鹿墨の職人の中で将来が期待される、若き進誠堂墨舗3代目の伊藤忠さんにお話をうかがった。
墨は生き物、職人の経験と勘が頼り
夏場は膠が腐りやすく、固まりにくいため、墨作りは10月~4月までの厳しい冬の仕事である。天然原料の煤と膠の配合は、毎日同じとはいかない。湿度や温度の微妙な変化に影響されるデリケートなもの。まるで生き物を扱うようだ。揉みあげていく工程も、何分揉めばよいというマニュアルがない。経験を積んだ職人の勘によるところが大きい。
「冬の朝は空気も乾いていて温度も低い。ある程度水分を入れても、木型で固まり、よい墨ができます。でも昼からは墨玉がだんだん固くなって、揉むにも力がいります。手で空気を入れて出す、入れて出す。手の中で転がしながら、一番いい状態を見極めて型に入れる。膠の温度が、自分の体温と同じくらいで、ピカピカと光沢が出た時がいいんです」。混ぜ合わせた墨玉を一気に揉みあげる作業は、まるで格闘だ。煤にまみれ、汗にまみれ、全身の力を込めて、時には足で踏みながら揉み上げていく。生きている墨玉に、伊藤さんは挑むように向き合っている。
誇れる日本の文化を受け継ぐために
忙しい現代人の生活では、墨で書く習慣も薄れがち。書や水墨画を趣味とする人や書道家など一部の人のものになりがちだ。「伝統工芸は、日本独自の誇れる文化。それを次の世代に伝えようと思ったら、やはり生活の中で触れる環境を作らなあかん。墨なら、学校でも習字の時間を増やしてほしいとか、教育現場にも働きかけていかんとね。また伝統にとらわれず、今の時代に合った商品も考えてます」。と、伊藤さんは広い視野で伝統の行く末を考える。1分ですれる墨や、香りを楽しめる墨、長く寝かせた古い墨の味わいを出せる低価格の墨など、若く斬新なアイデアで、新商品を発想していく。
「あなただけの墨」を作っていきたい
しかし、伝統にこだわる部分も大きい。例えば、菜種や胡麻などの植物油の煤にこだわる。
「植物油は、小さい炎で燃えるので、煤の粒子が細かい。粒子の細かい墨は、ズシっと重く、半紙の目にしみ込んで奥まで沈んでいくから、深く黒い色が出る。伸びもいいんです」。
膠の量や、煤の決めの細かさ、それらをどう配合するかで、仮名用・漢字用・水墨画用など、用途にあった墨を作る。
「墨の材料は、どこでも同じです。でも工業的に効率化せずに、手作業で一貫して一人で作ることにこだわるからこそ、お客さんの微妙なニーズに応えることができる。書道家や水墨画を楽しむ人の中には、父が作った墨しか使わない人もいます。墨の黒といっても、父にしか出せない色があるんですね。私も名指しで注文されるような職人になりたい。あなたの用途に合った、あなただけの墨を作ることを目指しています」。
職人プロフィール
伊藤忠 (いとうただし)
昭和39年生まれ。サラリーマン生活を経て、墨作りにたずさわって16年。若い世代が少なく継承が難しくなってきている鈴鹿墨の世界で、大きな期待が寄せられている。鈴鹿製墨協同組合専務理事。
こぼれ話
新しい墨の魅力を開発
伊藤さんは、1分ですれる墨など、いろいろと新しい墨の開発に意欲的です。特に評判のよいのが「墨の森」。濃くすれば、限りなく黒に近い色になりますが、薄くすれば、色が出ます。現在8色のバリエーションがありますが、各色を混ぜ合わせることも可能。日本の伝統的な淡く、落ち着いた色合いで、書をたしなまない人でも味わいのある字が書けそうな気になります。今、人気の絵手紙や、水墨画にぴったりです。
*https://kougeihin.jp/craft/1003/ より
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