第201回 2018年9月4日 「色彩ゆたかに あざやかに」リサーチャー: 三倉茉奈
番組内容
「西の西陣・東の桐生」と並び称された織物の産地、群馬県桐生市。ここでいま、鮮やかで豊かな色彩を持つ新感覚の織物が次々と生み出されている。産地の衰退に危機感を持ったベテランの職人たちが、古い機械のよさを生かして、今の機械では出せない肌触りや高度な職人技を発揮したのだ。日本だけでなく欧米でもヒットしたマフラー、若い世代の“山ガール”に人気のストール、そしてスカジャンの刺しゅうの名人技を紹介する。
*https://www.nhk.or.jp/archives/chronicle/detail/?crnid=A201809041930001301000 より
桐生市には、現在およそ100軒の織物工場があります。
1.MoMAで大ヒット! 「KNITTING INN」マルチカラーマフラー(松井ニット技研)
「松井ニット技研」は明治40(1907)年に創業した100余年の歴史を持つ老舗編物会社です。
この「松井ニット技研」が作るブランド「KINITTING INN」のマフラーの配色の美しさが色彩感覚に厳しい世界の美術館関係者、デザインショップで絶賛されています。
モダンアートの殿堂「ニューヨーク近代美術館(MoMA)」のミュージアムショップにおいて、2003年からスカーフ部門で5年連続売り上げ総数1位を記録した他、最近ではスペインの「プラド美術館」や英国の美術館、イタリアの百貨店などとの取引を開始するなど、今や欧米を始め、世界中にファンがいます。
アートショップから人気に火が付いたのは、「マツイカラー」と呼ばれるその美し過ぎる配色から。
印象派の絵画を中心とした世界のアートの色使いを研究し、日本独自の色彩や、トレンドカラーをも加味します。
例えば、6色展開の商品を作るために0を超える試作品の中から社員全員で配色を決定するそうです。
もう一つ、「松井ニット技研」がこだわっているのが、「ラッセル編機」という昭和30年代の旧式編機で編む、ふんわりと弾力のある肌触りに加えて、空気層をふんだんに含むため、保温性も高い生地です。
「ラッセル機」はオールドスタイルの低速編機で、マフラーを編む時間は、現在のものに比べて約5倍掛かります。
また編機メーカーも今はなく、メンテナンスは自社で行うしかありません。
しかも色を使うほどにコストも掛かってしまいます。
それでも、旧式の編機を選ぶのは、ゆっくり、緩く、ロースピード、ローテンションで丁寧に編み上げると、引っ張らないからテンションが掛からないため、ふんわりと弾力のある肌触りを実現してくれるためです。
ハイスピードではこのテイストを出すことは出来ないそうです。
コストが掛かっても「本当にいいものを届けたい」という職人魂から、世界中に届ける商品の生産から卸までの全てをたった8名で行っています。
工房内では、河内安央さんが色のついた糸を正しい位置に設置し、使いたい8つの色をセットしてドラム整経機と呼ばれる機械で慎重にドラムに巻き取っていきます。
この作業にも慎重さが求められるため、ベテランの河内さんにしか出来ないそうです。
マフラー300個分が出来上がったら、編む工程に入ります。
昭和30年代から使われている「ラッセル編機」で編んでいきます。
職人の川岸正男さんは糸の状態に異常がないか、糸の張り具合を確かめています。
この作業により、ニットはふわふわとした感触になるのです。
松井ニット技研 群馬県桐生市本町4丁目甲85
2.“山ガール”に人気のストール 山ストール[PRIRET]
群馬県は古来より生糸の生産の盛んなところで、江戸時代には「西の西陣・東の桐生」と謳われる絹織物の盛んな土地でした。
全盛期の昭和初期には、絹織物だけでなく関連産業も盛んになり、絹や木綿を鮮やかな色に染めるためは、高度な技術が必要なことから、多くの優れた職人が生まれました。
[PRIRET](プライレット)の上久保 匡人さんは、群馬の桐生、吾妻山の麓にあるアズマベースで登山客向けのアウトドアショップを営業しています。
この[PRIRET](プライレット)を代表する商品が、アウトドア用の「山ストール」です。
上久保さんが開発し、手染め職人の小山哲平さんが生み出した商品です。
「山ストール」は、夏はタオルとして、冬は防寒ストールとしてオールシーズン使えます。
二重の風通織でチューブ状に織り上げているため、ストールの内側にも空気が入って、夏は染み込んだ汗を早く乾燥させてくれ、冬は中の空気が保温効果をもたらして首元を暖かくしてくれます。
伸ばしたままでタオルや手拭いとしても使える「2WAY仕様」です。
紫外線をカットし、汗の乾きも良く、匂いも吸収し、軽くて丈夫。
アウトドア雑誌にも取り上げられています。
ストールにプリントされている柄は、群馬の名峰赤城山の等高線です。
色は手染め職人の小山哲平さんが、昔ながらの毛捺染台が使って染めています。
小山さんは、この台に生地を一気にたゆまないように敷いていきますが、二重の風通織ために、大変手間が掛かります。
準備が出来たら毛捺染台の温度を65度にして、生地の上にスクリーンの型を置き、そこから染料を含んだ捺染糊を特殊なヘラ(スキージ)で伸ばし、型に付けられた小さな孔を通してプリントしていきます。
染料はその日の湿度や温度の影響で粘り気が変わるため、微調整が必要です。
ハケで伸ばすのも、力加減をちょうどいい具合にしなければならないので重要です。
染料が乾いたら、今度は裏返して表と同じように模様をつけていきます。
因みに、「PRIRET」(プライレット)とは、「Private」(プライベート)と「Secret」(シークレット) を組み合わせた
造語です。
『自分たちが欲しいものを密かに作る』といった意味合いで名付けたのだそうです。
「PRIRET」(プライレット)群馬県桐生市宮本町3-6-30
3.桐生ジャン(刺繍作家・大澤紀代美さん)
陸上男子100mで、日本選手で初めて10秒の壁を破る”9秒98”の日本新記録を達成した桐生祥秀選手に桐生市内で刺繍された特注スカジャン「桐生ジャン」が贈呈されました。
神奈川県横須賀市で生まれたとされ、同市の名物となっている「スカジャン」は、戦後、横須賀に駐留していたアメリカ兵が自らのジャケットに日本風の刺繍を施したのがキッカケで生まれました。
その刺繍を請け負っていたのが、桐生の職人達です。
特徴である華やかな刺繍は、「絹織物のまち」として長い歴史がある群馬県桐生市の職人達の技術が支えてきたんです。
そんな職人の一人で、60年のキャリアを持つ大澤紀代美(おおさわきよみ)さんは、「横振り刺繍」と呼ばれる技で、躍動感溢れるスカジャンを作っています。
17歳の時に「横振り刺繍」に出会い、以来60年以上に渡り、刺繍制作に取り組んでいます。
有名デザイナーによるパリコレなどで衣装の刺繍を任されていて、平成6(1994)年に「現代の名工」受賞、平成8(1996)年には「黄綬褒章」受章しています。
平成20(2008)年には桐生市内に「ししゅうギャラリー」を開設しています。
作業で使う「横振りミシン」は刺繍専用で、切れ込んだ穴に針が動き、一般的なミシンと違い、鍼が横に動くので様々な縫い方が出来ます。
形も縫い幅も思いのまま。
ペダルを膝で動かして幅を調整することが出来ます。
更に大澤さんは、一色の糸で縫う角度を変えるだけで、別の色になる技を習得しています。
大澤さんは、今、伝統ある刺繍の技を伝えようと若い人達の指導にも力を入れています。
現在、お弟子さんは6名。
森田さんはエンジニアをしながら、この横振刺繍を習っています。
今回大澤さんはリポーターの三倉茉奈のためにスカジャンを繍ってくれました。
下絵も書かずに、一気に縫っていきました。
数日後にスカジャンは完成。
「mana」と書かれたライオンが刺繍されています。
タテガミも豊かで、迫力満点です!
古い機械や道具を大事にしながら新しいものを作っていく。
そんな桐生の土地柄が職人達を活気づけていました。
*https://omotedana.hatenablog.com/entry/Ippin/Gunma/Kiryuori より
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