アンティークマン

 裸にて生まれてきたに何不足。

苦節11か月、ケンちゃんとの会話に成功

2010年02月20日 | Weblog
 昨年4月、情緒障害と重い知的障害をもつ、「ケンちゃん」が、水泳教室に入ってきた。水泳教室では、専任の指導員をつけ、マンツーマンの指導体制としました。指導員は女性なので、ウーマンツーマンと表記するのが正しいかな。ケンちゃんは小学5年生。身長は151cmで、体重は76kg。立派な肥満。

 私は、「アクアウオーキング専用レーン」で、毎日ひたすら歩いている。金曜日に楽しみが出来ました。金曜日は、ケンちゃんのプール教室の日だから。
 4月当初のケンちゃんは、水を怖がりすぐにプールから逃げだそうとした。
 笑っちゃいけないが、プールへは容易に入ることができるが、上がるとき…浮力がなくなるので自力で上がれない。76kgは重いですよ。76,000gですから!そこで、私が登場する。ケンちゃんの尻を押す役目。「ケンちゃん重いね」と、声をかけて尻を押す。私の尻よりデカイ。

 ケンちゃんは6月になると、尻を押さなくてもプールから上がれるようになった。寂しかったですよ。なんとかケンちゃんと友達になろうと思っていたのに、声をかける絶好の機会を失ったわけですから。
 プール内での様子は、「泳ぐ」とは程遠いもので…とにかく、浮力が嬉しいらしく、飛び上がるのです。ジャンブに次ぐジャンプ。それに、ひねりが加わる。さながらトドのジャンプ。その横のレーンを私が歩いているわけで…すれ違う度に、「ケンちゃん、こんにちは」と、言い続けた。しかしBUT!完全無視。ケンちゃんに一瞥すらいただいたことはなかった。

 月日は流れ、11月。ケンちゃんのプールメガネが外れて、私のレーンへ入ってきた。ケンちゃんはコースロープの下から脚を伸ばし、器用にも脚の指で挟んでプールメガネを確保した。チャンスだと直感した私は、「ケンちゃん、上手だね。うまいね。すごいね。・・・」と褒め称えた。
 この時から、ケンちゃんは私の存在を意識したと思う。ここまでに、8か月かかりました。

 その後も、「ケンちゃん、こんにちは」を続けた。ケンちゃんは、目だけでチラリとは見るが無視の態度を貫いた。
 そして、この1月。大きめの声で、「ケンちゃん、こんにちは!」・・・ケ、ケンちゃんは、反射的にか細い声で、「こんにちは…」と返してくれた。単なる反射?
 反射だろうがなんだろうが、とうとうやりました。10か月かかりましたが、表面的には、会話成立です。

 2月。ケンちゃんの水泳の先生が、「ケンちゃんが『犬かき』が出来るようになったんですよ!」と嬉しそうに教えてくれた。
 「『犬かき』って今でもあるのか?水泳教室で、犬かきを教えているのか!」新鮮な驚きでした、「犬かき」という言葉が生きていたことが。そ、それは大した問題ではなくて…ケンちゃんが泳いだということが素晴らしいですね。それにしても、ケンちゃんの先生は、なぜ私に「ケンちゃん情報」を入れてくれたのであろうか?これも不思議のひとつ。(私が、ケンちゃんとお友達になりたがっていることが、読まれていたということでしょう)

 私は、ケンちゃんを褒めましたよー。「ケンちゃん、犬かきできるんだってねー!すごいねー。上手だねー(見ていないけど)。えらいねー。大したもんだね・・・!」ケンちゃんの反応は…本当に喜んでおりました。「キー」とか「ヒー」とか奇声を発しながら、トドのジャンプを続けておりました。

 帰り際に、エントランスロビーでケンちゃんと一緒になった。大きな声で「ケンちゃんサヨナラー」といった。ケンちゃんは、小声ながら、「サヨナラ」と、返してくれた。苦節11か月、ケンちゃんとの会話がー…あ、あいさつが成立というのが正しいですかね。

 夕食時、「11か月間いかに努力したことか!そしてとうとう反応していただいた!」と、私の自慢話の花が咲いた。(一方的に咲かせた)
 す、すると家人は…
 採暖室で、ケンちゃんと一緒になったので、オリンピックの男子フィギュア観た?と、聞いたら、「観た」と、言ってたよー。「…」
 なんと…11か月努力した私が、何の努力もしないオバサンに完敗…。

 もうすぐ今年度も終わり。ケンちゃん、来年度もプールへ来るかなあ…。
 ん?…私が、ケンちゃんに楽しまれてる…?

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