昭和の名俳優・高倉健の一周忌ということで各テレビ局が高倉健主演の映画をいくつか放送している。そのうちの一つ『君よ憤怒の河を渡れ』(1976)を見た。
制作された時代を考慮し、21世紀に入ってからの見地で作品をあれこれ評すのはアン・フェアな気もしているのだけども、率直に言って「日本でこのような映画が制作されていたこと」にまず驚いた。作品は邦画の映画史における一つのターニングポイントと目されるものであったろうし、文化大革命が終結してから中国で最初に公開された外国映画であったことで、歴史的意義が深いのは分かるのだ。
ただ高倉健という俳優について、個人的には、朴訥で心根は優しくて他人思いで強くて男女から慕われる男という役柄を演じ続けたイメージあって、また『南極物語』以降の作品しか知らなかったこともあり、『君よ憤怒の河を渡れ』のような作品に高倉健が出ていたことが意外であった。若輩者の浅見と高倉健ファンの方々には切って捨て置いていただきたく思うが、私はこの作品については俳優は悪くないものの高倉健主演作品としては黒歴史ではないかと思ってしまったのである。
作品は濃厚圧縮詰め込み型サスペンスアクションスペクタクル巨編というべきだろう。ずばり「逃亡者」『第三の男』『ゲッタウェイ』「007シリーズ」を綯い交ぜにした展開である。アメリカでヒットした作品に対抗しようとしたか、リスペクトしようとしたか、その両方が相まっての野心がこの作品をつくらせたのだろうか、私には分からない。一視聴者としては、こんだけ話しを広げてどう収拾つけるんだ?と心配になってしまったし、既視感たっぷりのぶっ飛び怒涛の展開の連続に笑うしかなくなったし、途中からどんな結末になるか見届けてやろうじゃないかと腹をくくるような作品を見たのは、随分久しぶりな気がした。同時に古き時代の作品にどこか懐かしいような気分を味わえたように思う。
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