1965年
バックスクリーンに各地のスコアが記入されていく。五回、巨人が「1-1と追いついたあと」広島攻撃のスコアが中日8-4のリードとかわった。いやでも一塁ベンチからはよくみえる。猛追する中日。おそらく巨人ナインは、最後までこのスコアボードが気になってしようがなかったろう。一回表、一死。岡嶋のファウルを森が足にぶっつけて店頭、ホームベースよこで苦しみもがいた。その負傷が巨人の敗戦につながるとは、おそらくだれも予想しなかったにちがいない。1-1で迎えた八回。サンケイは徳武がヒット、渡辺はバントに失敗、一死一塁となり、別部がボックスにはいった。巨人の投手は宮田。捕手は大橋に代わっている。アウトコースへ3球、カウントが1-2となった。「大橋とボクは神宮の同期でしてネ。やっこさんの気性はよく知ってるんです。アウトコースのあと、つぎはインコースを攻めてくることをネ・・・。そしたら、あんのじょうインハイ。ねらってましたからおもいきり振りましたヨ。宮田からは、今シーズンたしかはじめてのヒットじゃないかナ。それにしてもクセをなおしていなかったのが幸いしました・・・」よく日にやけている。笑うと顔だけが白くカクテル光線に光る。大橋が要求したのか、宮田が自信を持って投げたインコースなのか、いずれにしても「勝負強いやつだヨ、あいつは・・・」砂押監督がホレこんでいた。勝負強さのなかにも計算がちゃんとあったわけだ。七月にはいって故障、長いあいだ大倉山にもぐっていた別部としては、そのうっぷんをはらす一打にちがいなかったろう。「いやあ、びっくりしましたヨ。王のホームランがでたときはー。なにしろ初勝利目前でしたからネ。九回、長島に打たれたが、あすこは投げなかったです。でも、勝ったんだから」立命大のエースとして活躍、今シーズンのテスト生に合格した渡辺は、これがプロ入りはじめての勝利投手。メガネをとり、汗をあついタオルでぬぐうと、静かに勝利のピッチングを解剖した。「カーブがよかった。調子もいいし、大事な試合に出してくれた以上、死にものぐるいで投げようと思ってふんばりました。でも、ボクがよかったんじゃないです。平岩さん、根来さんのおかげです」巨人が森のケガから大橋にスイッチ。これが別部のホームランを呼び、敗戦につながった。六回、渡辺がピンチに立つと、ベテラン根来のインサイドワークにまかせたサンケイ・ベンチ。明暗がここでわかれていたわけだ。ざわついているのはロッカーから出てきた砂押監督の勝因は少しちがっていた。「巽がよくなげたことだヨ。前半、うまくおさえたことは、巨人にあせりをもたせたものナ」
バックスクリーンに各地のスコアが記入されていく。五回、巨人が「1-1と追いついたあと」広島攻撃のスコアが中日8-4のリードとかわった。いやでも一塁ベンチからはよくみえる。猛追する中日。おそらく巨人ナインは、最後までこのスコアボードが気になってしようがなかったろう。一回表、一死。岡嶋のファウルを森が足にぶっつけて店頭、ホームベースよこで苦しみもがいた。その負傷が巨人の敗戦につながるとは、おそらくだれも予想しなかったにちがいない。1-1で迎えた八回。サンケイは徳武がヒット、渡辺はバントに失敗、一死一塁となり、別部がボックスにはいった。巨人の投手は宮田。捕手は大橋に代わっている。アウトコースへ3球、カウントが1-2となった。「大橋とボクは神宮の同期でしてネ。やっこさんの気性はよく知ってるんです。アウトコースのあと、つぎはインコースを攻めてくることをネ・・・。そしたら、あんのじょうインハイ。ねらってましたからおもいきり振りましたヨ。宮田からは、今シーズンたしかはじめてのヒットじゃないかナ。それにしてもクセをなおしていなかったのが幸いしました・・・」よく日にやけている。笑うと顔だけが白くカクテル光線に光る。大橋が要求したのか、宮田が自信を持って投げたインコースなのか、いずれにしても「勝負強いやつだヨ、あいつは・・・」砂押監督がホレこんでいた。勝負強さのなかにも計算がちゃんとあったわけだ。七月にはいって故障、長いあいだ大倉山にもぐっていた別部としては、そのうっぷんをはらす一打にちがいなかったろう。「いやあ、びっくりしましたヨ。王のホームランがでたときはー。なにしろ初勝利目前でしたからネ。九回、長島に打たれたが、あすこは投げなかったです。でも、勝ったんだから」立命大のエースとして活躍、今シーズンのテスト生に合格した渡辺は、これがプロ入りはじめての勝利投手。メガネをとり、汗をあついタオルでぬぐうと、静かに勝利のピッチングを解剖した。「カーブがよかった。調子もいいし、大事な試合に出してくれた以上、死にものぐるいで投げようと思ってふんばりました。でも、ボクがよかったんじゃないです。平岩さん、根来さんのおかげです」巨人が森のケガから大橋にスイッチ。これが別部のホームランを呼び、敗戦につながった。六回、渡辺がピンチに立つと、ベテラン根来のインサイドワークにまかせたサンケイ・ベンチ。明暗がここでわかれていたわけだ。ざわついているのはロッカーから出てきた砂押監督の勝因は少しちがっていた。「巽がよくなげたことだヨ。前半、うまくおさえたことは、巨人にあせりをもたせたものナ」