1963年
ぼくは異常体質だと数年前から言っていた広島カープの長谷川良平投手、身長160㌢、体重62㌔の恵まれない体で、しかも広島という弱体のバックをもって14シーズン投げつづけ200勝の仲間入りをしようとしているのだから驚異といっても言いすぎではない。長谷川は昭和二十五年広島に入団、この前の四月二十七日西日本パイレーツから初白星をあげたのが200勝へのスタート。それから堂々として、文字どおり堂々として弱体バックに悩まされながら投げつづけた。長谷川の右腕はねじくれて手の平が外側を向いている格好になっている。あまりシュートを投げすぎたので腕がこんなに曲がってしまったと笑っているが、この腕が長谷川のピッチングのすべてを物語っている。若い投手がカーブを投げるのを見てワシもカーブが投げられたら楽だが・・・。投げられるヤツは羨やましいよともらしていた。カーブの投げられない投手なんか考えられないが、長谷川はとうとうカーブを本式に投げず、シュート、シュートのシーズンである。腕も曲ろうというものである。長谷川の投手訓というべきピッチングのコツは若い投手が学ばなければならないものを沢山もっている。一番根本になるものは、ピッチングは攻める気持が大事だそうだ。打者は逃げては打てない。ところが投手は逃げることで成功することもある。だが逃げmわって投げることは滅多にできない。逃げる、攻めるとの言葉は同じでも内容は違う。弱点に投げるという表面の形は同じでも、ここに投げると打たれそうだからそっちに投げようというのと、ここへ投げれば相手は絶対に打てないという気持で投げるとでは、タマはイキが違うし打者はいつも打ってやろうという気持と失敗しないかという気持と二つが同居している。たとえば一塁に走者がいると、内野ゴロを打ってはいけないという弱点がある。そこがこっちのツケ目。そこへはまり込むようにすればいいわけで、三割打者だって10本に7本は失敗するんだから投手の方がズッと有利です。投手の投げるタマから始まって打者はそれに対応して動かなければならないのだから・・・。と試合の主導権は投手が握っているという。しかし、そこをどう持っていくかが問題だが・・・。と十四シーズン目のベテランもにが笑いをしている。