1963年
六回まで大毎打線は二十歳投手伊藤にキリキリ舞い。外野飛球5、内野ゴロ9(遊ゴロ5、二ゴロ3、一ゴロ1)打者十八人が三者凡退をくり返した。速球にまじえるコントロールのよいカーブが小気味よく吉沢捕手のミットへー。榎本、山内などベテランもなすスベを知らない。記者席は史上八人目のパーフェクトゲームか?とあわただしくなりかけた七回、矢頭が1-2(この試合81球目)から三遊間を破り、このあわただしさはおさまった。プレート上の伊藤より、守っているナインのほうが、くやしそうに天をあおぐ。プロ入り初めての完封勝ちをした伊藤は、昨年積水化学から近鉄入りした本格派投手。うれしさをかくしきれぬようにニコニコと終始顔がほころぶ。「七回、矢頭さんに打たれたときは、ちょっと残念でしたヨ。だけどそれまでができすぎでしたから・・・。そのご二盗されて山内さんに投げたときは無我夢中でした。カラぶり三振にうちとったのはスライダーだったと思います」昨シーズン五試合に登板2・70の防御率を残した伊藤は今シーズン、足に故障を起したり背中を痛めたり不運なスタートをきった。「やっと思いきって投げられるようになったのは二週間ほど前からなんです」という。二日、西京極球場で2イニング投げプロ入り初の1勝、そしてこの日は無四球シャットアウト勝ちで2勝目をあげた伊藤は、加藤マネジャーが「おい、みんな待っているぞ。バスがでるからそれくらいにしてもらえ」の声でようやくベンチをあとにした。