1960年
波山が投手として自信をもったのは、昨夏の甲子園大会である。このとき、はじめてヒノキ舞台のマウンドを踏んだ波山は第一戦で杉町(長崎南山高ー西鉄)と投げ合い、2安打に完封、全員三振の17個を奪い1-0で勝った。体は大きくないが非常に度胸がよく外角ストレートと切れのいいドロップでクローズアップされたものだ。今夏も嶺岸のリリーフ役にまわってビッグフォアに残っている。ハワイ・アメリカ遠征に当然選ばれるはずだったが、韓国籍の波山は選抜チームにも国体にも出られなかった。試合で負けても涙をみせない波山だが、このときだけは男泣きにくやしがった。松尾部長に「籍だけでもいいから先生の子にして下さい」と頼み込んだほどである。が父親大植氏にきびしくしかられた。妻子を母国に置いたまま一旗あげようと単身日本にやってきた大植氏は常に韓国人の誇りをもてと一切甘えることを許さない。波山の強い性格、すべてに全力を傾ける集中力は、父親のこうした教育に芽ばえたのだろう。松尾部長も「残りがないと思うほど、いつも一生懸命にやっている」という。非常にバネが強い。毎朝家の近くの愛宕山神社で百八十段の階段を五往復するランニングできたえた強さである。それだけに波山のバネは、なまくらではない。ストレートもかなり速いが、もう一息の威力がない。だが、ドロップには絶対の自信をもっている。「2ストライクをとってからおもにドロップで勝負するがいままで打たれたことはほとんどない。しかし、左打者には投げにくい。シュートで外角を攻めようと思うが、シュートのコントロールに自信がない。これからは、シュートをマスターし、ピッチングにうまさをつけたい。人より体が小さいのだから、打たせてとるコツを覚えないとダメだと思う」十八年間、あまり人にたよらなかった波山は自分のことをよく知っている。波山が生きるとしたら、やはり技巧だろう。波山は、上体が堅いとよくいわれる。スピードが足りないのもこのためで、上半身がかたく、腕の力が抜けていないからだ。これが波山からとれたとき、その真価があらわれる。ショート・リリーフならすぐにでも使える投手だが、みがけばみがくほど光る素質をもっている。「高校では自信があったが、プロでどの程度やれるかわからない。早く一人前になりたい。大洋のチームカラーは好きだし、三原さんが監督になられたし、やりがいがあるので一生懸命がんばる」というのが波山の抱負である。釣りが好きな静かな男だが時代劇の切り合いが好きという一面もある。1㍍73、68㌔。
松尾部長の話 体力はないし、練習もプロに比べたら十分でない。高校でどうにか投げても、プロの世界は格が違う。選手に好かれる人になるよう心がけてほしい。波山は力をふりしぼり、全精神力を集中して投げる。それが波山のとりえだ。その半面、反動で投げるから球が軽い。ストレートは不十分だが、ドロップがいいので、リリーフ投手向きだ。打者一巡まではすぐでも投げられるだろう。プロでの投球のコツを覚え、早く一人前になるよう期待している。
波山が投手として自信をもったのは、昨夏の甲子園大会である。このとき、はじめてヒノキ舞台のマウンドを踏んだ波山は第一戦で杉町(長崎南山高ー西鉄)と投げ合い、2安打に完封、全員三振の17個を奪い1-0で勝った。体は大きくないが非常に度胸がよく外角ストレートと切れのいいドロップでクローズアップされたものだ。今夏も嶺岸のリリーフ役にまわってビッグフォアに残っている。ハワイ・アメリカ遠征に当然選ばれるはずだったが、韓国籍の波山は選抜チームにも国体にも出られなかった。試合で負けても涙をみせない波山だが、このときだけは男泣きにくやしがった。松尾部長に「籍だけでもいいから先生の子にして下さい」と頼み込んだほどである。が父親大植氏にきびしくしかられた。妻子を母国に置いたまま一旗あげようと単身日本にやってきた大植氏は常に韓国人の誇りをもてと一切甘えることを許さない。波山の強い性格、すべてに全力を傾ける集中力は、父親のこうした教育に芽ばえたのだろう。松尾部長も「残りがないと思うほど、いつも一生懸命にやっている」という。非常にバネが強い。毎朝家の近くの愛宕山神社で百八十段の階段を五往復するランニングできたえた強さである。それだけに波山のバネは、なまくらではない。ストレートもかなり速いが、もう一息の威力がない。だが、ドロップには絶対の自信をもっている。「2ストライクをとってからおもにドロップで勝負するがいままで打たれたことはほとんどない。しかし、左打者には投げにくい。シュートで外角を攻めようと思うが、シュートのコントロールに自信がない。これからは、シュートをマスターし、ピッチングにうまさをつけたい。人より体が小さいのだから、打たせてとるコツを覚えないとダメだと思う」十八年間、あまり人にたよらなかった波山は自分のことをよく知っている。波山が生きるとしたら、やはり技巧だろう。波山は、上体が堅いとよくいわれる。スピードが足りないのもこのためで、上半身がかたく、腕の力が抜けていないからだ。これが波山からとれたとき、その真価があらわれる。ショート・リリーフならすぐにでも使える投手だが、みがけばみがくほど光る素質をもっている。「高校では自信があったが、プロでどの程度やれるかわからない。早く一人前になりたい。大洋のチームカラーは好きだし、三原さんが監督になられたし、やりがいがあるので一生懸命がんばる」というのが波山の抱負である。釣りが好きな静かな男だが時代劇の切り合いが好きという一面もある。1㍍73、68㌔。
松尾部長の話 体力はないし、練習もプロに比べたら十分でない。高校でどうにか投げても、プロの世界は格が違う。選手に好かれる人になるよう心がけてほしい。波山は力をふりしぼり、全精神力を集中して投げる。それが波山のとりえだ。その半面、反動で投げるから球が軽い。ストレートは不十分だが、ドロップがいいので、リリーフ投手向きだ。打者一巡まではすぐでも投げられるだろう。プロでの投球のコツを覚え、早く一人前になるよう期待している。