高橋慶彦

1974年
城西の高橋投手は「先取点を取られたら負けだ」と予想していた。「お互いに初めての甲子園でしょう。だから先手を取られたら焦りで苦戦を強いられると思っていたんです」という。それが初回、いきなり佐世保工の先頭打者に二塁打を喫してしまったのだ。次打者を三振にとったものの、四球を出して一死一、二塁のピンチを招いた。いつもの高橋なら、ここで四球を出すか連打を浴び、ズルズルと点を取られるケース。「短気なんですよ。自分ひとりで抑えようとして気負ってしまう」（下田捕手）からだ。川上監督も、そのへんのことは十分承知しており、落ち着くようにアドバイスしていたが「１、２点の失点は覚悟していた。あとで点を取り返せばいい」と目をつぶったほどだ。だが、この日の高橋はちがっていた。「あの二塁打を喫したときは、くやしかった。でも考えたのです。みんなで、出場したからには、甲子園で校歌を聞こうと誓い合ったことを。バックを信頼して打たせてとろうと思いました」という。冷静さをとり戻した彼は、後続打者を連続三振に打ちとりピンチを切り抜けた。信頼したとおり、バックが二回に先取点したことも「いける」と自信を強めた。以後のピッチングは直球で佐世保工打者を追い込み、上、横からの二種類のカーブで押し切るというマイペースのパターン。佐世保工の四番打者林に「カーブに幻惑された」といわせるほどの好調さで２安打、三塁を踏ませなかった。東京代表として四十年の日大二・神山が一回戦の岡山東商に完封勝ちして以来、九年ぶりの完封。試合後、下田捕手は女房役らしい見方をしていた。「東京都の予選のときから試合が終わるとお前は独り舞台になり過ぎるといつもつかみ合いになりそうになるまでやり合ってきたことが実を結んだのではないでしょうか。それにあいつは、お客さんが多勢いるとやる気が出るんですよ。きょうもテレビに映るんだから、がんばらなくちゃ、といっていました」高橋自身も「あがりもせず、これまでの最高のピッチング」と、晴れ晴れした顔を見せた。

中島浩人

1984年
「情けないですねえ。4月10日西武戦で先発したんですけど、3回で3失点。安打は3本、辻と西岡と鴻野ですか、打たれたのは。いけないのは、そのヒットよりも四球が4個だったことですね、パスボールなんかもありましたけど」と悔しがる期待の大型左腕、中島浩人（横浜商ー日本鋼管ー巨人）一昨年に5位指名をされ、1年待っての入団。期待度大なのである。ーもちろん、円満退社ですよ（笑）公約（都市対抗出場）もしっかり果たしたし、反対はなかったです。おふくろが心配して、最初は反対みたいだったですけど。だから、昨秋の宮崎キャンプは途中から参加してたんです。まあ、顔見世みたいなもんでしたが（笑）調子ですか？いいんですけど、どうしたんですかね。もう試合はいくつか投げているんですけど、内容がダメですね。ストレートが高くて四球が多い。これなんです。投球のフィニッシュで、指先でボールを切ろうとすると高目にいってしまうんです。高橋一コーチには体が早く開く、とキャンプ前半にいわれたくらいですね、フォーム的には。いまはそれよりクイックの投球ですね。投げ方が大きいから、ランナーにみんな走られるということで。プロに対しての印象ですか？偉大ですねえ（笑）宮崎のオープン近鉄戦では三井選手にデカい一発を食らったし、高橋コーチにはかみなりを落とされるし。あのときは満塁になってからビュッと球が行き出したもんですから、最初からそれを投げろということで。やはり一番自信のあるのはストレートですか。カーブ、シュート、スライダーと一応何でも投げますが。目標は入団のときから、ことし中に上（一軍）に上がれたらいいんじゃないかと（笑）ま、早く、自分のコレッ！！といった武器を身につけて上にいきたいですね、ハイ。Ｖ９を支えたあの左腕投手、高橋一コーチが付きっきりで見ている中島。一つ一つの球種は素晴らしいものがあるのに、いざマウンドに上がると、まだそれが生かされていない。神奈川の社会人野球関係者は、うまく化けたら大変な選手になるだろうという。社会人生活が長かったわりにはそのピッチングは正直すぎる観もあるが、この点がよくなれば、中条、橋本らの左腕の比ではないものを持っている。デビューはオールスター明けかー。

片平哲也・大川隆

1985年
投打の中心は、最近とみに安定感を増してきた片平哲也だ。上手から投げ下ろすダイナミックな直球が身上。重い球質に優れたコントロールが加わり、この片平を打ち込むのは容易ではない。打っては5割3分7厘好打率（五月二十日現在）。ホームラン15本も光る。


激戦の首都圏勢では、銚子商（千葉）が攻、守ともに一級品。投手の片平、大川はともに右の本格派。球威もあり、カーブの切れもいい。この二人が打でも中心。上、下位の切れ目がなくチーム打率は四割八分九厘で「黒潮打線」復活と評判。


最近不調だが、練習ではスピード、コントロールとも抜群。本番ではコントロールをつけ活躍できるはず。




一方、斎藤監督に言わせれば、なんといっても片平の出来が勝負のすべてということになる。そのカギを握るエース片平と、投げろと言われればいつでも投げる、と意欲を見せている大川の2投手が約五十球、変化球を交えてピッチングを行った。片平は二日前あたりからボールのひっかかりがよくなり、球の放す位置が安定してきたというだけあって、低めへすばらしい伸びのあるストレート、切れのいい落ちるカーブを投げ、復調なったーを感じさせたし、大川も負けじと変化球を内外角へ小気味よく決めていた。片平は「これであとは本番までにコントロールが思うようになれば不安はありません」とすっかり自信を回復させたようだ。


雨がかなり激しく降る中でプレーボールとなったこの試合、力投型エース片平にとっては気の毒で、足の踏ん張りがきかず、ストレートは走っていたものの、カーブのキレ、コントロールはもう一つ。


ドラフト2位で指名した銚子商の片平哲也投手（18）＝182㌢、80㌔、右投げ右打ち＝の入団が五日内定した。田村スカウト部長は銚子商を訪ね、本人と両親、斉藤監督らを交えて二度目の入団交渉をし、契約金四千万円、年棒三百六十万円（推定）を提示、内諾を得た。同投手は長身からの速球が武器で今夏の甲子園大会に出場。斉藤監督によると「非凡な打撃センスを持っている」素材で、中日はその打撃を生かし内野手として育てる意向も持っている。


片平は長身からの速球を武器にする本格派で、打撃もよく今夏の甲子園大会に出場。


片平投手の話　投手か野手かは球団の方針に従う。どちらでも頑張る。銚子商出身の宇野さん、尾上さんのように後輩の目標になる選手になりたい。

松井芳男

1954年

最近はそれにしても九学の進境が目立つ。九学はピッチャーに松井、井村がいて、松井はライオンズの西村に似たオーバースローの豪速球、調子のいいときは相当な打者もちょっと手が出ない。井村は下手投、この両者の継投策でこられると他チームにとってもちょっとした脅威。

奈部川勉

1985年


「今まで最高のピッチングです。変化球で打たせて取ろうと思い、カーブで低めをついたのが成功しました」－。無シードとはいえ、手ごわい千葉商を完封した奈部川君の第一声。187㌢の長身がより大きく見える。しかし0-0が続きしんどかったとも言った。


1986年


左の速球派奈部川は大会屈指の好投手。低めへの制球を鍛え万全を期する。


速球を武器とするエース奈部川が投打の中心。


評価が高いのは成田西高の奈部川投手。千葉県で高校ナンバーワン投手と定評があったが、明大進学が内定し、各球団がドラフトでの指名を避けていた。

嶋田哲也

1993年
阪神の先発・嶋田哲は大きく流れるスライダーを武器に広島打線に長打を許さず、四回に併殺くずれの久慈の悪送球で失った1点だけで久保につなぎプロ初勝利。


「シマダ」でなく「シマタ」と呼びます。その嶋田哲也投手が7月29日、広島戦（甲子園）でプロ初勝利。「やっぱりいいもんですネ。うれしいですよ」先発して5回を7安打されながらも1失点に封じ込んで、あとはベテラン・久保のアシストを受けてのプロ1勝。山口・柳井商から、社会人王子製紙米子を経て90年ドラフト5位で阪神入団。1年目は2試合の救援経験があるが、昨季は一軍での登板なし。プロ3年目の今シーズン5試合目にこの初白星なので、感慨深いものがある。実家の山口・下関に住む兄・憲泰（のりひろ）さん（31歳）の家族と裕子夫人（24歳）がスタンドで応援する中に、「シマタ」が力投を見せた。「僕の性格からして、抑えようという気持ちが先行すると負けてしまいますからね」と冷静なピッチングで初のお立ち台。「今日の喜びは今日でしまって、次にまた自分の力を出し切るだけです」とクールに答えていた。

上杉嘉章

1961年


上杉投手は左腕独特の打者のヒザもとをエグる球と外角低めの直球は磨きがかかり、カーブも鋭く切れ、春よりはグンと威力を増しエースとしての貫禄十分。

一方安芸の先発上杉はコントロールに苦しんだが、すぐ立ち直り、持ち前のシュートを主武器に七回までに10三振を奪う好投だった。だが、八回一死後、打撃妨害で出塁した山田を一塁に置き、横井に四球を与え、次打者三振のあと岡崎に右前打され1点を返されたころからオーバーハンドの押えがきかなくなり九回にも四球連発で満塁。つづく山田に走者一掃の二塁打をきっしてついに降板した。