プロ野球 OB投手資料ブログ

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伊藤久敏

2016-07-25 21:52:39 | 日記
1971年

伊藤久ははっきりおぼえていた。そして誇らしげにいった。「たしかあれは阪神の優勝の望みを断つ完封だったですね」巨人と息づまるようなデッドヒートを演じていた阪神が、とどめを刺された昨年十月二十一日の対中日最終戦。そしてことしは、やっとの思いでこぎつけた勝率五割を「さあ、これから確保」という矢先に、また妨害役どちらも伊藤久がその年初めての完封勝ちだけに、阪神にとってはこれほどにっくき男はない。勝率を待望の五割に乗せた前日とは打って変わり、ニガい顔の村山監督とは対照的に、阪神キラーからは笑いが絶えなかった。「このところ3連敗と足踏みをつづけていたし、念願の10勝へ到達する意味でも、この1勝は大きい」横一線だった水谷寿、渋谷を一歩リードする9勝目は「百点満点」と自分で採点したほどの、ことし最高のピッチング。チーム内では指折りの好青年で「欲がないのが欠点」(江崎スコアラー)だが、宿舎(芦屋・竹園旅館)を出発する前から「きょうは完封できそうな気がする」という予告を実現させるしぶとさも持っている。もっとも、この日の好投は、水原監督からの「正面からぶつかれ」のアドバイスを守ったのがよかったらしい。「いつものように変化球でくると思っていたんでしょうよ」という伊藤久の言葉を裏付けるように阪神・梅本スコアラーは「いつもと違ってストレートが多かった。それも内角低めに実にいいコントロールで投げていた。あれではちょっと打てない」といっている。それでも伊藤久は自分だけの手がらにはしなかった。この日、久しぶりにコンビを組んだ駒大の一年先輩の新宅のリードをちゃんとたたえた。「一度も首を振らなかったくらいですからね。ぼくの持ち味をうまく引き出してくれました。全く大船に乗ったような気持ちだった」阪神にはことし六試合投げて1勝2敗だったが、二十九イニングで6失点。「六回のピンチで藤田平を迎えたときも打たれるような気がしなかった」これでプロ入り四完封のうち三つまで阪神からマークしているが阪神観についてはおもしろいことをいった。「打撃の方はなんとか押えられるが、投手がいいからあまり好きな相手ではないんですよ」ことしは念願のオールスターにも出場し、つぎの目標は10勝。「10勝目へ二十五日からの巨人戦でやりたいですね」ネット裏でメモをとる巨人・小松スコアラーは、マウンドの伊藤久をくいいるようにみていた。

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