一本歯のヒビさん

2001年11月27日 | 友人

ヒビさんとは、私が20歳のときに会った。
私はこれまでいろんな人とつきあってきたが、
これほど変わった人はいない。
ヒビというのは本名ではない。
ほんとの名前は知らない。

いつも一本歯の下駄を履いていた。
髪の毛は背中の中ほどまで伸ばしていて、
いつもは紐でゆわいていた。
顔は面長で髭をはやしていて、
まるで田舎侍のようだった。
歳は、私より2、3上だった。
ある漫画家の
アシスタントをしてたこともあったようだ。
その頃、仕事はしてなかったように思う。
私のアパートに来ると、
「キュータロー飲みに行こう」と、私を誘う。
(私のことを、キュータローと呼んでいた)
誘うが、お金は出さない。
だって、金がないんだもの。
そして別れ際に、
500円とか1000円貸してくれという。
私もお金がなかったが、
そのぐらいの金額なので貸していた。
貧乏な私なので、これが重なると辛かった。
お金を返してもらったことはなかった。
でも、ヒビさんといると楽しかった。
話題が豊富だった。
いろんな話をして私を飽きさせなかった。
新宿なんかをヒビさんと歩いていると、
みんなが振り返って見た。なにしろ一本歯だ。

あるときアパートに帰ると、ラジカセがなかった。
独身のとき私は、部屋に鍵は掛けていなかった。
「ちょっと借りる」とヒビさんの手紙があった。
おそらく質屋に入れたんだろう。
その後、私にとってすごいことがあった。
ヒビさんの“へんな”プレゼントだった。
そのあと、ヒビさんは来なくなった。
今はどんな暮らしをしているんだろう。
会いたい。

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