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言わずと知れた島崎藤村の代表作。
差別を題材にした小説だけど、自分はこの問題について語るだけの知識も見識も持ち合わせていないので、ここでは触れない(この本の巻末に「『破戒』と問題」と題した解説文が付されており、解放運動の歴史を知ることができ、勉強になる)が、そういった社会的テーマを別にしても、なかなか読み応えのある小説だった。
文庫本で400頁を超える長編にもかかわらず、一気に読んでしまった。
主人公の揺れ動く心理が全編に亘り描出されるが、北信濃の晩秋から初冬にかけての寒々しい光景や人々の貧しく苦しい営みの描写が、主人公の苦悩と重なり効果を増す。
特に、主人公の父を殺した牛がされる場面の生々しさは印象的。
作劇としてはややご都合主義に過ぎるところがあったり、人物造形がステロタイプだったりする面もあるが、それが気にならないくらいの迫力を発している傑作だと思う。