昨夜『わるいやつら』最終章を何度目かにリプレイしていて(←まだやってるんですハイ。病膏肓だね)、初見でひっかかっていたことをやっと思い出しました。仮出所前の戸谷の髪を切っていたユニセックス(爆)な模範囚は、リリアーナ・カヴァーニ監督の70年代の作品に準レギュラーのように出演していたダンサー、アメデオ‐アモデオに、瓜実顔の容貌や雰囲気がそっくりでしたね。
あのアメデオ‐アモデオという奇妙なクレジットの人は、職業俳優ではなく、たぶんクラシック出身のバレエダンサーさんだったのではないかと思いますが、73年『愛の嵐』でも77年『ルー・サロメ/善悪の彼岸』でもいわゆる“死の天使”的キャラでした。特に後者で、脳病に冒された哲学者ニーチェの半幻覚として登場、光溢れる桟橋の上でニーチェに向かってマントをはだける衝撃的な場面は忘れられません。もう20年近く前にTV深夜劇場から録画した(90年代初頭くらいまでは、地上波民放の深夜に、知る人ぞ知る系の、おもに文芸ものの洋画を字幕でよく放送してくれていたのです)VTRも処分して久しいのですが、わるやつの妖艶な髪切りくんのおかげで、もう一度『善悪の彼岸』、観たくなりました。結局、月河、“怖い女とダメ男”の話が、アチラ物であれ国産であれ大好物だということなのかもしれません。
戸谷に「出所したら最初に何をしたいか」訊いて「…別に」と言わせ、戸谷の抜け殻っぷりを提示するだけの場面なら、別に普通の無骨な囚人でも看守でもよかったと思うんですが、“男の美容師にはアッチ系統が多い”という通説をなぞったのかな。でも『わるやつ』も典型的“怖い女”の物語だし、監督さんが『善悪の彼岸』を昔、観ておられて、脳裏のどこかに“死の天使”キャラがあってあの演出になった可能性はないかな…と想像するのも楽しいです。
さて、『爆笑オンエアバトル セミファイナルB in 愛知稲沢』(9日24:00~25:00)。ひとこと、「みんなどうしちゃったのー!!」ってくらい全組、精彩なかったのなんのって。
期間オンエア回数と獲得バトル数(=ポイント)で上位の20組(A、B各10組)。レギュラー放送を今期はほとんど観ていなかった分、「あのユニットがセミに残れなくて何でコイツらが?」というような疑問や不満はなく、全組(よく観ていた頃からのお馴染みさん数組も、個人的にお久しぶりなので)先入観なくフレッシュに観ることができたのはよかったのですが、ホント、どうしたのよみんな。ネタとネタの間、ボケてからツッコむまでの間がぎくしゃくしまくり。放送マイクが拾う反響も微妙に寒いところが何度かあったけど、会場の雰囲気が、パッと出、よほど良くなかったのか。
それにしてはバトル数はインフレ気味で、前週セミA in廿日市での最高がラバーガール910で、オーバー900は彼ら1組だけだったのに対し、今回セミBは1位タイムマシーン3号986を筆頭に、通過ラインの5位ハマカーン922までオーバー900。
8位から10位の下位3組は揃って上位組の半分に満たない400台という二極化も顕著でした。この下位3組に関しては、ネタ序盤の1~2分で本人たちが「今日は俺らダメだな」と明らかにあきらめてしまい、後半に向かってますます失墜して行くといういちばん痛い展開でした。
「客席はいまいち熱くなってくれなくて演りにくいんだけど、タマ入る組はやたら入ってる」という、失墜した組にはなんともフラストレーティングなステージだったのではないでしょうか。
あまり痛々しかったので名前は伏せておこうかと思ったのですがブログだし、若手だし、これからに期待だし、8位U字工事、9位5番6番、10位我が家。もうね、流れ止めない程度に細かく噛む噛む、ネタ本筋間のくすぐり滑る滑る、ボケセリフにツッコミセリフの言い出しがかぶるかぶる、よってテンポモタるモタる。5番6番は特に、ネタ選択もどうかと思いました。「痴漢冤罪の被害を少しでも防ぐために、いま僕らにできることは漫才だけじゃないですかー」「……やりづれーよ」の流れは、何年も前にスピードワゴンがやってたのと同じ。若手とは言えある程度キャリア、場数を踏んでいる人たち同士のバトルだけに、ネタのストックからどれを使うかの選択も重要ですね。「こっちのでホントによかったんかな?」みたいな迷いが拭えないまま本番スタートするとこうなってしまう見本。
そんなはじけない空気の中、演技順の浅さを吹っ切りの早さに変換した流れ星、ハマカーン、逆に最終順を開き直りにつなげたNON STYLEが辛うじて気を吐きました。“いつものボケ”に“いつものツッコミ”がちゃんと予測通りに来て、寒い隙間風を最小限に食い止めました。特に流れ星中島、ノンスタ石田はキモ演技身上のタイプのボケだけに、後先の組のデキ如何を気にせず演りきれたのがラッキーだったと思います。
落選組では個人的に、三原色スーツに便所スリッパの昭和臭、Bコースにもうひと声欲しかったかな。いや点数的にも、ご本人たちのネタ的にも。4位通過エレファントジョン辺りとならネタの質はさほど遜色ないと思うんですが、跳んだりはねたりのドタバタ系にはつらい空気の日だったし、「タマならあるけどぉ~」のオカマネタは要らなかった。
星野卓也には別な意味で笑かしてもらいました。難しい空気の中、いつもの「とにかく勢いで喋り切れ!」な速射砲スタイルがかえって安心感を呼んだということもあるけど、それにしてもあくまでつなぎのはずの“本当にあった変な校則”がネタ中いちばん食いつきいいんだものなぁ。「学校内ではなるべく死なない」でこの日会場最大の爆笑とってませんでした?若手発展途上とは言えお笑いでおカネもらってる人たちが考え抜いたネタよりも、実社会に普通にある事象をそのまま読み上げたほうが笑いが取れるという、実になんとも「…やりづれーよ」な時代。
星野といえば、学生服もののネタをこれからもやるなら、できれば「ありえないんだけどありえないんだけど」を出し始めた頃ぐらいの体形、顔の大きさには戻してほしい。
全体的に、ちょっとある意味嬉しかったのは、万引き、引きこもり、痴漢冤罪など、ネガティヴな世相を積極的に取り入れたネタが多かったこと。シャレにならない事どもをあえてシャレのめして笑いに転じようという、若手にこの姿勢があればブームは去ってもお笑いに明日はあると思います。
セミA勝ち上がり組との比較は何とも言えないですね。
(『セミファイナルA in廿日市』のレビューはこちら)
A、B通過計10組の顔ぶれを見ると、やっぱり三連覇のかかるタカ&トシがいちばん楽しみになってしまうなぁ。