イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

複雑なプラント(植物)

2008-03-17 00:59:50 | 映画

先日『真夏の薔薇』サントラCD取り寄せオーダーしたレコード屋さん、棟続きに新刊書店もあり、当地ではここ30年来看板も商標も変わっていない、ゲームソフトも文房具も新古書もなし、本“だけ”を扱う書店として貴重な存在です。

レコード屋さんのあと、こちらもこの前訪れたのがいつだったか思い出せないぐらい久しぶりに覗いてみました。やはり中高時代、生活指導の教師たちがダカツの様に憎んでいた“放課後の寄り道”の定番コース。もう誰はばかることなく寄り道し放題。ちょっと淋しい気もしますが。

94年初版の『シンプル・プラン』(扶桑社ミステリー)がまた、当時の“雪上トレイル”画像のカバーのまま何で平積み?と思ったら、著者スコット・スミスの13年ぶりの新刊が出たんですね。わかりやすい抱き合わせ展開で並び平積みされてました。

『ルインズ 廃墟の奥へ』上・下(扶桑社ミステリー)。

『シンプル・プラン』と言えば、95年版『このミステリーがすごい!』(宝島社)の海外部門1位に輝いた作品です。月河は94年の4月アタマに、“平凡な生活は破壊され、/しだいに混沌と恐怖の深みにはまり込んでいく。”の帯コピーに惹かれて買い、同年桜花賞のWINSに持ち込んで、パドック周回を待ちつつ読み進んでいた記憶があります。確か柴田善臣先生のノーザンプリンセスと、ゴールデンジャックとあとアグネスパレードに突っ込み武豊オグリローマンにやられた年じゃなかったかな。本当に豊ときたら。まぁ終わったことはどうでもいいや。

ひと言で言えば“痒いところに手の届く”生活サイコ・サスペンスといった趣き。ノーマルを踏み外した心理が織り成すサスペンスでも、凶悪かつ精神病理学的コンプレックスなシリアル・キラーや手練れのプロファイラーではなく、片田舎のありふれた小市民が主人公な点で“生活”サイコ・サスペンスと思ったわけです。

痒いところに手が届くばかりか、“いまはまだ痒くないところ”にまで手を届かせて見せ、その結果“痒くないのに、なんだか痒くなりそうな気”にさせる、そんな料理法のサスペンスという印象でした。

要するに、「この人物がこういう状況に陥ったら、こんな心境になってこういう行動に出るんじゃないかな、出なきゃいいけどな」と読者が想像する先を、先回りに次ぐ先回りできちきち描写してくれる。出来がいいか悪いかで言えば、当然いい方に属するんだけど、むずかしいんだなぁ。ミステリって、“すごくおもしろいけれど、好きにはなれない”って作品が、たまさかあるのです。

『ルインズ ~』は同じ作者による、13年ぶりの新作です。カバーの内容紹介とあとがきをざっと読んで、メキシコ?秘境?発掘?マヤ人?『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』?…と、どう考えても“読みたいゴコロ”を刺激されない要素ばかりが目についたので中身はパラ読みもせずに置いてきました。

作家も13年も経てば書きたい世界が変わってきて当然だし、デビュー作である『シンプル・プラン』が映画化(ビル・パクストン主演)もされて、「次作はもっと派手な、ヴィジュアル受けするものを書いてほしい」という商業的な要望もあったのでしょうが、それにしても、ここまで趣味嗜好の合わない作者の作品を、一時的にでもおもしろそうと思って手に取り、クラシックシーズンたけなわのWINSのお供にまでしていたとは、我ながら嘘のよう。

思うに、『シンプル~』の「平凡な生活は破壊され…」という帯コピーがよほど強力だったのでしょうね。“日常性の裂け目”“凡庸な人間の二面性滲出”“善意ゆえにはまる陥穽”といった、“大好物の匂い”がしたのです。

スコット・スミスという、なんともアバウトな筆名のこの作者には、『シンプル~』の後、それこそシンプルにハンクとサラ夫妻の“13年後”を書いてもらったほうがウェルカムだった気がするなぁ。

コメント
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