昼間在宅しないとまず気がつかずに何週も何ヶ月も過ぎるのですが、NHKの朝ドラも4月から新作が始まったようです。
『瞳(ひとみ)』。……どうなんでしょ、『おしん』(1983年)ぐらいからか、ヒロインの役名がまんまタイトル、って作品がたまさか、最近は頻繁にあるようですが、なんか思考停止な感じがするな。“このドラマはこういうお話なんだよ”をタイトルから伝えることをはなから諦めてるというか、“こんな感じのお話っぽいな”と予断を持たれるのを避けて通ってるというか。
ま、『わかば』『さくら』『あすか』と、役名だけでじゅうぶんキャラとかに見当がついちゃう例もありますが。
『まんてん』『こころ』『天花』『ひらり』『ぴあの』となると、役名であることさえ言われないとわからないしな。
『瞳』のヒロインは榮倉奈々さん。制汗剤スプレーのCMが初見だったかな。顔が小さいわりに長身で堂々たるボディで、最近の若手女優さんはこういうタイプが多いですね。
深田恭子さんとか、ちょっと先輩で小西真奈美さんなんかもそう。顔だけ見ていると儚げだったり守ってあげたくなる風情なんだけど、ロングに引くと意外に地母神的でしっかり働けそう。昔も顔の小さい守ってあげたい系の女の子アイドルはいっぱいいたけど、本田美奈子さんや木之内みどりさんなど、カラダも顔サイズ相応に発達未だしな例が多かった。
“可愛さ需要層向けの若い女の子”に求める要素も、時代とともに変わってきたということでしょう。
『プロポーズ大作戦』でも女性陣でいちばん光っていたと思う榮倉さん、演技的にはかなり出来る人だと思うのですが、ヒップホップダンサー志望の設定だからといって「リスペクトっす」「シャラップっす」ってセリフはコント以下だろう。いくら朝ドラなんか若者は観ないといっても、ちょっと脚本の言語センス心配ですよ。
NHKの朝ドラで記憶にある最古の作品って何年の何だっただろう?と思い返すと、1969年の『信子とおばあちゃん』が浮かんできました。大谷直子さんのデビュー作で、“おばあちゃん”役の毛利菊江さんは、当時小学生が見るような子役ドラマの大半でお祖母ちゃん役レギュラーだった気がする。90年代に入って、市川雷蔵さんあたり主演の昭和30~40年代初期の邦画をビデオで見るようになってから、たいへんなベテラン大物女優さんだったと知りました。
サラリーマン出身作家の元祖・獅子文六さん原作だったことがうろ覚えにある程度で、建もの探訪渡辺篤史さん、あと新進気鋭で細くて男前だった中尾彬さんも出ていたかな。そもそも夏冬休みと、風邪で休んだ日ぐらいしか観られないので、お話はまったく記憶にありません。
年代を調べてみると、64年『うず潮』か66年『おはなはん』の頃から、NHK限定ならTVを観られる環境にはいたようです。記憶がないのは電波状態や機材(当然白黒TV)が悪かったせいもあるでしょうが、当時の実家が誰言うともなしに“幼い子供に教育テレビ以外の大人向けTV番組は見せるべきではない”という空気にあったことも確かです。月河がTVのある部屋に行く時間には、たいていスイッチは切れていた。もちろん夜は20:00過ぎには寝かされていたし、朝ドラに子供が観てまずい場面なんかあったはずもないのに、当時の大人はある意味TVという新参媒体に対して抑制的で、節度があったなと思います。
まあね、“自分が見るときはいつもスイッチが切れていた”という幼児なりのTV仰望感・飢餓感が、東海昼ドラリピーター月河を育てたと言えなくもないですがね。人生、子に良かれと思ってしたことが、とんでもない結果につながることもあるわけだ。
その後の朝ドラも、学生時代は当然夏冬春休み・帰省時しか観ないし、勤め人になってからはずっと7:00台には出勤電車に乗っていたので、「日本のTVにはNHK朝ドラっちゅうジャンルがあるのだな」と気がついたのは在宅労働になった90年代中盤~後半からです。
こうして考えると、NHKが毎作、放送開始の1年ぐらい前から一生懸命宣伝し、芸能界の一郭にも“朝ドラヒロイン出身女優”という1区画が成立しているにもかかわらず、朝ドラ“本体”っていったいどういう人がレギュラー視聴しているんだろう?と考えると不思議になってきます。月河同様、学生は休み中しかこの時間家にいませんから、平日朝8:15~30まで、ながら見でもTVに関心を向けていられる大人はかなり恵まれた職住近接か自家営業限定のはずで、12:45~の再放送も、決まった昼食休憩のとれる恵まれた職場にいる人、もしくは夜間勤務でこの時間に起きて活動し始める人しかレギュラーでは観られないはず。
BS-2では平日夜19:30~の再放送がありますが、地上波のバラエティをさしおいて、別料金のかかるBSでわざわざ視聴する人はどれだけいるのだろうか。
かつては『おしん』に代表されるように、“少女から孫を持つ年代までの、戦争体験を経た一女性の家族・恋愛・結婚子育てをからめた半生記”の色彩が濃かった朝ドラですが、視聴者の大半が戦争を知らない年代になった頃から、たとえば大工・杜氏・弁護士・棋士・料理人・菓子職人・保育士など“職業根性ドラマ”の様相を呈してきました。
やはり「手に職をつけ、資格を取って就職して自立して、税金や年金保険料をバンバン払ってね女性たちよ」「自立を果たしたら職業に理解のある伴侶と籍を入れて結婚して子供を産んでね女性たちよ」という為政者側、体制側からのメッセージなんでしょうな、国営放送朝ドラ。
夜のお仕事の人、遅い時間からパート勤務の人にも「9時5時の正社員就職、早くしてね」ってことかな。
もうひとつ苦しいなと思うのは、ここのところお話が10代ヒロインの“○○になりたい、なるために頑張る”職業訓練根性物語だけにとどまらず、ヒロインの親世代のリストラ・転職起業、復職や祖父母世代介護の問題までがドラマに含まれるようになっている。
たぶん製作側も、「8:15~を観られる実質の視聴者は、10代ヒロインの職業アンビシャスや同年代同士の恋模様なんかに興味はないだろう」と薄々見当はついているのでしょう。
でも中年子持ち主婦をヒロインにして、専業主婦からの自立や、結婚子育てによって阻まれた少女時代の夢を改めて実現せんとするお話に作っては国策に反するだろうし。
“ヒロイン主体のドラマとしての絵ヅラ”と“実際に観ている層の関心嗜好”と“こういうメッセージを広く送ってほしい国策”と“TV局として付き合っていきたい芸能事務所が押してくる若手の使い場所”。
いろんな方向に引き裂かれて苦しい朝ドラ現場、観てるほうの苦しさがそのまま製作側の苦しさなのでしょうな。それにしても「シャラップっす」はねぇ。