『炎神戦隊ゴーオンジャー』は13日がGP‐9でした。同じスーパーヒーロー枠の『仮面ライダー』では「現場で7~8話を撮影している頃、第1話が放送される」と、スタッフさんのインタヴューで読んだことがあるので、1話を観ての視聴者の反応食い付きがスタッフキャストの耳に入ってきて、現場にフィードバック第一弾として反映されてくるのがまさに今頃ということになるのでしょう。戦隊は仮面ライダーより人工的な合成シーンが多いイメージがあるので、CGなどに回すタイムラグも考慮してもう少し先行して撮っているかもしれない。ジャンクワールド屋外シーンでは範人(碓井将大さん)の息がまだ白かった。
レンズ蛮機に瞬間移動させられてゴーオンジャーに変身できないという設定のもと、その範人と早輝(逢沢りなさん)が生身アクションでウガッツ相手に大活躍。ともに91年生まれで16歳の碓井さんと逢沢さん、闘うヒーロー&ヒロインとしては手足が長いほうではなく、格闘アクションに最適な体格とは言えませんが、ジャンクワールドの隠し工場の狭い空間限定という演出上のサポートがあったとは言え、身体の切れはなかなかです。特に碓井さん、手すりを平行棒にして身体を支えての両脚キックは吹き替え?と何度も巻き戻してみましたが、どう見てもノースタントらしいラッチ(←レンズ蛮機が伝染った)。
おふたりとも“変身できなくても強い!”と見えるように撮ってもらってるという快感にも後押しされて、リハーサルの倍以上身体が動いたのではないでしょうか。生身俳優さんたちがこれだけ動ければ、今後のエピソードでも、変身しないことを前提にいろんな脚本のバリエーションができそう。
いままでのエピソードで、こんなとき何やってんの?と思うこともあった早輝のクチ癖「スマイル、スマイル」も、ケーキ屋さんを目指して入門した製菓専門学校で味オンチと言われ中途挫折…など「こうなればいいな、と思ったことがたいていうまくいかない」というネガティヴ体験連続の裏返しだったんですね。一緒にジャンクワールドに飛ばされたのが、逆風のときほど「明日は明日の風が吹くさ」「なんとかなるよ!あきらめなければね」とポジティヴな範人で良かった。レギュラー5人の中でこの2人が“年少組”という設定も効きました。
チームヒーローである戦隊における、女性戦士のキャラづけって結構、難しい部分があると思います。月河が久しぶりに戦隊を復帰視聴した04年『特捜戦隊デカレンジャー』ではイエローとピンクが女性、以後05年『魔法戦隊マジレンジャー』06年『轟轟戦隊ボウケンジャー』と女性2人体制は3年続きました。
『デカレン』塚田英明Pのインタビューだったと思いますが、「チームで女性メンバーを1人にすると、“女の子”的要素をすべて1人が背負わなければならない」という話があり、なるほどなと思った記憶も。
確かに『デカレン』ではデカピンクが、「ワタシがリーダーよ!」という上昇志向と「寿退職あこがれちゃう」というちゃっかり面、わかりやすい“女の子要素”を持ちつつ、デカイエローが“クールでミステリアスだけど悲しい過去も持ったミス・不思議”を表現してくれたため、ふたりともまったくバッティングせず、かつ埋没しなかった。
『マジレン』は家族・きょうだい設定を存分に活かし、奔放で発展家で楽天的な姉マジピンク、家族思いで努力家で忍耐強いが本気で怒ると怖い妹マジブルー、しかもオクテの妹の方が言わば“居候”の先生・ヒカルと恋愛して先に結婚…と、“母性”“家政性”“妹属性”“色気”をうまく住み分けさせた。
『ボウケン』では、男女メンバーを通じていちばんシビアでプラウドなキャリア志向に設定されたピンクが、プロ意識から徐々にチーフにラブ、天然ちゃんのイエローが、兄ポジションをともすれば踏み越えそうになるブラックと“お守り”したりされたり、とこれまた初期設定キャラと相反する意外性を随所で使って渡り切った。
今期の我らが『ゴーオンジャー』イエロー早輝は、彼女たちに比べるとやはり塚田Pが『デカレン』の時点で危惧していた“男の中に女がひとり”の息苦しさからは自由になりきれていませんが、GP‐9まで見る限り、“料理好きで世話焼きの擬似お母さん”をブルー・蓮(片岡信和さん)が、“(たとえばバイトのほうに熱くなっちゃうなど)戦闘モティベーションがあやふやで危なっかしいけど、局面では意外に頑張り屋でムードメーカー”の“お転婆妹キャラ”をグリーン・範人が、それぞれ引き受けてくれているおかげでずいぶん荷が軽く、風通しよく、観やすくなっている。
今回見せた“スマイルアピールに秘めた寂しさ挫折感”“落ち込みやすさと立ち直りの早さ”“甘い物好き、作るのも好きだけど腕が伴わない”などは、“わかりやすい女の子っぽさ”の中でもいちばん、見てて疲れない、好感が持て反感を買わない要素だけエッセンスのように集めました。脚本としてはかなりのグッジョブです。
あとは演じる逢沢さんが早輝をどれだけ魅力的にプレゼンして、脚本演出をインスパイアできるかにかかっているとも言えます。
そして『ゴーオン』のもうひとつの楽しみは毎回の蛮機獣。レンズ蛮機くんも“マニアックな老写真屋さん”を思わせる風貌でなかなかキュートでしたよ。日本に写真機が入ってきた幕末~明治時代は「魂を吸われる」と怖れていた人も多かったようですが、「はいっバター」でシャッター切られると人間が消失、実はジャンクワールドに転送されていた、という設定は、当時の日本人の“魂吸われる”観と相通じるものがある。
レンズ蛮機くんがいきなりアナログカメラ前提の造形で、「~~ラッチ、パパラッチ」をクチ癖としながらも、携帯でデジタル写真秒殺撮られる時代の我々が“写真”に対して持つ悪いほうのイメージの代表=“覗き”“盗撮”“肖像権やプライバシーの侵害”といった要素を一個も持っていないのがおもしろかった。フィルム型のシッポで鞭打グルグル巻き攻撃なんて、アナログを通り越してアナクロで笑っちゃいました。
ショウキャク蛮機には煙突塞いで「お通じが…」、スプレー蛮機には噴霧レバー=アゴ粉砕、今回のレンズ蛮機には「カメラがいちばん苦手なのは…」「そうかよっしゃ!」→(太陽背にジャンプ)「逆光は苦手でショ?」と、ゴーオンジャー諸君、弱点をプラグマティックに、即物的に衝いて来ます。斬らば日は背に。ちょっと『眠狂四郎・悪女狩り』なんか思い出させます。
害気大臣キタネイダスの“ウガッツ補完計画”で光線?を当てられ原料スクラップにされかかった人たち、転送されたときの服装のまま顔と手・足元だけスクラップ、という描写も、始祖・石ノ森章太郎さんワールドでなかなかそそられました。本当に細かいところまで手を抜かない番組です。
毎回「あーおもしろかった、次が楽しみ」で30分を締めくくってくれて、一週間後にはその「楽しみ」に必ずこたえてくれる、日曜ごとの幸福な相互循環。TV番組はこうでなくっちゃね。