HDDレコーダーで録りDVDに落としてファイナライズしたディスクをPCで見ると、どうもやはり画面(15in)の小ささのせいか、放送電波の不安定さのせいか若干画面がチラつきますが、それにしても再放送『危険な関係』、05年の本放送から3年ぶり二度めの視聴にもかかわらず依然テンポ良く引き込まれる。
柊子(高橋かおりさん)と律(RIKIYAさん)の、本気ゆえの一進一退もさることながら、小姑紀久恵(水沢アキさん)と須磨子叔母さま(北村昌子さん)のわかりやすく底浅い虚栄っぷり、甘党の家政婦タキさん、金持ち未亡人の養子として再会後の律の松浪健四郎ヘアなど、微量「ぷっ」となる可笑しみどころもちゃんと散りばめてあるのがいい。
韓流ブームの余波で世が純愛ムードにあった05年春時点で“背徳の恋愛ゲーム”は勇気を要する企画だったと思いますが、そのわりには作りに余裕がある。10を目指して10の力を込めて、届かず8か8.5にとどまる窮屈な仕事ではない。
目標はあくまで10を見据えながら7.5ぐらいの力で作って、結果9.5のパフォーマンスに到達している感じ。だから届かない0.5の分も目障りでなく、目についても笑って流せる。この風通しのよさがいいのです。
さて、こちらはただいま本放送中の『花衣夢衣』、ヒロイン双子ちゃんのいっぱいいっぱいな芝居もそれなりに見慣れて好感が持てるようになってはきました。
澪(尾崎由衣さん)の身代わりに米兵に乱暴されて心身に傷を負った真帆(尾崎亜衣さん)のほうが、間借り人のパンパンガール・ゆかり(西慶子さん)のデート相手の軍服姿に忌まわしい記憶を呼びさまされて失神するなど傷ましい後遺症を覗かせながらも、どうにか外出したり、悪だくみの張本人・俊彦(吉岡毅志さん)に一矢報いようとしたり、持ち前の気の強さでなんとかリカバリーしつつあるのに比べ、本当は自分が乱暴されるよう仕組まれていたと知った上、母・和美の万平おじさんとの不倫まで吹き込まれた澪のほうがショックが大きく沈み込んでいる。
嵌められた真帆が、澪に黙って顔も見たくないはずの俊彦に会いに行く場面が印象的でした。「(澪ではなく)私だとわかっていたら、あんなひどいことはしなかった?」…訊かずもがなのこんな問いを、傷の痛む身体を引きずっても起き出して、どうしても俊彦につきつけたい真帆の女心。
オリビア・デ=ハビランドが二役で双子姉妹を演じた『暗い鏡』(1946年)を思い出しました。物心ついてからずっと周りに「そっくりだね」「見分けがつかないね」「いつも一緒だね」「仲がいいね」ばかり言われて、それが当たり前と思い思わされて育った双子姉妹は、ある時点から互いにひそかに「そっくりだけど、お姉ちゃん(or妹)より、きみのほうが綺麗だよ」「優れているよ」「好きだよ」と言ってもらうことを熱望している。
互いに絶対に口には出さず、逆に分け隔てられたり差別されたりすることに異常に神経質になり「二人一緒でなきゃイヤ」と言い張ったりするのも、すべては「きみのほうがあちらより上だよ」「別格だよ」と本当は言って欲しいがため。
ドラマの物語上でも巧妙に隠蔽されオブラートにくるまれてはいますが、戦後の物質的潤いとともに遅れてきた思春期の鬱勃をもてあます俊彦の醜悪な行いも、実は澪の「真帆のほうが私より好かれて人気者そう、つまらないわ、どうしてくれよう」という憤懣、真帆の「私のほうが澪より賢いし性格もいいし世渡りもうまくて好かれてるわよね、誰かこっそりそう言ってくれないかしら、言ってよ早く」という焦りが水面下で導火線を引き、誘発したものに違いないのです。
「あなたの幸せが、わたしの幸せ。」というキャッチコピーがこのドラマに冠されていますが、自分以外の誰か、それも一緒の環境で生まれ育ってきた誰かが自分をさしおいて、自分より幸せになることを心から望む人間なんて実際いるわけがない。特に女性同士は、幾つになっても、笑顔のおしゃべりで互いの幸福度を値踏みし合うライバルです。
「あなたの幸せが、わたしの幸せ。」は、「あなたの幸せを願えるぐらい余裕の幸せ上位に、わたしはなりたい。」と読み替えるべき。
不純な境遇の、純な双子姉妹。彼女らの人生航路見逃せませんよ。欲を言えば、切羽詰まった時代背景の、いや増しに暗澹と息詰まる物語だからこそ、『危険な関係』的な軽み、可笑しみのスパイスがほしいな。『魔法使いサリー』のヨッちゃん風ヴォイス・雑草マインドのゆかりさんの活躍に期待したいところです。