『おひさま』に25日(月)放送回から、キャストクレジットに中原丈雄さんのお名前が見えたので、陽子(井上真央さん)のお祖母さま(渡辺美佐子さん)登場週だしひょっとしたら回想シーンか何かで若き日の紘子さん(原田知世さん)のお父さま役?(←渡辺さんと現在時制でのご夫婦役ではさすがに年齢差が)と思ったら、お祖母さまのお抱え運転手役でした。ツンデレすぎる子爵マダムに仕える、ダンディすぎる使用人。制服制帽がまたよくお似合いで。
そう言えば昨年のいま頃、『ゲゲゲの女房』では、ダッシュで挙式後上京したしげるさん(向井理さん)と新妻布美枝さん(松下奈緒さん)を東京駅から調布のボロ家に送り届けてくれた運転手さん役が、当時『娼婦と淑女』で婿養子子爵を爆演中だった岸博之さんでした。朝ドラにおける運転手さんの“昼率”は高いようで(サンプル数が少ないにもほどがあるが)。
富士子お祖母ちゃんが「どこか(お話のできる場所は)ないのかしら?」と、例によって親友3人娘とのキャンディーズ布陣で下校中だった陽子ちゃんに要求したため、なじみの飴屋村上堂での会談となりましたが、「(ペロ)こんなモノ、クチに入れてたら(ペロ)、しゃべれないじゃありませんか(ペロペロ)」と、どこまでも意地ッ張りなお祖母ちゃん、最初は奇怪な物でも見るようだった水飴も、召し上がってみるとお気に召したと見え、完食。て言うか完舐め。
お相伴にあずかった運転手さんが運転席で食べ辛そうにペロペロしててて、車外を通りすがる女学生たちにちょっぴり失笑されてたのも微笑ましかったけれど、女将カヨさん(渡辺えりさん)が「おクチにあいますかどうか」と箸に掬っている間、飴の甕持って直立不動のご主人(斉木しげるさん)がまたそこはかとなく可笑しかった。映らなかったけどあの後、「運転手さんもどうぞ」とカヨさんが玄関先に出ていってお給仕し、その間もご主人、車の外で甕支えてたんだろうなあ。この場面で流れたテーマ曲の“こっそり大冒険”みたいなアレンジヴァージョンも楽しかったですね。
このドラマは、メインストーリーの、いま現在焦点のあたっているところよりも、脇の端々に拾い物の様な味があることが多い。運転手さんが通りかかった茂樹兄ちゃん(永山絢斗さん)に深々と一礼したり、「中、ご覧になりますか」と、話しかけるのも敬語だったりするのは、富士子さんが話してくれた茂兄ちゃん養子騒動の際の春樹兄さん(中山大志さん)の捨て身の行動を、運転席からつぶさに目撃し聞いていたため、結婚して実家と絶縁した紘子さんが築いていた須藤家と、家族思いの優しい子たちに育った兄妹へのリスペクトをずっと持っていてくれたからなのですね。
上から下より、下から上のほうが多くを見ることもある。人に仕える立場の人間は、往々にして仕えられる側より人間の人となり、ウツワの大小を読んでいるものです。読んでも指摘はしないし、対応を変えることもしないだけ。運転手さんは茂樹くんを“主家の跡取りになったかもしれないが、ならなくてよかった、出来たご家族に恵まれた息子さん”と頼もしく見ていたのでしょう。
中原丈雄さんといえば『白い巨塔』の東都大学教授にして日本外科学会会長船尾教授である以上に、月河にとっては女優大好き宗方先生(@『女優・杏子』)であり、無頼派楠田先生(@『風の行方』)なのですが、富士子マダム帰京前に、もうひとつぐらい運転手さんの見せ場来ないかな。富士子さんもどんな家からどんなご縁で子爵家に嫁いだか、跡取りの男子を産めず授かったのは女子ひとり。その紘子さんも誕生時医者に「この子は(育つのは)無理かもしれない」と警告されたほどの病弱で、しかも婿を取らせる間もなく恋愛結婚して家を出てしまったのでは、後継者作りが責務の華族の嫁としては、居心地のいい正妻生活ではなかったはず。
ダンディな運転手さんは、そんな孤独なマダムを無法松のように……ってなんか『偽りの花園』化してしまうな。どんだけ昼帯の観過ぎだ。ともあれ現在外遊中との子爵様も、外にお妾を囲ってご落胤のひとりも孕ますでもなく、女学校進学を帝国ホテルで祝ったという目に入れても痛くない愛娘と、体面に殉じて絶縁を通されたのだから、ご夫婦揃って、運転手さんも含めて、黙々と意地を張る家風と見えます。
ところで飴屋村上堂の暖簾や日除けのデザイン、独特の字体と色使いが、いつもちらっとしか映らないけれど現代にも通用するくらいモダンですよね。軒先のつなぎ提灯?など、飴屋というより和風キャンディショップという感じ。女学校はあるけれども、ちょっと遠くから自転車通学の陽子の家の周りは完全な農村で、決して大都会ではない地方の町の、カヨさんたちご夫婦だけで切り盛りするお店にしては、とてもお洒落です。
これから劇中の時代は戦争一色になっていくのでしょうけれど、まだ「日本はすごい」「強い」「いい国だ」と、少なくとも若い娘たち、少年たちは信じていられた、最後の輝ける一瞬だったのかもしれません。