『おひさま』のタケオくん役・柄本時生さんは、熟年タケオが犬塚弘さんと知って、犬塚さんの芝居を見て、取り入れて繋げた、なんてことはないでしょうかね。
昨日(10日)放送回でのセリフ言いや、背丈を持て余すようなカクカクした立ち格好がとっても犬塚さんっぽかった。陽子(井上真央さん)が自転車で去った後の「お父さん頼まれてもなあ…」は、まんま犬塚さんの熟年タケオが、若尾文子さんの熟年陽子の背中を見送って、何か言いそびれついでに漏らしてもいい感じでした。
劇中のひとりのキャラの、ビフォーとアフターを俳優さん2人で“繋げる”と言えば、特撮ヒーローの変身前と変身後があります。
変身前の素顔俳優がド新人か準新人さんであることが多いのに対し、変身後のマスクドアクションを担当するスーツアクターさんは、劇団やスクールで素顔演技の基本の後、さらに空手、剣戟など体技の修練を積んだ、たいていこの道10年以上の大先輩。どんなヒーローか、変身前はどんな設定、どんな職業経歴で、どんなタイプの人物か、変身後はどんなファイトスタイルかなどPや監督さんと、ともにもちろん入念な打ち合わせを行ないますが、経験の少ない新人さんが現場でいっぱいいっぱいで演った芝居の、いっぱいいっぱいゆえに満開で出てしまう手足の運びや首の角度などの個人的なクセを、マスクとスーツつけたアクションの中に先輩は見事に取り込んで見せ、新人さんを一発で魅了し感嘆させるそうです。「この人と2人で、ひとりのキャラクターを演じられるなんて幸せ」「最終話まで絶対ついて行こう」と、多くは初主役の新人さん、テンションがいやが上にも上がり、話数が深まるごとに、未熟だった素顔演技も上達、いい表情をするようになり、1作終わる頃には結果的に「スーアクさんに育ててもらった」と充実裡に打ち上げを迎え乾杯できることになるわけです。
2003年俳優デビューの時生さんに対し、犬塚さんは芸能歴も演技歴も“祖父”級の大大先輩ですが、ともに、役作り考えて練って練ってというタイプではなく、どちらかというと“地で行く”というか、“地を出して味となす”タイプだと思います。監督さんがイメージして指導して引き出して行く部分も大きいでしょうけれど、若いほうの時生さんが、大先輩の犬塚さんをリスペクトして「オレが成長したらこの人になるのか、ヨシッ」とアンテナ全開で吸収していってたら面白い。
出番少ないけど。特に熟年タケオ、略して熟タケ犬塚さんは、数少ない出番でもれなく斉藤由貴さんのスピッツ的テンションにからまれなければならないのだろうからタイヘンです。昭和のタケオ、略して昭タケ時生さんが頑張って、タケオのキャラ立てと好感度アップに貢献すれば、熟タケの出番も増えるかもしれない(…しかし略することに意味はあったのか)。
ドラマの本筋は平板ですが、興味は持てますね。ふた昔ぐらい前のNHK朝ドラならば、満島ひかりさん演じる、親の反対を押し切って東京での就職口を見つけ、幼い弟妹たちに心を残しながら家出する育子がヒロインに設定されたのではないでしょうか。
さらにふた昔前なら、成績優秀品行方正で友情にあつい優等生ながら、初恋のときめきと親友の勇気ある行動に触れて覚醒、富豪の親の決めた結婚を拒否することから自分の人生を模索して行く令嬢真知子(マイコさん)がヒロインに推されたかも。こちらは特に親が前近代農村社会の大地主だけに、戦後の農地改革で没落し蝶よ花よの地位を失って数奇な運命をたどりそうですし。
いちばんNHK好みの普遍的ヒロイン候補は、勉強好きで努力家の優等生、教師志望なのに小学校すら生家の貧窮で卒えられず子守り奉公を余儀なくされ、親友の文通サポートを支えに独学、奉公先の社長に見込まれて正社員に取りたてられ働く女性の草分け的立場になるユキちゃん(橋本真実さん)でしょうね。まさに『おしん』そのもの。
そんな中、母の療養という事情で東京から田舎に越してきたこと、小学生の身で母を亡くし父と兄たちのクチや家事を支える主婦役をつとめてきたこと以外は特殊な状況を抱えず、成績も平凡でとりたてて特技も持たない陽子は、普通のドラマの世界なら典型的な脇役、“ヒロインの特殊性を引き立てる”役のはず。
そういう、言わば“透きとおった”キャラを主役に据えてきたということは、本当の主役は、大正生まれで昭和とともに生きた、どこといって突出したところのない、日本全国どこにでもいたはずのいち女性が見聞し肌で感じた“時代”“時間”なのかもしれません。
現代時制に戻れば、もうひとつ楽しみはありますね。師範学校を出て今後、国民学校教師になる陽子、たくさんの担任生徒との場面やエピソードがあると思いますが、いちばん目立って印象強い役割となる女子の生徒が、成長したら伊東ゆかりさんになるに違いありません。それでまた斉藤由貴さんがきゃんきゃんスピッツリアクション。…あまり楽しみじゃないか。