平均して結構な時間をTV視聴に費やしているウチの高齢組、ここ数年の韓流ブームなるものにはかすりもしなかったにもかかわらず、何ゆえNHKの韓国TV史劇ドラマにいまさら嵌まりつつあるかとつらつら考えてみるに、先日の記事でも月河みずからを振り返った通り、“モチーフになっているあちらの国の史実や実在人物について知識情報が少ないか皆無なので、安心して娯楽として消費でき、妄想も幻想も自由にふくらませることができる”というのは確かにあると思う。
特に高齢組のひとりは、もうひとりに比べて「学生時代、歴史の授業や、歴史の先生は好きだった」そうで、陶磁器や茶器の趣味も無いではないので、『イ・サン』など見ていて「李朝っていうのは気の毒な国でねー中国に攻められて…」と、おやおや受験科目に一応世界史を入れていた月河もびっくり!?な知識のカケラを披露してくれることもあります。
あと、もうひとつの理由として、“我が日本の歴史を主モチーフにしたドラマ、典型的な例を挙げるとNHK大河ドラマに、最近、歴然と元気がない”ということも言えるのではないでしょうか。
“元気がない”と言うより、“模索中で出力ダウン”のほうが当たっているか。もう信長も秀吉も、竜馬も海舟も、謙信も信玄も、平氏も源氏も、映像化、脚色、やり尽くしてしまっているんですよね。コミックやRPGも入れたら、有名どころキャラなら何百、何千ヴァージョン存在するかわからない。
こういうすれっからし状態になると、いまさら新作をいかがですかと見せられても、物珍しさや有り難味が非常に薄く、「今度はどんな竜馬かなー、なーんだ、こんな役者かぁ」「こんなちょろい秀吉あり得ないよ」「昔、○○が扮した信長は良かったなー」という、きわめてしらけた、上から目線な姿勢でしか視聴できません。
製作側は、「そこをなんとか」と、とにかく視聴してもらいたいばっかりに、やり尽くされた人物や史実をどうにか新鮮に仕立てようとして、トンデモ解釈や暴走ファンタジー脚色を加えてしまう。
現行放送中の『江 ~姫たちの戦国~』も、総合の本放送かBSの先行放送か、一週後土曜の再放送か、どれかこれかで一応高齢組、追尾はしているのですけれど、彼ら曰く「出ているキャラ(江はあまり知らないけれど、信長、光秀、勝家、秀吉、おね、茶々、三成、家康…(以下略))がどんな人となりで、どんな末路、晩年になるか大体わかっているから、そうでない振る舞いや退場のし方をしたらコジツケに見える」。
歴史もの、時代劇、いわゆるマゲものが好きで、長年いろんな作品を観て年を経てきた人たちなら、現代の現役世代のサラリーマンPに、漫画台頭期以降育ちの脚本家がタッグ組んで作る大河など、いくら人物解釈・翻案の斬新さ新奇さを競われても“衣装ヘアメイクだけ時代を冠した、ワカゾウたちのコスプレ”にしか見えないのかもしれません。
先月、BSプレミアムのSP『デジタルリマスターでよみがえる大河ドラマ』で、昭和40年代半ばまでの作品の最終話や総集編の一部を観る機会があったのですが、濃いやら黒いやら血糊が多いやらで驚きます。月河も子供だったなりに記憶のある作品や場面も無いではなかったけれど、明朝は仕事という日曜夜8時、いやがうえにも気の重い時間帯に、権力者同士のハラの探り合いや下剋上寝返り合戦、親の因果が子孫に報いる憎しみの連鎖や人の世の無常を、歌舞伎や新劇、新国劇のしぶーい重鎮たちのキャスティングで正面切ってどすんどかんと描いたこんなヘビーでビターな世界、当時の人たちはよくもまあ娯楽として、鬱に入らず享受できていたものだと思います。
昭和40年代、大阪万博があり沖縄返還もなり、世の中全体が“リア充”で、希望と向上心と、働けば働いただけ豊かになり、努力すれば努力しただけ報われるという予定調和感にそこらじゅう満ち満ちていたのでしょう。だから昼間のレジャー(←懐かしい言葉だ)や家族団欒に寛ぎ足りた日曜の夜、何百年も前に死んだ歴史有名人たちのダークで屈折して血なまぐさい、最終的にはむなしい斬った張ったをも、“教養お勉強にもなる非日常感あるエンタメ”として楽しめた。
リアルがダークでむなしい現代に、エンタメとして受け容れられるものを制作して提供しようと思うと、どうしてもお花畑ファンタジーな、なんちゃってマゲものになる。
「コタビのイクサは、いかがでございましたか」「イヤにございます」「ソウユウウワサにゴザリマスれば」式の、小学校の子供が時代劇ゴッコしてるみたいなシロモノを、昭和40年代のダークへビー路線の大河を知る人たちに見せたって、半笑い以上の感想が出るはずがない。作るほうも「こんなんでいいんかなあ」という逡巡や気恥ずかしさが拭えないから、いま日本の“史劇”=大河ドラマは出力不足で元気がないのです。
一方、知らないがゆえに劇中でどの人物が何やっても、カッコいいものはカッコよく、いたいけなものはいたいけに、悪辣は悪辣に、おマヌケはおマヌケに、額面通りストレスなく受け容れられる韓国の史劇が、高齢組に歓迎される現状。日本の、日本人Pや作家さんたち手になるTV番組で育った、TVっ子第一世代としては一抹残念ですが、でも、おもしろいもんなあ『イ・サン』も『同伊(トンイ)』も。
OPで毎話、顔出し決めポーズ&決め顔つき“人物紹介”があるのも、スーパー戦隊っぽくて、月河にはフレンドリーなのです。