イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

龍と鹿

2011-05-06 22:29:49 | 昼ドラマ

『霧に棲む悪魔』、圭以(入山法子さん)と御田園(戸次重幸さん)が今週アタマにめでたく(めでたいのか)結婚し、横浜の新居に主舞台がしばし移っているので、最近出番が少ないですが、キャストの中で一度は特筆しておくべきひとりが、龍村ファーム御用達の運送業者=小鹿運送の鹿野役、(山﨑)邦正ちゃうわー!!」でおなじみ本村健太郎さんです。

放送前番宣の頃、キャスト情報を聞いたときには、本業弁護士さん(ご本人は「役者がメイン」と力説されていますが)が弁護士役で出るんじゃ何のひねりもないし、役作りのしようもなくて本人も逆に演りづらいだろうと思っていたら運送屋さん。出るたびいつもユニホらしきカラフルな切り替えのジャンパーなので、衣装に予算を食わない役。それは別にいいんですけど、こんなにセリフもシーンも多いご出演とは予想外でした。

本村さんキャスティングを聞いたとき、即思い出したのが、メガネつながりってわけじゃないけど、『白と黒』のクリーニング屋仲本工事さん。てっきりあんな感じで、週5話の中で1回か2回玄関先に顔を出して、謎の手がかりになることや、逆に疑念を撒き散らすようなことをクチにしては「毎度ぉー」と去って行くぐらいの役回りだと思っていたのですが、結構、主役とからむし、異物混入事件の犯人呼ばわりされてキレてあわや乱闘とか、事務所に侵入してきた白い女(入山さん二役)とニアミスとか、展開ポイントにもたまさかなっています。

このドラマ、龍村家の顧問弁護士木島(鶴田忍さん)と、ロータス女主人依子(中田喜子さん)の愛人にして御田園の代理人影山(大沢樹生さん)、あ、それから木島のパシリの唐木田(石井智也さん)もと、都合3人も弁護士が出てきて、相続だ遺産分割だ、株式だ契約だとやり合う場面も多いので、本村さん、スタッフとして脚本上の法律監修もお手伝いしてくれているのかも。となると、あまりにチョイ役では失礼ですもんね。『行列のできる~』その他のバラエティでもスベりトーク(だよね)でおなじみの滑舌には当然ながら安定感があるし、まあ、キャストらしい仕事はしてくれていると言ってあげましょう。

もうひとり、もっと特筆すべきは、龍村ファームの“使用人頭(がしら)”と公式設定ではなっているけど、チーズ職人であり牧場マネージャーでもあり生産現場チーフでもありと、実質“支配人心得”な克次役・逢坂じゅんさん。「じゅんでーす」「長作でーす」「三波春夫でございます」のレツゴー三匹のじゅんさんとわかるまで個人的にちょっと間がありましたが、ここまで笑い取りに来ない役とはまったく思わなかった。毎回、克次さんの登場場面のたび、いつボケるかいつボケるかと思って見ていたけど、3週めぐらいで完全にあきらめました。こういうあきらめはポジティヴなあきらめです。

関西発の番組や舞台は観る機会が昔からほとんどないので、じゅんさんたちレツゴーをいちばん多く見たのは1980年前後に、故・山城新伍さんと、当時テレビ朝日局アナの南美希子さんによる司会で日曜午後のタルめな時間にやっていた『笑アップ歌謡大作戦』でした。

まだ、いまのバラエティ界のようなおネエキャラとかカマキャラとかは市民権を得ていない時代に、炸裂してましたねーじゅん師匠。山城さんに「(下ネタカマネタばっかりで)オマエら末期症状やと言われて末期末期と言われて10年!」と開き直る、お約束やりとりが好きでした。開き直る担当はじゅん師匠じゃなく三波…もとい正児師匠だったかな。

喜劇以外の芝居でもご活躍とはなんとなく聞き知ってはいましたが、数年前、TVの『浅見光彦』シリーズのゲストでお見かけしたときは、例の「刑事局長殿のオトウトギミさま」と手の裏かえすお約束担当の地元刑事役でコメディリリーフだったような。“弟ぎみ”が榎木孝明さんだった頃の作でしたが、今回はまだ榎木さん演じる引きこもり玄洋伯父さまとの本格的からみはありませんな。

笑い取りに来ないどころか、発声もぐっと低音で、昔カマキャラで末期とかツッコまれてたのと同じ人とは思えません(頭髪具合は当時ときれいに連続している)。こだわりの味を追及する頑固な職人肌、あくまで主家の龍村姉妹を立てて尽くす忠義者、でも財産問題には「金持ちには金持ちの苦労がある」と距離をおいて、金銭や出世にも恬淡としているところ、実は同家の過去の秘密のいきさつについても知っていて、あえてクチを閉じているらしいふしなど、この手の“富豪もの”に欠かせない年長脇役としてじゅうぶん過ぎるくらい機能しています。

出戻り娘で龍村家家事担当でもある娘・美知子役の広岡由里子さん、前述の運送屋本村さんのカン高いトーンともナイスコンビネーション。目立ちませんが、登場場面の作業服や、作業所でのプライベートシーンで着ているジャンパー、お帽子などのカラーコーディネートもなにげに洒落ている。

脇役さんたちが過不足ない良い仕事をしてくれているので、主役2人(圭以=入山さん、弓月=姜暢雄さん)にも、演技力ウンヌンではなくいま少しキャラ立ちがほしいところですが、4週めを終えて、まだ“状況に流されているだけ”感が強いですね。もっと自己主張というか、譲れないものを一本しっかり持って、戦ってもらいたいけれど、いまのところそういう脚本なのだから仕方がないか。

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カタカナばっかり

2011-05-05 19:26:28 | 海外ドラマ

4月からNHK地デジで放送が始まった韓国歴史ドラマ『イ・サン』が思いのほか面白いよ、と高齢家族のリクエストで2話から録画追尾を始めました。日曜の夜深い2300スタート、月河的にはスーパーヒーロータイム録画チェックの時間なので、フルに付き合うわけにもいきませんが、1日(日)の第3話をちらっと見たら、主役はじめ子役さんたちがみんな達者で、可愛いというより味がある。日本のドラマでも最近は、美人女優さんより衣装より、子役さんがいちばんの華になっていますが、あちらでも事情は同じなのかな。大人の俳優さんが練りに練った熟練の芝居するより、子役さんのナチュラルな表情ひとつのほうが受けがいい。安直っちゃ安直だけど、高齢組が喜んでいるようなのでね。そのうち主役が成長すると、番宣や公式ホムペで見る限りなかなかの男前俳優さんにバトンタッチするようだし。

 一方、同じ日曜の2100からは、BSプレミアムで『同伊(トンイ)』って始まっていますね。『イ・サン』と同じ、かつて『宮廷女官 チャングムの誓い』を手がけた監督さんの最新作だそうですが、女性主人公のサクセスストーリーで、日本で言う“大奥もの”の要素もありそうなので、NHKの年度替り前、大量に番宣された中では月河はコレ結構いけるかもと思っていたんです。こちらは選挙の影響も受けず先週までで4話。“連続ものレギュラー視聴は昼帯と特撮のみ”の月河、日曜の夜はとにかく再生ラッシュなので、なかなかまとめ見できませんが、今週末ぐらいは一気に行けるか。『イ・サン』の昨年のBS放送を視聴済みのファンからは「主人公が国のトップになるわけじゃなく、所詮、側室止まりだから、『イ』ほど面白くない」との声もすでにチラホラ来てますが、こちらもとりあえず子役さんが、こちらは女の子ですけど、画面からはじけんばかりに“味出しビーム”出まくりで、あきれたりまいったり。

 それにしても気になるのは、韓国の連ドラって、大胆に、命知らずに長尺多話数ですよね。『同伊』が全60話、『イ・サン』に至っては77話あります。日本で言う“放送クール”とか番組改編期のようなものは存在するのだろうか。日本の連ドラは最近はほぼ1クール10話か、せいぜい11話ですね。NHK大河ドラマですら、大河大河と言ってもせいぜい50話か51話です。

『冬のソナタ』地上波放送で本格的に着火した韓流ブームの頃、“トリビアTV業界篇”みたいな番組で知ったのですが、同国地元では連ドラは日本のように“月9”とか“水10”のように週11話ずつの放送ではなく、“月火”“水木”といった具合に2日連続2話ずつの毎週放送なのだとか。だからたとえば1話と2話との間で、日本の放送スケジュールに沿って1週空くと、尻切れ宙ぶらりん感が強いので、できれば録画かパッケージソフトで“12話、34話、56話…”と2話ずつ束ね見していったほうが「乗りやすく嵌まりやすい」と聞いたこともあります。

 そこらへんは視聴する側が自分で自分に合ったペースを見つけてコントロールしていけばいい話だと思いますが、それにしても放送する側のサイドに立つと、毎週1話を77話となると、77週、つまりお盆も正月も休まずぶっ通しでやっても1年半かかることになりますぞ。『同伊』の60話でも12ヶ月。つまりNHK的、官公庁的に言うと、「会計年度をまたぐ」わけで、編成としてはかなり冒険ではないでしょうか。NHKとしては『冬ソナ』系の現代ものメロドラマでも、『チャングム』のような史劇系でも一定の実績と手ごたえは掴んでいるから、新年度のこの2作も自信の布陣なのかしら。それにしても民放では考えにくいというか、実際無理でしょうね。当初の読みほど数字が行かなかったらと考えたら、次年度にまたがるスポンサーなんて取れないし、付かないし。現代ものの『IRIS(アイリス)』なんかTBSでたいそう宣伝していたけど、最終話まで好評裡に放送済んだのかどうなのか。

 思い出すのは、1980年代末~90年代にかけてやはりNHKで、確か土曜の夜1000台に放送していたUS連続ドラマ『ダイナスティ』です。コロラド州はデンバーの、石油王の秘書上がりの若い後妻さんとその元彼、石油王の若い娘や息子たち、そのまたフィアンセや恋人、石油王の離婚した元妻、ハラにイチモツある側近使用人たちなど、欲と色からみあった、日本で言うところの“ドロドロドラマ”でしたが、からみあうだけからみあってさあこんだけの風呂敷たためるのか?ってなった頃、突然ウンともスンとも、続きが放送されなくなってしまいました。

 月河は当時、日曜が休みではないサービス業で、土曜夜もあまりのめり込んでTVを観たりビデオ録画追尾したりしていなかったのですが、映画『ポセイドン・アドベンチャー』のミニスカお姉ちゃん役だったパメラ=スー・マーティン(←石油王の驕慢な令嬢役)や、『炎の少女チャーリー』でドリュー・バリモアのママ役だったヘザー・ロックリアー(←石油王の息子とくっつくワイルドな娘役)、『ゲッタウェイ』にちらっと出ていたボー・ホプキンス(←後妻さんの元彼役)など、顔と名前の一致する俳優さんが見えていた頃はそこそこリピートしていたかな。気がつけば番組表から消えていたのでどうなったのかと思ったら、後から媒体で知った話では、放映権が高くなり過ぎてNHKが手が出なくなったため、“買えたところまで”で打ち切りになったらしい。

時はバブル期だっただけに、民放ならCM収入がかなり景気良かったんじゃないかと思いますがやはり皆さまの受信料でもってるNHK。要するに、地元USAで長寿シリーズとして受けていたほどには、土曜のプライムタイムで日本の視聴者に人気が出なかったので、高い権利料を継続支払うについて上から待ったがかかったのでしょう。

月河も別に、おもしろくないから視聴しなくなったわけではないのですが、いつの間にか裏の土曜ワイド劇場に行くほうが多くなっていました。こちらは単発で必ず10時半頃には大勢が決し、引っ張られないので気楽に観はじめられるし、つまらなかったら簡単に下りられる。

やはり連続ドラマって、「次回が待ち遠しい、待ちきれない」と思えるテンションに嵌まらせるには、嵌まらせるなりの手を打つ必要があるんですよ。当時はいまほどNHKで自局番組の番宣ってやってなかった。もちろんネットにホムペやファンBBSなんかもなかった。お話のキモである複雑な人間関係解説や、気がつけば結構多彩で豪華だったキャストもひとりずつ紹介したほうが有り難味も、興味もわいたと思う。時間帯もNHK土曜2200台は、『ジェシカおばさんの事件簿』など同じ洋ドラでも1話完結の、まったく違うテイストのものをやっていたので、色と欲との連綿ドロドロへは“客層”も引き継がれにくかったのでしょう。

連ドラは、作るほうはもちろん、放送するほうも視聴にも、体力を相当要します。日本製の連ドラが軒並み短期間少話数でサイズ小ぶりになっているいま、NHKがあえて韓国製長尺作を、熱い時間帯に持ってくる勇気はあっぱれですが、日本人による、日本人が視聴するためのドラマ、日本のTV製作者さんたちももっと意欲的に、チャレンジして作ってほしいですね、デカいやつをね。

大河ドラマなんか、152週の年末年始を、ジャガイモの煮っころがしみたいに“面取り”して50話なんてミミッチイことしてないで、ドカンと3年連続ぐらいの作ってさ、自他ともに先が短いと認める高齢視聴者が「最終回まで絶対生きてやる」と逆に血圧上がっちゃう勢いにしてみませんかね……って、すでに『坂の上の雲』があるか。

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裏なのか、俺は

2011-05-04 23:32:39 | 朝ドラマ

連休ど真ん中の3日(火)4日(水)連続で『てっぱん』総集編前・後篇放送。まったくノーチェックだったので、嬉しいサプライズでした。前年度下期の朝ドラの総集編をこの時期にって、毎年、毎作、ありましたっけね。『てっぱん』は最終盤の約2週分が、震災で一週休んでの後ズレになったので、被災地ならずとも視聴しそびれてしまったり、放送復活後追尾するにはしたけど「ドサクサの後で、どんなお話だったか最初のほう所々忘れちゃった」人も多いと思われ、“冷めないうち”の総集編は適時打だったと思います。

本放送中の、多話数帯ドラマにつきもののタルいところやスロー展開過ぎたところはばっさりつまんで、時間経過とともに?髪型がちょっと変わった欽兄(遠藤要さん)と鉄兄(森田直幸さん)の大阪ロケ跡地訪問や、おのみっちゃんカウンターのセットに戻ってきた元・田中荘下宿人の皆さん+そしてなぜか岩崎先生(柏原収史さん)ひまわりトーク、劇中料理の、お父ちゃん(遠藤憲一さん)ヴォイスナレによるレシピ紹介など新撮をかなり大胆に挿入。序盤から継続視聴していた人には「そうそう、こんな話だった」と復習になり、飛び飛びだった人には「あらら、こんな感動シーンもあったのね」と新発見に。

感動シーンをことごとく網羅というわけにはもちろんいきませんが、物語の軸だった“もうひとりのヒロイン”初音さん(富司純子さん)が心の雨戸を開き、自分にはひとり娘が遺してくれた孫がいるという事実をポジティヴに受け容れて、孫の幸せを願って生きる、祖母にして人生の先輩としての再スタートを、前篇のほぼ全編費やしてしっかりリプレイしてくれて、個人的には満足です。本ヒロイン・あかり(瀧本美織さん)と同等かそれ以上に、このドラマは初音さんという人物を愛し、リスペクトし、初音さんの開眼と遅まきの成長を温かく見守っていたと思う。

2007年度上期の『どんど晴れ』は続編SPが制作され先般BSプレミアムで放送されましたが、『てっぱん』も3年後ぐらいに“食事処 田中荘”と、旅立っていった元・下宿人さんたち、家族が増えた尾道の村上家のその後がドラマ化されるといいですね。予算的にも、キャストスタッフの再集結の時間調整も難しいかもしれないけれど、あかりちゃんが「本当に頑張った」と手応えを得る何らかのイベントを経て、本編では互いに名乗らずに別れた実父の橘さん(小市鰻太郎さん)と再会を果たす場面が見たい。橘さんも“すみませんでしたモード”から解放してあげて、子を持つ者の喜びを実感させてあげてもいい頃だと思う。

駅伝滝沢(長田成哉さん)とは……まあ陸上を頑張って、もう少し『崇徳院』で。3年経ってもまだあかりちゃん23歳だし、2012年ロンドン五輪も間近に控えていることだし。

一方、現行放送中の『おひさま』。昭和13年~14年舞台にしては「それって…」「ウソー」「ホントにー?」等、ノスタルジーも情緒も無いにもほどがある台詞がこのところぽんぽん出てくるのでちょっと興醒めになっていたのですが、今日(4日)放送回、陽子(井上真央さん)が川原(金子ノブアキさん)に恋心を抱いているらしいといち早く気づいた次兄茂樹(永山絢斗さん)が、陽子の留守中、お父さん(寺脇康文さん)と長兄春樹(田中圭さん)にこっそりその件を告げるくだりは久々に爆笑しました。母親を早くに亡くした家族、しかも、旧制高校と航空隊予科志願の、どちらも青二才の若造ふたりに父親で、家の中でただひとりの女性が、思春期真っ盛り女学生の末妹という家族の特殊性、笑えるイビツさ炸裂。

しかも、子供思いで社会的にもまじめ人間のお父さんが、いまだ心身ともに青年青年した寺脇さんで、「えッ陽子がオレの親友に恋!?あの時がきっかけかアレがそうか」と右往左往する長兄が“若殿顔の若年寄”みたいな田中さん、爆弾通報者次兄が“年行きすぎた部屋住み”みたいな永山さんなので、微妙にキャラが立ったりかぶったりで、部活のOBと現役部員先輩後輩との即興トリオ漫才のよう。陽子の川原さんラブの行方は、すでに現在時制の熟年陽子(若尾文子さん)のナレで「おおかたの初恋と同じ運命」とバラされているので、特段、先が見たいとも思いませんが、こういう、本筋自体ではないところに味があるから、簡単には切れません『おひさま』。

それにしても「陽子は初恋かな」「そうでしょう、この辺に(恋の対象となるような)男なんていませんからね、タケオぐらいしか「じゃ初恋だな」「うん初恋ですね」…あっさり全員一致し過ぎ。思い出されカットで一瞬顔出しのタケオくん(柄本時生さん)美味し過ぎ。

母ちゃん(角替和枝さん)に「脈がねえ」と諭され、久々帰郷のユキちゃん(橋本真実さん)にまで「まだ陽子ちゃんのこと好きなの?」とバレバレのタケオくん。同性の須藤兄弟、お父さんにまで“男の数に入れられてない”ってどうなのよ。

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溜の眠る岡

2011-05-03 15:16:12 | 昼ドラマ

『霧に棲む悪魔』放送開始前、いちばん注目していた羽岡佳さんの音楽、いままでのところ着物の半襟のように出過ぎず引き過ぎず、いいバランスで来ているように思います。あくまで着物=ドラマ本編より目立ってがちゃがちゃ邪魔せず、さりとてあるのかないのかわからないほど影が薄くなることもなく、先週=放送第3週ぐらいから、軽快なコミカル含みの、あるいはホームドラマ的にゆったりと暖色なアレンジヴァージョンも増えてきました。

 ただ欲を言えば、もう少し、いい意味での新奇さがあってもいい気がする。ときどき、このドラマと同スタッフの同枠ドラマで、ほぼ毎年、連続5作担当してきた岩本正樹さんの音楽と、色合いが混じることがあるのです。

帯ドラマ、特に昼の帯の音楽って、そんなに斬新でおサレである必要はない。基本的にはオールドファッションドで「どっかで昔にも聴いたような」感じでいいと思う。そのほうが安心して、物語の連綿たる流れに連綿と流されることができる。アクセントとしていままでと違うアレンジや、違う挿入・かぶせ方のタイミングがたまーに使われるのは、物語に起伏をつける上で好ましいのですが、昨日なかった、一昨日もなかった、先週も先々週もなかった、“いま生まれて初めて聴く”突飛な感覚が毎度毎度飛び込んでくると、もう帯ドラマではなくなってしまうのです。

それにしても、今作は、あえて同スタッフで“いままでになかった新しい昼ドラを”との前宣伝で始まったのだから、もうちょっと大胆な“羽岡カラー”を出してもいいような。監督からの「こんな人物像、こんなシチュ、場面に合う、こんな曲想を」とのオーダーも多少なりともあるのでしょうが、2月のNHKドラマスペシャル『風をあつめて』の羽岡さんの“昼帯への解釈”が、意外とマルチでなくモノなのかもしれない。結構、幅があるし、いろんなことができる、いろんな味がしていいジャンルなんですけどね、昼帯ドラマ音楽。

今月25日にサウンドトラックCDリリース予定ですが、是が非でも買わずにいられない展開を今後に期待です。

ドラマ本体のほうは、“何か起きそう、起きそう”の水面下テンションを続けながら、実際、現在時制で起こったのはチーズ異物混入事件と圭以(入山法子さん)御田園(戸次重幸さん)の挙式程度。“地の文”は過去に起きたこと、起きたことのウラ、誰がどんなハラでいるか等をちらつかせてはまた隠すのみ。

ただ、何かわかる、何かが水面から顔を出すたび、結果的には御田園の利に、思惑通りになっているのは注目すべき。白い女(入山さん二役)からフルネーム名指しで“悪魔”と書かれた圭以宛ての手紙、その白い女の正体判明によって圭以も晴香(京野ことみさん)も御田園への懸念を晴らし、異物混入事件にしても、マスコミやネットの攻撃から守ってくれた彼を、圭以が「立派な人」と結婚の意志を固める動機になっています。

圭以の父が生前御田園と取り交わしたという結婚の条件に関する覚書に代理人影山弁護士(大沢樹生さん)が異議を提示、御田園みずからが「ボクはそんなことにはこだわらないよ」「代理人同士の行き違いにすぎない」と異議を却下する顛末も、結局は圭以が「ちょっとでもアナタを疑った自分が恥ずかしい」と『走れメロス』みたいになって着地しています。

いまのところ、御田園が白い女の名指しの通り“悪魔”であるかないかは別にして、彼の望んだ方向にほぼ状況は進んでいます。

ただそれにしては、御田園の表情がいつもいまひとつ得心が行かなげで、満面の笑みでいい場面でも何か演技の笑顔っぽく、溜飲が下がってないというか、ぶっちゃけ何かにひそかに怯えてそうなのが気になるところ。御田園の利になるように、影山とそのパトロンでもあるレストランオーナー依子(中田喜子さん)が糸を引いていて、それも御田園本人と打ち合わせてやっていることとそうでないこととがある様子。当面は御田園を台風の目にして物語は回っていくでしょう。

圭以が結婚の意志を固め自分を遠ざけたと悟っていったん退場した弓月(姜暢雄さん)はヒロインの相手役としてのみならず、語り手、目撃者としてもまだほとんど機能していませんが、彼を挫折した元・バレエダンサーに設定したことの意味はこの先どこかで出てくるのかどうか。圭以の亡母・稀世がハープ奏者で、御田園が挫折したチェリスト志願者だったこと等と、何か接点はできるのか。人物の前身、前キャリア、特技などの設定って、物語に非常に重きをなす場合と、設定だけで放置され忘れ去られる場合とありますがね。

ひとつ言えると思うのは、放送前、媒体で“主役デビュー公演で負傷しダンサー生命を断たれた北川弓月”という設定を読んだとき、高所からの転落とか、緞帳に挟まれるとか、ライト等天井の吊るし物が落ちてきて的な、舞台につきもののアクシデントでの負傷かと思ったら、見せ場のジャンプで着地も決まって、次の動作へというとき「うッ!」と足首の異常に気づくという、言わば疲労骨折の描写だったのは少し意外でした。開幕直前も共演者ともクチをきかずストレッチに励むなど、弓月のキャラには“黙々と、ためてためて”という粘着気質が垣間見られる。ダンサーを目指すについて、大学進学と就職を勧める両親と口論し絶縁に至る場面もちょっとあったし、バレエダンサーって普通は幼稚園かそこらから習い始めて、身体が決まってくる思春期前後に、プロの道で通用するかどうかも決まるものなのに、弓月はかなり遅い入門で、同僚の何倍も何十倍も稽古して稽古してやっと這い上がった主役作品だったのでしょう。

弓月のこの晩熟性、粘着性は長丁場多話数の帯ドラマ“謎暴き役”として向いているかもわからない。茨の道だったはずのダンサー生活の中での友人関係、とりわけ、皆無だったはずはない女友達についていっさい触れられない、カスミでも食って生きていたかのような生活感の希薄さも、どこかで活きてくると信じましょう。

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