今は昔。
あれは昨年の決算発表説明会のことじゃった…。
私は社長スピーチを録画するべく、ビデオカメラが用意された会場の後ろに佇んでいた。
アナリストやファンドマネージャーが集まり、席が埋まり始めた頃、「●●●ィ~」が私の隣に座った。
(●●●ィ~…この春から私の部長になる殿方。先日の飲み会で酔っぱらった私に呼びつけにされた)
将来の社長になるであろう彼は、勉強を兼ねて説明会に来たようだった。
「短信です。どうぞ」
と、彼に短信を手渡そうとする私。
それをを制し、彼は
「ありがとう。でも大丈夫です。…ここに全部入っているから」
と、微笑。
ここ。
「ここ」と指差されたのは、ズバリ彼自身の頭である。
私も「ここ」に入れてみたい。
でも、入らないよ。入れたくても入らない。…小さめだから。
あの決算短信が全て頭に入っているだなんて。
いったいどんな頭なんだろう。
ビデオのレンズ越しに映る、業界の話をする社長の顔を撮影しながら、ぼんやりと考えた。
あれが、私と●●●ィ~の出会いだ。
初夏の眩しい思い出。
先日の飲み会に負けず劣らず、私にとっては強烈な思い出である。
あれから一年近くが経つ。
社内で度々●●●ィ~に遭遇し挨拶を交してきたが、まさか彼が自分の上司になるとは思わなかった。
今朝、我が部のお誕生席に彼が当然のように着席していた(旧部長は23日付で退任)。
え?
●●●ィ~がうちの部に来るのって来月からじゃないの?
あれよあれよという間に、彼の机には六法や内部統制の本など、彼の私物が置かれ始め、いよいよ降臨という感じがしてきた。
そんなこんなで、緊張し続けた一日だった。
「景色は毎日変わっていきます。
そんな景色に合わせて、一人一人の意識も少しづつ変えなくてはならないよ。
それが会社を大きくしていくんです」
旧部長の言葉が胸をかすめる。
「一日一分。三日で三分。つらかとぶぁい~♪」
おぼっちゃま君の歩みではあるが、私も変わらなくっちゃならんだろう。
付いて行きますよ、●●●ィ~!
…じゃなくて、新部長!