「故意による店舗設備破壊にたいへん迷惑しております。」

「故意による店舗設備破壊にたいへん迷惑しております。」

滅多に行けないけど（せいぜい年に一回）、私のご贔屓といっていい、ある店のトイレに貼ってあった、ポスター。

「トイレの中で誰も見ていないからって、悪さするなよ、トイレの中にあるもの、壊すなよ」ということである。

誰がわざわざトイレの中のもの（どれ？ 何？）を壊すのか知らないが、まあ、備品を破壊されたら、そりゃ警察に連絡、弁償、云々は当然だ。

だけど俺、客だぞ。

用を足すあいだずっとわざわざ目の前で眺めるしかない真正面の位置に、こんなポスター貼って、「悪さするなよ、壊すなよ」と言われるのは、どうも気分がよろしくない。

いい店なのだが、先代の親父さんに対する、現店主となった息子さんの、数年前の苛々した態度は、客として見ていて、首を傾げる部分があったこととか、思い出してしまった。
このポスターがなければ、そのまま忘れたことにしても、良かったのだが。

そこまでひどい酔い方をする常連が、いるのだろうか。

だが、街道沿いにあってそれなりに目立つこの店は、酒を飲まない客も来るはずだ。

とはいえ、邪悪な人々によって、繰り返し破壊行為を受けているという可能性も、まったくないわけではないだろう。自衛策なら仕方あるまい。

ここのところ二回行ったさいには、親父さんの姿はなかった。親父さんお元気だろうか。親父さんならきっとこんなポスターを貼ることは許さなかったのではないかという気はするのだが、これは推測に過ぎない。

あるいは二代目は、私たちにはうかがい知れない悩みを、抱えているのかもしれない……。


「故意による店舗設備破壊にたいへん迷惑しております。」

これは過去形である。過去の事実について語ったコトバである。

どんな破壊をされたのであろうか。

少なくとも、初犯の者に呼びかける言葉ではない。

これはたいてい、「二度とするなよ」という意味だからだ。

警告するからには、犯人は顔なじみか常連であろう。

でも、そうでないとしたら。

「あんたがやったことがないにしても、やりたくなる可能性があるだろう？」と決めつけられていることになるわけだし、

それに対して「俺が何をしたっていうんだ」とカチンときて、初犯の犯行に及ぶ者もいるかもしれないではないか。

私は同情するだけだが、不快故に、「そうか、何か壊すという手があったか」と思いつく輩がいたとしたら？！ということだ。

今度行ったら、事情を聞いて、ポスターを剥がすよう進言したほうがいいのだろうか。

勝手にこのポスターを剥がすわけにはいかない。それこそが「故意による店舗設備破壊」だからだ。


今は少し心配になってきている。