これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

タダより高いものはない

2010年02月04日 21時07分22秒 | エッセイ
 4年前の2月、私はエッセイ集を出版した。
 自分の書いた作品が本になり、店頭に並ぶという体験はエキサイティングである。流通する部数とは別に、著者への献本も100冊もらったため、つい調子に乗って、知人や友人に送り届けた。
 たいていの場合、近況報告も兼ねて手紙がくる。しかし、遠方に住む友人の一人は、手紙と一緒に現金を送ってきた。どうやら、本代らしい。
 しかし、私にしてみれば、喜ぶどころか、大きな心の負担になった。

 どっどーしよーっ! 売りつけるつもりじゃなかったのに……。

 所詮は、アマチュアの道楽を満足させる自費出版なのだから、儲けようとは思っていない。
 しかも、頼まれてもいないものを勝手に送りつけて、友人からお金をとる結果になるなど、言語道断である。私は封筒の1500円を前に、しばらく悩んでしまった。
 もし、送り返したら、角が立つことは間違いない。「感じ悪~い」と嫌われ、人間関係にヒビが入りそうな気がする。だからといって、このままもらいっぱなしというのも気が引ける。
 
 そうだ、お礼の品を送ればいいんだ!!

 早速デパートへ走り、本代相当のお菓子を買った。宅配便で彼女の家まで送ったところで、私の気持ちはようやく軽くなった。
 でも、実のところ、今度は彼女の気が重くなったのではないだろうか。
 タダより高いものはない、とはよくいったものだ。

 以来、「ファンです」と言ってくださる方にも、本をプレゼントするのが怖くなった。
 相手の住所を聞いておいて、自分の住所を書かずに送ったときは、「フェアじゃないかな?」と気が引ける。かといって、「お代は結構です」などと書き添えたら、かえって支払いを催促するような文になる。
 私はただ、「ありがとう、読んでみるね」と言ってもらうだけで満足なのに……。

 仕事でも、似たようなことがあった。
 私が勤める高校では、生徒が地域の方にパソコンを教えている。授業の一環として実施しているので、もちろん無料だ。受講生は、近隣に住む高齢者の方が多い。
 高齢者にとって、マンツーマンで孫と同じ世代の子供に教わることは、とても楽しいらしい。毎回休まずやって来て、笑顔でおしゃべりしながら、生き生きとキーボードを叩いている。
 受講期間は半年ほどなのだが、生徒は受講生に教えることで、「人の役に立つ喜び」や「相手の身になって考える大切さ」を知り、勉強になったと言っていた。それだけで十分なのに、操作を教わったお年寄りには、「それでは気がすまない」と感じた方もいる。
 後日、受講生の方が学校に手紙を送ってきた。あて名が講師役の男子生徒だったので、手紙を渡したところ、困った顔で相談に来た。
「先生、パソコン教室の人がお金を送ってきたんですけど、どうしたらいいですか?」
 見ると、封筒の中には3000円が入っている。私は「ギャッ」と叫びたくなった。
 住所はわかっているし、近所だから、直接自宅まで返しに行った。だが、お年寄りのガッカリした顔を見たとき、せっかくの好意を踏みにじってしまったのだと、大変後味の悪い思いをした。本当にまいった。
「受講料1時間10円」などとすることができたら、お互い面倒がなくてよいのだが。

 先日行われたインターンシップでも、頑張ってくれたお礼にと、生徒に金品を渡した事業所があるようだ。これまた、返還しなくてはならない。
 またまた頭が痛い……。
「よかったわね、もらっちゃいなさい!」と言えたら、どんなに気が楽になることか……。

 ああ、不良教師になりたいものだ。



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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
 「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
コメント (20)
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