最近、雨が多いので、傘を忘れないように注意している。
苦い経験があるのだ。
いつもはバッグの中に、折り畳み傘を準備しているのに、たまたま別のバッグにしたのが仇になった。定期や財布は入れ替えたが、急いでいたせいか、傘の存在をすっかり忘れていた。
電車から降りて改札を出ると、真っ黒な雲が広がっている。とても、朝8時の空とは思えない。バッグの中を探り、私は青ざめた。「しまった」と舌打ちしたときには、もう遅い。待ってましたとばかりに、天から大粒の雨が落ちてくる。たちまち、ドドドという響きに変わり、水煙が上がる。
ちょうど、改札の屋根の下に写真屋があり、店先には地味な雨傘が、澄ました顔で並んでいた。値札を見ると1030円と書いてある。平成5年の当時、まだ消費税は3%だったし、100円ショップはなかった。人の弱みにつけこむような強気の価格だが、背に腹は代えられない。私は財布を取り出し、傘を買って職場に向かった。
駅から職場までは徒歩10分である。土砂降りの中を歩くと、傘があってもズブ濡れだ。髪もスカートも重くなってしまう。「でも、あとちょっとだわ」と自分を励まし進んだ。
すると、急に空が明るくなった。
見上げると、雨雲が回れ右をしている。「撤収~!」という掛け声は聞こえなかったが、一斉に駆け足で立ち去るところだった。
とたんに雨がやむ。私は「ウソ……」と力なくつぶやき、遠くの雨雲をにらみ付けた。
せっかく傘を買ったんだから、もっと降りなさいよ~!!
自分勝手な理屈だが、そんな気分になる。
ちょっと待てばよかったのだ。まったく、朝からついていない……。
だが、ついていないのは朝だけではなかった。
帰ろうとしたら、また雨が降っている。一日中、大気の状態が不安定なのだろう。「今度は傘があるから大丈夫だも~ん」と、私は冷静に傘立てに向かった。しかし、どこを探しても、1030円の傘は見あたらない。私は顔色を変え、目を剥いて傘立てを探した。
そういえば、さっき、生徒がここをウロウロしていたな……。
下校時間にも雨が降っていたせいだろう。どうも、傘のない生徒がこっそり盗んでいったらしい。
「わざわざ、1030円も出して、傘を買った意味があったのだろうか」と悩んでしまった。
職場から、少し歩いたところにコンビニがある。
そこでも傘を売っていたが、意地でも買いたくなかった。1日2本も買うのは面白くない。
「傘ないんだ。い~れてっ」
私は同僚の傘に乱入し、体半分を濡らしながら、駅まで歩いていった。
おかげで、傘を忘れることは滅多になくなったけど……。
楽しんでいただけましたか? クリックしてくださるとウレシイです♪
※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
苦い経験があるのだ。
いつもはバッグの中に、折り畳み傘を準備しているのに、たまたま別のバッグにしたのが仇になった。定期や財布は入れ替えたが、急いでいたせいか、傘の存在をすっかり忘れていた。
電車から降りて改札を出ると、真っ黒な雲が広がっている。とても、朝8時の空とは思えない。バッグの中を探り、私は青ざめた。「しまった」と舌打ちしたときには、もう遅い。待ってましたとばかりに、天から大粒の雨が落ちてくる。たちまち、ドドドという響きに変わり、水煙が上がる。
ちょうど、改札の屋根の下に写真屋があり、店先には地味な雨傘が、澄ました顔で並んでいた。値札を見ると1030円と書いてある。平成5年の当時、まだ消費税は3%だったし、100円ショップはなかった。人の弱みにつけこむような強気の価格だが、背に腹は代えられない。私は財布を取り出し、傘を買って職場に向かった。
駅から職場までは徒歩10分である。土砂降りの中を歩くと、傘があってもズブ濡れだ。髪もスカートも重くなってしまう。「でも、あとちょっとだわ」と自分を励まし進んだ。
すると、急に空が明るくなった。
見上げると、雨雲が回れ右をしている。「撤収~!」という掛け声は聞こえなかったが、一斉に駆け足で立ち去るところだった。
とたんに雨がやむ。私は「ウソ……」と力なくつぶやき、遠くの雨雲をにらみ付けた。
せっかく傘を買ったんだから、もっと降りなさいよ~!!
自分勝手な理屈だが、そんな気分になる。
ちょっと待てばよかったのだ。まったく、朝からついていない……。
だが、ついていないのは朝だけではなかった。
帰ろうとしたら、また雨が降っている。一日中、大気の状態が不安定なのだろう。「今度は傘があるから大丈夫だも~ん」と、私は冷静に傘立てに向かった。しかし、どこを探しても、1030円の傘は見あたらない。私は顔色を変え、目を剥いて傘立てを探した。
そういえば、さっき、生徒がここをウロウロしていたな……。
下校時間にも雨が降っていたせいだろう。どうも、傘のない生徒がこっそり盗んでいったらしい。
「わざわざ、1030円も出して、傘を買った意味があったのだろうか」と悩んでしまった。
職場から、少し歩いたところにコンビニがある。
そこでも傘を売っていたが、意地でも買いたくなかった。1日2本も買うのは面白くない。
「傘ないんだ。い~れてっ」
私は同僚の傘に乱入し、体半分を濡らしながら、駅まで歩いていった。
おかげで、傘を忘れることは滅多になくなったけど……。
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