私の仕事始めは4日だったが、娘の部活は6日から始まった。
久しぶりに友達と会って、話に花が咲いたかと思いきや、どうにも浮かない顔をして帰ってきた。
「どうしたの? お弁当、足りなかった?」
「違うよ。友達に楽器を壊されちゃったの……」
「へ?」
それはそれは、聞き間違いと信じたい話である。
「萌ちゃんから、自分のサックスの調子が悪いから、ミキのを貸してって言われたの。で、貸してあげたら……」
「貸したの!?」
「首からぶら下げたまま、歩き回るものだから、机にベルをぶつけちゃって、音がおかしくなった……」
「キイーッ、何でそんな子に貸すのよぉ~!!」
「だって~!」
私は卒倒しそうになった。せっかく、大枚はたいて買ってやったのに、何ということだ!
「……まさか、その子、わざとじゃないでしょうね!?」
「うーん、多分違うと思う。弁償するからゴメンねって泣いてた」
泣きたいのはこっちなのだから、お前が泣くなと言いたい。
「明日、お父さんと楽器屋さんに行ってくる。コンクールが近いから、早く直さないと」
「そうしてちょうだい」
カッカしていたら、萌ちゃんのお母さんから電話がかかってきた。
「娘が大事な楽器を壊してしまったそうで、何とお詫びしたらいいか……。修理代はお支払いしますので、のちほどご連絡をちょうだいできればと思います。本当に申し訳ありませんでした」
私は、答えに迷った。
このお母さんは、保護者会の中心的人物で、人の嫌がる仕事を進んで引き受けるタイプである。「私でよければ」と言って、連絡係も飲み会の企画も、笑顔でやってくれるのだ。いつもお世話になっている方に、きついことは言えない。
「はい、明日修理に行きますので、費用の件は、後日お知らせします。わざわざ、お電話いただき、ありがとうございました」と伝えて電話を切った。
保証期間中だったので、結局、修理は無料だった。萌ちゃんのお母さんには、2人分の電車代1580円を負担してほしいと手紙を書き、娘に持たせた。
てっきり、萌ちゃんが封筒にお金を入れて持ってくると思ったのだが、そうではなかった。お母さんが自ら、わが家まで足を運んできたのだ。
「本当に、ご迷惑をおかけしました。これは、ほんの気持ち程度のものですが、よかったら召し上がってください。お金も、こちらにお入れしました。今回は申し訳ないことをしてしまいましたが、これからも、仲良くしていただけるとありがたいです」
何度も頭を下げられ、こちらのほうが困惑したくらいだ。
萌ちゃんのお母さんが帰ったあと、包みを開けてみると、高そうなお菓子が顔を出した。
さらに、封筒の中には5000円札が入っている。
「ゲッ、もらいすぎだね。しかも新券……。どうしよう」
「どうしよう」
夫も私も、予想外の展開に、おろおろするばかりである。お詫びというのは、ここまでするものなのか。
娘が、思い出したように口を開く。
「そういえば、萌ちゃんは、学校のサックスもぶつけて壊しちゃったんだよ。あと、シホちゃんのマウスピースを、床に落としてた……」
気配りママと注意力散漫娘とは、どうにも不思議な組み合わせである。
さては、お詫び慣れしてしまったのだろうか??
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※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
久しぶりに友達と会って、話に花が咲いたかと思いきや、どうにも浮かない顔をして帰ってきた。
「どうしたの? お弁当、足りなかった?」
「違うよ。友達に楽器を壊されちゃったの……」
「へ?」
それはそれは、聞き間違いと信じたい話である。
「萌ちゃんから、自分のサックスの調子が悪いから、ミキのを貸してって言われたの。で、貸してあげたら……」
「貸したの!?」
「首からぶら下げたまま、歩き回るものだから、机にベルをぶつけちゃって、音がおかしくなった……」
「キイーッ、何でそんな子に貸すのよぉ~!!」
「だって~!」
私は卒倒しそうになった。せっかく、大枚はたいて買ってやったのに、何ということだ!
「……まさか、その子、わざとじゃないでしょうね!?」
「うーん、多分違うと思う。弁償するからゴメンねって泣いてた」
泣きたいのはこっちなのだから、お前が泣くなと言いたい。
「明日、お父さんと楽器屋さんに行ってくる。コンクールが近いから、早く直さないと」
「そうしてちょうだい」
カッカしていたら、萌ちゃんのお母さんから電話がかかってきた。
「娘が大事な楽器を壊してしまったそうで、何とお詫びしたらいいか……。修理代はお支払いしますので、のちほどご連絡をちょうだいできればと思います。本当に申し訳ありませんでした」
私は、答えに迷った。
このお母さんは、保護者会の中心的人物で、人の嫌がる仕事を進んで引き受けるタイプである。「私でよければ」と言って、連絡係も飲み会の企画も、笑顔でやってくれるのだ。いつもお世話になっている方に、きついことは言えない。
「はい、明日修理に行きますので、費用の件は、後日お知らせします。わざわざ、お電話いただき、ありがとうございました」と伝えて電話を切った。
保証期間中だったので、結局、修理は無料だった。萌ちゃんのお母さんには、2人分の電車代1580円を負担してほしいと手紙を書き、娘に持たせた。
てっきり、萌ちゃんが封筒にお金を入れて持ってくると思ったのだが、そうではなかった。お母さんが自ら、わが家まで足を運んできたのだ。
「本当に、ご迷惑をおかけしました。これは、ほんの気持ち程度のものですが、よかったら召し上がってください。お金も、こちらにお入れしました。今回は申し訳ないことをしてしまいましたが、これからも、仲良くしていただけるとありがたいです」
何度も頭を下げられ、こちらのほうが困惑したくらいだ。
萌ちゃんのお母さんが帰ったあと、包みを開けてみると、高そうなお菓子が顔を出した。
さらに、封筒の中には5000円札が入っている。
「ゲッ、もらいすぎだね。しかも新券……。どうしよう」
「どうしよう」
夫も私も、予想外の展開に、おろおろするばかりである。お詫びというのは、ここまでするものなのか。
娘が、思い出したように口を開く。
「そういえば、萌ちゃんは、学校のサックスもぶつけて壊しちゃったんだよ。あと、シホちゃんのマウスピースを、床に落としてた……」
気配りママと注意力散漫娘とは、どうにも不思議な組み合わせである。
さては、お詫び慣れしてしまったのだろうか??
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