これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

小松菜こわい

2011年01月13日 21時24分13秒 | エッセイ
 小松菜を洗っていたら、虫食いを発見した。
「もしや」とビクビクしながら中を見ると、案の定、小さな青虫が隠れている。「わぁ~!!」と叫びそうになった。虫のいる野菜は安全というが、何度見ても心臓に悪い。

 あれは、中3のときだったろうか。
 給食の配膳当番だったので、同じ班のクラスメイトと一緒に、料理の盛りつけをしていた。私が担当したのは生野菜だ。小さくカットされた、レタスやキュウリなどをトングで挟み、トレイに載せていく。配る量が多いと足りなくなるし、少ないと余ってしまう。汁物ほど大変ではないが、1本ずつ載せればいいだけのフランクフルトよりは難しい。
 だが、帳尻合わせは、私の得意技のひとつである。頭の中で割り算をしながら、いいペースで配れたので、残ったのは容器の底にへばりついたレタスだけ、と思っていた。
 しかし、このレタス、なぜかモゾモゾと動くではないか。
 次の瞬間、殻を脱ぎ捨てたカタツムリのように、青虫がレタスの下からはい出て、全身をあらわした。

 !!!!!

 体長5cmほどだったろうか。唐突に出没した大きな青虫に仰天し、悲鳴すら出なかった。
 反射的にフタを閉め、私は隣の生徒に声をかけた。
「……ねえ、この中、見てみない?」
「え? なんで?」
 彼女は、いいとも悪いとも答えなかったが、開けたフタにつられて中をのぞいた。
「ヒッ」と息を呑む声が聞こえてくる。人は、本当に驚くと、大きな声が出ないものらしい。2人で顔を見合わせ、オロオロするばかりだった。
 まもなく、「いただきます」の号令がかかり、誰もが笑顔で食べ始める。もはや、手遅れだとわかり、罪悪感が胸に広がっていく。
「一応、先生に言っておく?」
「うん、そうしよう」
 少しでも、罪の意識を軽くしたくて、担任の先生に青虫を見せた。ところが、理系のオトコはまったく動じない。
「ああ、いるね。さあ、笹木たちも早く食べなさい」
「……はい」
 別に虫を食べるわけではないのだが、私も彼女も、野菜には手をつけなかった。でも、チラと担任を見ると、何事もなかったかのように、レタスを口に運んでいる。
 これくらい、図太くなりたいものだと、尊敬するばかりだった。

 小松菜の青虫を流すと、私は体勢を立て直した。
 サッと茹で、小さく切って辛子醤油をかけると、ピリッとしたお浸しができる。
「これ美味しい」と家族からも好評だ。もちろん、青虫がいたことは口にしない。
 私も、迷わず箸を伸ばし、ツンとする辛子と小松菜のコンビネーションを味わう。

 ちょっとは、成長したかな!?




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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
 「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
コメント (19)
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