仕事で、企業あての郵便物を送ろうと思った。
封筒に手紙を入れ、切手を貼る。あとは、帰り道、ポストに投函するだけだ。と、軽く考えたのが間違いだった。手提げに入れたはいいが、すっかり忘れて、家まで持ち帰ってしまった。
部屋着でくつろいでから気づいても、手遅れだ。もうどこにも出かけたくない。一日投函が遅れると、到着も遅くなるけれど、「明日でいいや」と怠けることに決めた。
駅には、たいていポストがある。私が利用している駅は、構内に通じるエスカレーターの近くに設置されており、非常に便利だ。
翌朝、私は出勤前に手提げの中を確かめ、「今度こそ、絶対忘れないようにしよう」と誓った。これで忘れたら、目も当てられない。ニワトリ以下だ。
駅に近づくと、政治家だか、政治家の卵だかわからない者が、自分の名前を連呼する声が聞こえてくる。この駅は乗降客が多いので、毎日入れ替わり立ち代わり、誰かしらがビラを配ったり演説をしたりする。
その日は、今まで見たこともない若造だった。いや、ハナタレ小僧といっても過言ではないかもしれない。シワひとつない、20代後半とおぼしき童顔よりも、あり得ない服装に目が釘づけになった。
あのオレンジ色のネクタイは何だ!
ハナタレ小僧は、紺のスーツに、蛍光オレンジのネクタイを締めているではないか。何と、品のない色を選ぶのだろう。どうも、目立てばよいと勘違いしている節がある。しかも、ネクタイの先がブレザーの裾からはみ出していて、大変みっともない。これが有権者に挨拶する服装かと呆れた。
TPOもわきまえないヤツに、投票する人がいるのだろうか……。
「朝から変なモン見ちゃった」と、憂鬱になった。
そのまま電車に乗り、大事なことを思い出す。
ああっ、郵便!!
ハナタレ小僧のオレンジネクタイに気を取られ、ポストを素通りした私は、ニワトリ以下に成り下がってしまった……。
このショックは大きい。当然、怒りの矛先は若造に向かう。
キーッ、悔しい! 絶対、投票してやるもんか!!
結局、郵便物は、職場に向かう途中のポストに投函し、ことなきを得た。
ところが。
昨日の朝、駅に着いたら、またこの小僧が、オレンジ色のネクタイを締めて立っていたのだ。
「またかよ」と舌打ちしたい気分になったが、慣れとは恐ろしい。第一印象のインパクトはなく、もし郵便物があっても、余裕で投函できそうだった。
彼はどうして、オレンジ色のネクタイにこだわるのだろう。
トレードマークのつもりなのかもしれない。
まさか、それしか持っていないとか……。

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※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
封筒に手紙を入れ、切手を貼る。あとは、帰り道、ポストに投函するだけだ。と、軽く考えたのが間違いだった。手提げに入れたはいいが、すっかり忘れて、家まで持ち帰ってしまった。
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駅には、たいていポストがある。私が利用している駅は、構内に通じるエスカレーターの近くに設置されており、非常に便利だ。
翌朝、私は出勤前に手提げの中を確かめ、「今度こそ、絶対忘れないようにしよう」と誓った。これで忘れたら、目も当てられない。ニワトリ以下だ。
駅に近づくと、政治家だか、政治家の卵だかわからない者が、自分の名前を連呼する声が聞こえてくる。この駅は乗降客が多いので、毎日入れ替わり立ち代わり、誰かしらがビラを配ったり演説をしたりする。
その日は、今まで見たこともない若造だった。いや、ハナタレ小僧といっても過言ではないかもしれない。シワひとつない、20代後半とおぼしき童顔よりも、あり得ない服装に目が釘づけになった。
あのオレンジ色のネクタイは何だ!
ハナタレ小僧は、紺のスーツに、蛍光オレンジのネクタイを締めているではないか。何と、品のない色を選ぶのだろう。どうも、目立てばよいと勘違いしている節がある。しかも、ネクタイの先がブレザーの裾からはみ出していて、大変みっともない。これが有権者に挨拶する服装かと呆れた。
TPOもわきまえないヤツに、投票する人がいるのだろうか……。
「朝から変なモン見ちゃった」と、憂鬱になった。
そのまま電車に乗り、大事なことを思い出す。
ああっ、郵便!!
ハナタレ小僧のオレンジネクタイに気を取られ、ポストを素通りした私は、ニワトリ以下に成り下がってしまった……。
このショックは大きい。当然、怒りの矛先は若造に向かう。
キーッ、悔しい! 絶対、投票してやるもんか!!
結局、郵便物は、職場に向かう途中のポストに投函し、ことなきを得た。
ところが。
昨日の朝、駅に着いたら、またこの小僧が、オレンジ色のネクタイを締めて立っていたのだ。
「またかよ」と舌打ちしたい気分になったが、慣れとは恐ろしい。第一印象のインパクトはなく、もし郵便物があっても、余裕で投函できそうだった。
彼はどうして、オレンジ色のネクタイにこだわるのだろう。
トレードマークのつもりなのかもしれない。
まさか、それしか持っていないとか……。

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