これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

食い逃げ御免

2017年02月09日 22時08分03秒 | エッセイ
 ちょっとした用事で、某大企業に行った。
「お昼は社員食堂で召し上がりませんか? 皇居が見えてキレイなんですよ」
 この会社からはペニンシュラが近い。たまには、落ち着く場所で贅沢なランチをと思ったが、すぐに考え直す。ペニンシュラにはいつでも行かれるが、この機を逃したら、社員食堂にはもう行かれないだろう。希少価値では勝負にならない。
「どのメニューも、だいたい500円くらいです」
「じゃあ、ぜひお願いします」
 そんなわけで、女性社員に連れられて昼時の食堂に入り込んだ。
「学食と同じスタイルです。麺類はあちら、一品料理はこちら、定食は左手にあります」
「わあ、どれにしようかしら」
 私は基本的に定食が好きだ。鶏の照り焼きがメインになっているセットを選んだ。ご飯は大盛り、普通、少なめがある。少なめは70円と書かれているのが目についた。
 それにしても、人の多いこと、多いこと。席数も多いが、ときには満席になることもあるらしい。どの社員も慣れた手つきでお料理を取り、トレイを持ってスイスイ歩いていく。
「あれ? 箸……」
 初めての場所は勝手がわからない。周りを見ると、みんな箸や水を載せているのだが、一体どこにあったのだろう。
「大丈夫ですか?」
 さきほどの社員が戻ってきてくれた。彼女は蕎麦にしたので、場所が離れていたのだ。
「お箸はここです。お茶もありますよ。取りましょうか」
「ありがとうございます」
 彼女に手伝ってもらい、窓際の席に移動する。



「おお~」
 言われた通り、窓の外にはいい景色が広がっている。
 私が選んだ定食はこんな感じであった。



「いただきま~す」
 見た目は質素だが味はいい。欲をいえば、鶏肉はもうちょい小さく切ったほうが食べやすい。みそ汁も無難な仕上がりだ。好みで小鉢などを追加して、もっと豪華にすることもできる。
「ん? そういえば……」
 ワタシ、お金を払ったかしら? 払ってないよ。
 血の気が引くようだった。まさか、レジに気づかなかったのだろうか。いくら初めての場所だからといってレジをスルー? それって無銭飲食でしょ。犯罪だよ、マズい!
「そちらの学級数はいくつあるんですか?」
 私の焦りに気づくこともなく、女性社員はにこやかに話しかけてくる。すっかり、うわの空で返事をした。情けないけれど、こうなったら彼女に相談して、レジまでお金を払いに行こう。
「〇〇ちゃん、ここいい?」
「いいよ、空いてるから」
 間の悪いことに、女性の同僚が隣に座ってしまった。とても相談できる雰囲気ではない。困った。
 無銭飲食が、こんなに居心地の悪いものとは知らなかった。今では、定食の味もわからないくらい動揺している。世の犯罪者たちは、相当頑丈な心臓を持っているのだろう。私には無理だ。
 一気に口数が少なくなってしまった。女性も隣の同僚も食べ終わり、席を立つ。
「出口で清算しますので、現金のご用意をお願いします」
 彼女の視線の先を見ると、レジが3つ並んでいた。
「なるほど、食後に支払いをするシステムなんですね」
「はいそうです」
 こういう情報はもっと早く教えてほしかった。犯罪者にならなかったことは嬉しいが、そんなこんなでお昼を食べた気がしない。
「460円です」
 清算後は、やたらとすがすがしかった。使用済みの容器とトレイは、ベルトコンベアーに載せる。洗い場につながっているのだろう。なんと合理的な。前払い制度しかないと思いこんでた自分が恥ずかしい。
 まあ、これも社会勉強だ。
 懲りずに、他の社員食堂にも行ってみたい。


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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
 「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
コメント (12)
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