ATPツアーファイナルズ2014 錦織圭vsダビド・フェレール その3

2014年11月14日 | テニス
 前回(→こちら)の続き。

 ATPツアーファイナルズ2014で、日本の錦織圭がダビド・フェレールを破った。

 これで準決勝に進出する可能性は相当に高い。えらいことになった。とんでもない快挙だ。すごい、おそるべし錦織圭の才能!

 そう手放しでよろこんでいいはずなのだが、どういうわけか、マッチポイントが決まった瞬間から、私は少しばかり脱力してしまっている。

 先日も書いたが、正直なところ私は今の錦織君の躍進と成長についていけていない。

 ランキングで20位以内に定着して、デ杯でベスト8に入ったくらいまでかなあ。それなりに等速度でウォッチできたのは。

 マイケル・チャンがコーチになったくらいからか、なんか速度感覚が変わってきたのは。

 きびしいトレーニングでみるみるたくましくなって、2014年に入ってからはオーストラリアン・オープンでベスト16入りして、ナダル戦も敗れたとはいえ内容的には熱戦だった。

 クレーシーズンでは大爆発して、マドリードではあのナダルをクレーコートであわや圧勝かというところまで追いつめた。

 ランキングもトップ10に入って、ここくらいからかなあ、彼の活躍に現実感がなくなってきたのは。
 
 とどめがUSオープンの決勝進出。これも前に書いたけど、アレはホント、ちっとも現実の出来事とは思えなかった。

 なんの冗談かと、何度も何度もほほをつねったよ。いや、これは私だけじゃなくて、日本中のテニスファンがそうだったと思う。

 なんか、あの瞬間やなあ、錦織圭が現実から伝説になったのは。

 それまで錦織君は、変な言い方だが「テニスファンのもの」だった。

 イチローや香川真司といった誰でも知ってる名前じゃなくて、テニスがなぜかマイナースポーツである日本では、知る人ぞ知るだけどすごいんだぜと。

 みんなは試合を見たことはないだろうけど、いつかきっとでかいことを成し遂げて、テニスのおもしろさとすばらしさを皆に教えてくれる。

 彼ならきっと、テニスをメジャースポーツにしてくれるという期待と夢があった。玄人のテニス好きが、ひそかにではあるが大きく誇りに思っている。そういう存在だった。

 でも、あの全米決勝進出以来、きっと彼はそんな枠にはおさまらなくなってしまったのだ。

 あの大会でラオニッチに勝ったときは、まだ彼は「我々のもの」だった。だが、バブリンカに勝ったところでは、すでに彼はもう「日本人全員のもの」になっていたんだ。

 たぶん、そのパラダイムシフトにまだ慣れていないのだ。「朝目が覚めたら有名になっていた」という言葉があるが、まさにそんな感じ。

 あの夏の日以来、彼はテニスファンという一部のではなく、日本人の共通項になった。きっとそのことに「ついて行けてない」のだ。

 なんだか、それまでも新幹線くらいの速さで「すごいスピードや」と感嘆していたのが、名古屋あたりから急に第1宇宙速度を超えたみたいな。

 ギュン! って衝撃を感じて、そろそろ静岡かと思ってたら、外見たら衛星軌道を回ってたみたいな。え? なんで宇宙にいてるの? 地球はいずこ? みたいな。

 そんな不思議な感じなんだ。

 だからなんか、この錦織君の快挙にもうまい言葉が出てこない。

 すごいことなんである。快挙だ、奇跡だ、いや違う、奇跡なんかじゃない。これはまごうことなき錦織圭の実力だ。そのことはよくわかる。

 でも、やっぱりうまく言葉にできない。

 なんせ、静岡かと思ったら、宇宙だもんなあ。しかも、そこで終わりではなくて、さらにどんどん速度を上げて飛んでいく。

 光の速さで。このまま果てまで突き抜けるんじゃないのかしらん。

 なので、なんだかまとまりもないまま、ただ手なりでキーボードを打っているところです。今回はオチがないなあ。

 そういえば、勝利を決めた後、勝者のお約束であるカメラのレンズにサインした言葉が良かったネ。

 錦織君はたぶん「kei nishikori」と書いたその下に、こう加えたのだ。

 「いえい!」

 ひらがなでだ。日本のテニス界を大変動させ、今や世界をも揺るがす大仕事をやってのけた後なのに、なんともかわいらしいではないか。

 流行るかもな。だから私も、とりあえずは宇宙にいることをオタオタせずに、ミーハー気分でVサインでもして、呑気によろこんでおくのが正解なのかもしれない。

 いえい



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ATPツアーファイナルズ2014 錦織圭vsダビド・フェレール その2

2014年11月14日 | テニス
 前回(→こちら)の続き。

 ATPツアーファイナルズ2014ラウンドロビン第3戦、日本の錦織圭がダビド・フェレール相手に第1セットを落とす。

 セットポイントをミスで落とすなど、嫌な雰囲気ではあったが、なんのなんの、見せ場はここからであった。錦織圭は気持ちを落とすことなく反撃を開始する。

 フィジカルに不安があるといわれていたのは、もはやどこの国のレバニラ炒めかという過去の話。リードをゆるしても崩れないし、むしろ接戦になればなるほど力を発揮し出す印象だ。

 その意味では、本当に彼はたくましくなった。それはもちろん、日々のトレーニングもあるだろうが、それよりもなによりも、今自分は昇り調子である、いつものテニスをすれば誰にだって勝てるチャンスはあると信じている。

 いや、もしかしたら不遜にも、このオレ様が負けるわけがないぜ! と、内心うそぶいているかもしれない。そういった「勝ってる者のオーラ」が、今の彼にはまばゆいばかりに存在している。

 そのことをまざまざと見せつけたのが、第2セット以降の錦織圭だ。セットの変わりばな、いきなりのラッシュで相手のサービスゲームを破ると、そこからは初戦、2戦目と課題であったサービスが爆発。

 ワンブレークをしっかり守ってタイに戻すと、最終セットは一気だった。

 本人も試合後に語っていたように、「最高の出来」のテニスを披露できた。途中、あのタフネスが売りのフェレールがイライラでラケットをたたきつけ、警告を受けるというシーンもあった。
 
 圧巻だったのが、第3セット4-1、第6ゲームのゲームポイント。

 フェレールが2ブレークダウンにもかかわらず最後のプライドをかけて、ねばりまくったこのゲーム。

 何度もブレークポイントを握られ、そのたびにかろうじて逃げるという展開が続く。

 これを落としてもまだリードしているとはいえ、嫌な流れであることは間違いない。デュース、デュースの連続の末、ようやっとアドバンテージを握る錦織。

 ほぼマッチポイントに等しいこのポイントで、錦織君はフォアの逆クロスから叩くのではなく、なんとアングルに見事なドロップショットを放ち、エースを奪ったのだ。

 これが、まさに「天才」錦織圭の真骨頂とも言えるスーパーショットであった。私も見ていて、「どわあ!」と思わず声に出してのけぞったものだ。

 ものすごい角度から飛んで、ネットの上をまるで定規ではかったかのようにスーッと伸びていき、そして絶妙の位置にポトリと落ちる。

 なんちゅうずば抜けたテクニックなのか。神業だ。もし録画している人がいたら、何度でもすり切れるくらいに見返してほしい。それくらいの驚異的一撃だった。

 解説の松岡修造さんも感に堪えたように、
 
 「あんなの、打てない……」。

 そうだよなあ、打てないよなあ。

 ここで勝負は決まった。最後はおまけのようなフェレールのサービスゲームをあっさりブレークして、とうとう勝ってしまった。

 これで錦織はラウンドロビンを2勝1敗。マレーがフェデラーに圧勝しない限りはベスト4進出ということになる。

 見事すぎる勝利であった。

 だが、私はこれに、なんとコメントをすればいいのか。いまだ困惑を隠せないでいるのが正直な気持ちだ。


 (続く【→こちら】)



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ATPツアーファイナルズ2014 錦織圭vsダビド・フェレール

2014年11月14日 | テニス
 錦織圭は今まさに伝説になろうとしている。

 などと、この私がいきなり大上段にかまえたりすると、ふだんならば「阿呆が、なんかほたえとるで」と失笑されるところであるが、今日だけは別だ。

 あの試合を観戦した方ならば、こんな大げさな物言いも、ある程度はゆるしていただけるのではなかろうか。

 そう、ATPツアーファイナルズ2014。ロジャー•フェデラーに敗れ(その模様は→こちら)1勝1敗でむかえたラウンドロビン第3戦で、日本の錦織圭がスペインのダビド・フェレールを4-6・6-4・6-1のスコアで破り、ベスト4に残ることが濃厚になったのだ。

 日本時間の夜11時ごろ開始だったこの試合。私は夜戦にそなえて、帰宅後2時間ほど仮眠を取っていたのだが、起きてテレビをつけて、まず吃驚した。

 なんと対戦する予定であったミロシュ・ラオニッチが棄権していたのだから。

 一瞬、あれ? 不戦勝で決まり? と思ったが、さすが年間最後の試合はそう甘くはない。予備の選手としてスタンバっていた世界ランキング10位のダビド・フェレールが代打として登場してきた。

 これに関しては有利不利とか、ラオニッチ対策が無駄になった影響はとか、そういった微妙なところは本人とスタッフにしかわかりようもないが、ここで出てきたのがダビドというのが判断の難しいところ。

 最高ランキングが3位でフレンチ・オープン準優勝の経験もある。デビスカップではナダルとのダブルエースでもって、何度も頂点に立っている選手。

 しかもこの男はおそらく現代テニス界ナンバーワンともいえるファイティングスピリットと、ブレない強靱な精神力を持っている。

 出られるアテのない大会でいきなりコートに放り出されても、それであわてたり、ゲームにフィットするのに時間がかかったりと、そういったことは、まず期待できそうにないだろう。

 間違いなく強敵である。

 だが反面、錦織からすれば対戦経験が豊富で、ロンドンオリンピックなど大舞台で勝った経験もある。

 スピードとねばりは驚異だが、ラオニッチのような一発を持っている選手に、それこそ今年のウィンブルドン4回戦のような「なすすべもなく持って行かれる」展開にはなりにくい。

 ミもフタもなく言えば、この交代劇が吉と出るか凶と出るかはやってみないとわからない。逆に言えば、このアクシデントをどう処理できるか。そういったところも、錦織圭は試されているともいえた。

 試合の方は予想通りの激しい打ち合いとなった。

 ともにグラウンドストロークを中心とし、安定感とフットワークが突出しているところなど、共通点の多い二人。

 フェレールはほぼ消化試合だが、賞金と獲得できるポイントがデタラメに高く設定されている試合でもあり、そもそもが勝ち負けに関係ないからといって流していくような考えなど期待できないのがダビド・フェレールという選手。

 やはり、さすがというモチベーションの高さで、闘志むき出しで襲いかかってくる。コートを広く使ったストロークの応酬に、こちらも自然、気合いが入る。

 多彩なアングルショットに、時折見せる鮮やかなネットプレー、大事なポイントで飛び出す手品みたいなドロップショット。

 錦織のテクニック、フェレールの粘り腰。秘術をつくしたラリー戦。

 おお、なんか、めっちゃええ試合やんけ!

 本人の運命のみならず、日本のテニス界の未来をもかけたといっていいこの一番に、錦織圭は見事なテニスを見せる。

 最初にサービスゲームをブレークしたときには、「こら、マジでひょっとするのか?」と色めきだったが、すぐにブレークバックされて、いったんイスにすわりなおす。

 あはは、さすがはダビドや。そう簡単には勝たせてくれへんわ。

 一回落ち着いたところで、第1セットは錦織に終盤少し乱れが出てフェレールが取る。

 内容的には互角かそれ以上だったが、セットポイントでのスマッシュミスなど、らしくない落とし方が気になった。解説の松岡さんも言っていたが、ちょっと不安な流れであった。

 ところがである。こういった接戦になると強みを発揮するのが、今の錦織圭だ。


 (続く【→こちら】)


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