前回(→こちら)に続いて大川総裁の『日本インディーズ候補列伝』という本を紹介。
そこで「総裁のすごさはそのフトコロの深さだ」と書いたが、それがもっとも表れているのがかの有名な(有名なのか?)「ハウス加賀屋オーディション事件」であろう。
ことの発端は、総裁が主催する大川興業の新人オーディション。
大川興業のオーディションには、その芸風からか「UFOが呼べる人」といった電波……もとい個性的な人が多くやってくる。その中にいたのが、当時17歳の加賀屋少年であった。
パッと見たときから「危ない奴かもしれない」と思っていた総裁だが、そのカンは見事に当たっていた。
なんと加賀屋少年は刃渡り20センチのナイフを持ってオーディションにやってきたのだ。
そんなデンジャラスな加賀屋君、自己PRの一発ギャグがすべると、やにわにそのナイフを取り出して、
「おもしろくないですか?」。
脅迫だろそれ。思わず腰が引けるところである。
私なら間違いなく
「ヘイ、今のギャグすごいね、ユーがいればダウンタウンからリットン調査団まで、今いる芸人は全員失業だよセニョール!」
などと言いながら、ダッシュで逃げ出すところだ。
そんな「下手したら人生終了」な状況で、総裁はまったく動じない。その場でスタッフに相談。
「一回くらい刺されてもいいか」。
ということになり、その場で加賀屋少年の合格が決まった。
「ここで突き放してしまってはいけない」
と思ったからだそうだが、それにしてもナイフを突きつけられているのに「刺されてもいいか」というのがすごい。
こうしてめでたく大川興業入りした加賀屋少年だが、その奇行はなかなかのものであったらしい。
ある日稽古の途中、加賀屋君に5000円札を渡して、「メンバーたちの人数分牛丼を買ってきてくれ」とお使いに行かせた。
ところが、なかなか帰ってこない。一体どうしたのだとみながいぶかっていると、1時間後戻ってはきたのだが、なぜか牛丼を持って泣いている。ドア越しにも聞こえるくらいの号泣だという。
総裁が、なにがあったのかと問うならば加賀屋君は「総裁申しわけありません」。なにが申し訳ないのかと言えば、
「食べちゃいました」。
空腹のあまり、つまみ食いでもしたのかもしれんと「何を食べたのだ」と聞くと、
「5000円です」。
5000円を食べた。5000円分の弁当を食べたのかといえば、そうではなく本当に5000円札を食べたのだ。
なぜ食べる。新渡戸稲造が食欲をそそったのか? 謎だ。謎だが、加賀屋君は「すいません、食べちゃいました」と泣きくずれている。
総裁はそんな、男泣きになく加賀屋君の肩に手を置いて、
「どうだ、うまかったか」
うむ、食べたといわれれば、まずは聞きたくなるのは味であろうって、聞くとこそこじゃないだろという話だが、普通ならドン引きのシチュエーションで総裁のフトコロの深さは並ではない。
ちなみに答は「はい、おいしかったです」とのこと。
この話のかくれたキモは、牛丼はちゃんと買ってきていたということであろう。ちゃんと仕事はできているのである。
総裁も「ちゃんと牛丼はある。何も問題はない」といっている。それからみんなで笑いながら牛丼を食べ「大川興業をやっていてよかった」と心から思ったという。いい話だなあ。
そんな奇人加賀屋君だが、やはりその不安定ぶりから想像できるように、心を大きく病んでいた過去があった。
ある日総裁は、加賀屋君のセカンドバッグに大量の「薬」が入っているのを目撃する。以下、本からその時のやりとりを抜粋すると、
「総裁に実は告白しなければいけないことがあります。自分、実はまだ仮退院の状態でして」
「どういうことだ」と問う総裁に、
「はい、精神的に落ち着いていないというか情緒不安定なゆかいな人達のいるハウスというところにおりまして」
ゆかいな人達のいるハウス。なにかこう、いろんな意味でギリギリだが、総裁は平気な顔で、
「そうかおもしろいじゃないか。ゆかいな人か」
これに加賀屋君も、
「はい。今まで総裁をケムに巻くようなことをしてすいませんでした。隠せれば隠し通そうと思ったのですが」
そう告白し、
「総裁の前では冷静な人間を演じていましたので」
もはや、つっこむのも野暮というものであろう。総裁も、
「そうか気がつかなかったな。これからもケムに巻いたままでいいからがんばれ」
私はこのやりとりを読んで、呼吸困難になるくらい笑った。総裁のフトコロはブラックホールなのか。
私の友人知人にも変な人はいるし、実際昔ミニコミを作っていたころ
「わたしは宇宙から来たメケメケ星人と戦っている」
という人とか
「世界のすべての事件はNASAとフリーメーソンの陰謀」
とか語っている人とかにインタビューしたこととかあるけど、総裁ほど鋭くは肉薄できなかったなあ。これが器のちがいか。
なんだか総裁のおもしろエピソードを語っていたら本の紹介をするのを忘れてしまった。それは次回(→こちら)に。
そこで「総裁のすごさはそのフトコロの深さだ」と書いたが、それがもっとも表れているのがかの有名な(有名なのか?)「ハウス加賀屋オーディション事件」であろう。
ことの発端は、総裁が主催する大川興業の新人オーディション。
大川興業のオーディションには、その芸風からか「UFOが呼べる人」といった電波……もとい個性的な人が多くやってくる。その中にいたのが、当時17歳の加賀屋少年であった。
パッと見たときから「危ない奴かもしれない」と思っていた総裁だが、そのカンは見事に当たっていた。
なんと加賀屋少年は刃渡り20センチのナイフを持ってオーディションにやってきたのだ。
そんなデンジャラスな加賀屋君、自己PRの一発ギャグがすべると、やにわにそのナイフを取り出して、
「おもしろくないですか?」。
脅迫だろそれ。思わず腰が引けるところである。
私なら間違いなく
「ヘイ、今のギャグすごいね、ユーがいればダウンタウンからリットン調査団まで、今いる芸人は全員失業だよセニョール!」
などと言いながら、ダッシュで逃げ出すところだ。
そんな「下手したら人生終了」な状況で、総裁はまったく動じない。その場でスタッフに相談。
「一回くらい刺されてもいいか」。
ということになり、その場で加賀屋少年の合格が決まった。
「ここで突き放してしまってはいけない」
と思ったからだそうだが、それにしてもナイフを突きつけられているのに「刺されてもいいか」というのがすごい。
こうしてめでたく大川興業入りした加賀屋少年だが、その奇行はなかなかのものであったらしい。
ある日稽古の途中、加賀屋君に5000円札を渡して、「メンバーたちの人数分牛丼を買ってきてくれ」とお使いに行かせた。
ところが、なかなか帰ってこない。一体どうしたのだとみながいぶかっていると、1時間後戻ってはきたのだが、なぜか牛丼を持って泣いている。ドア越しにも聞こえるくらいの号泣だという。
総裁が、なにがあったのかと問うならば加賀屋君は「総裁申しわけありません」。なにが申し訳ないのかと言えば、
「食べちゃいました」。
空腹のあまり、つまみ食いでもしたのかもしれんと「何を食べたのだ」と聞くと、
「5000円です」。
5000円を食べた。5000円分の弁当を食べたのかといえば、そうではなく本当に5000円札を食べたのだ。
なぜ食べる。新渡戸稲造が食欲をそそったのか? 謎だ。謎だが、加賀屋君は「すいません、食べちゃいました」と泣きくずれている。
総裁はそんな、男泣きになく加賀屋君の肩に手を置いて、
「どうだ、うまかったか」
うむ、食べたといわれれば、まずは聞きたくなるのは味であろうって、聞くとこそこじゃないだろという話だが、普通ならドン引きのシチュエーションで総裁のフトコロの深さは並ではない。
ちなみに答は「はい、おいしかったです」とのこと。
この話のかくれたキモは、牛丼はちゃんと買ってきていたということであろう。ちゃんと仕事はできているのである。
総裁も「ちゃんと牛丼はある。何も問題はない」といっている。それからみんなで笑いながら牛丼を食べ「大川興業をやっていてよかった」と心から思ったという。いい話だなあ。
そんな奇人加賀屋君だが、やはりその不安定ぶりから想像できるように、心を大きく病んでいた過去があった。
ある日総裁は、加賀屋君のセカンドバッグに大量の「薬」が入っているのを目撃する。以下、本からその時のやりとりを抜粋すると、
「総裁に実は告白しなければいけないことがあります。自分、実はまだ仮退院の状態でして」
「どういうことだ」と問う総裁に、
「はい、精神的に落ち着いていないというか情緒不安定なゆかいな人達のいるハウスというところにおりまして」
ゆかいな人達のいるハウス。なにかこう、いろんな意味でギリギリだが、総裁は平気な顔で、
「そうかおもしろいじゃないか。ゆかいな人か」
これに加賀屋君も、
「はい。今まで総裁をケムに巻くようなことをしてすいませんでした。隠せれば隠し通そうと思ったのですが」
そう告白し、
「総裁の前では冷静な人間を演じていましたので」
もはや、つっこむのも野暮というものであろう。総裁も、
「そうか気がつかなかったな。これからもケムに巻いたままでいいからがんばれ」
私はこのやりとりを読んで、呼吸困難になるくらい笑った。総裁のフトコロはブラックホールなのか。
私の友人知人にも変な人はいるし、実際昔ミニコミを作っていたころ
「わたしは宇宙から来たメケメケ星人と戦っている」
という人とか
「世界のすべての事件はNASAとフリーメーソンの陰謀」
とか語っている人とかにインタビューしたこととかあるけど、総裁ほど鋭くは肉薄できなかったなあ。これが器のちがいか。
なんだか総裁のおもしろエピソードを語っていたら本の紹介をするのを忘れてしまった。それは次回(→こちら)に。