ATPツアーファイナルズ2014 ノバク・ジョコビッチvs錦織圭 その3

2014年11月16日 | テニス
 前回(→こちら)の続き。

 ATPツアーファイナルズ2014準決勝、ノバク・ジョコビッチ対錦織圭戦はファイナルセットに突入した。

 ファーストセットのノバクの出来を考えれば夢のような展開だ。

 まさかの追撃に私は目が回りそうだった。おいおいマジか。こんなことになっていのかしらん。

 この流れだと、勝っちゃうぞ。大逆転だ。ノバクは明らかにおかしくなっている。このままいけば、このまま……。

 結果から見れば、この第1ゲームがすべてであった。押せ押せだったはずの錦織圭だが、2度あったチャンスを自らのミスで逃してしまうと、あとは一気だった。

 スコアからすれば0ー1。まだはじまったばかりだ。だが、試合はここで終わっていたのだ。

 最初の大チャンスを取りきれなかった錦織は、その動揺を整理できないまま試合を進めてしまい、崩れていった。

 まさに自滅以外の何物でもなかった。その証拠にジョコビッチは試合が終わるまで、いやさもっといえばセカンドセット以降はずっと、かろうじてエースを数本決めた以外はなにもしなかった。

 これは誇張でもなく、また負けた腹いせに相手をおとしめているわけでもない。

 本当にジョコビッチは中盤から後半にかけて、ただただ走って、ラケットに球を当てていただけなのだ。それ以上の創造的なプレーはまったくといっていいほどなかった。

 すべては錦織圭の一人相撲であった。ファイナルセットの間、錦織はただひたすらに、落胆から言うことを聞かなくなった心身を制御しようと自らにムチを打っていた。

 その孤独な奮闘ぶりは見ていて痛々しいほど伝わってきたが、一度コントロールを失ったものは、もはや元には戻ることはない。

 ファイナルセットはまさかの0-6。マッチポイントで犯したダブルフォルトが、そのすべてを物語っていた。

 勝てた試合だった。どんな素人が見たところで、第1ゲームがすべてであったことは明白だ。もしあそこをブレークできていたら、きっと0-6というスコアはそのまま反転して錦織が圧勝していただろう。
 
 それが証拠に、勝った後のジョコビッチによろこびの咆哮もガッツポーズもなかった。勝者のお約束の、テレビカメラのレンズへのサインにも、威勢のいいメッセージの代わりに、小さくぬりつぶした丸を描いただけだった。

 よほど釈然としなかったのだろう。このひとつを取っても、ジョコビッチが勝った気になっていないのがよくわかる。

 こうして錦織圭の2014年は終了した。最後の最後に自ら崩れたのは意外だったが、それに関しては今はこれ以上は言うまい。

 最初にも書いたが、彼がこの舞台に立っているだけでも、充分すぎるほどに快挙なのだ。だから、あれこれ言う前に、とりあえずは今年の快進撃を祝いたい。

 錦織君、トップ10入り、USオープン準優勝、そしてツアーファイナル準決勝進出おめでとう。

 すごい、よくやった、たいしたもんだ。もはや言葉もない。彼がこれまでやってきたことは、私ごときがここで「すごい」を1万回も連発したことろで、ほんのかすかでもその本当のところは伝えられないだろう。

 この試合はたしかに惜しかった。勝てた試合だった。なまじいいテニスを披露しただけに、よけいにくやしい思いもつのる。

 だが考えてみれば、松岡さんもおっしゃっていたが、世界のトップ8が集まる最終戦で、相手が絶好調のジョコビッチで、それで「負けて悔しい」と言える我々はなんと幸せなことだろう。

 彼のテニスなら、あせらずとも来年以降、またでかいことをやってくれるに違いない。

 お楽しみはこれからだ。古い映画のセリフで和田誠さんの本のタイトルでもあるこのフレーズが、これほど似合う選手はなかなかいないではないか。

 だから今は、とにかくお疲れさま。

 そしてありがとう。

 思いつく言葉は、ただただそれだけです。

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ATPツアーファイナルズ2014 ノバク・ジョコビッチvs錦織圭 その2

2014年11月16日 | テニス
 前回(→こちら)の続き。

 「みんなが見てるから、ボロ負けだけはやめて!」

 そう祈りながらの観戦となった、ATPツアーファイナルズ2014準決勝、ノバク・ジョコビッチ対錦織圭戦。

 そんな弱気なと言われそうだが、予選での成績を見るとけっこう現実的な心配である。


 対マリン・チリッチ(USオープン2014優勝)6-1・6-1

 対スタン・バブリンカ(オーストラリアン・オープン2014優勝)6-3・6-0、

 対トーマシュ・ベルディヒ(ウィンブルドン2010準優勝、デビスカップ2連覇中)6-2・6-2。


 なんかもう、このスコアを見ただけでカツアゲにでもあった気分である。尿でもちびるくらいに、強すぎるノバク・ジョコビッチ。

 こんなヤツと試合なんてしたないで! 私だったら泣いて土下座してゆるしてもらうところだ。いやマジで。

 その恐怖をさらにあおりまくったのが、ファーストセットのジョコビッチのテニス。

 解説の松岡修造さんも再三話していたが、この試合のジョコビッチはUSオープン準決勝のお返しをする気マンマンであった。

 これは単に大きな大会のセミファイナルというだけではない。来年以降もトップレベルで戦う選手になった錦織圭に対して、きちんとした「格付け」を知らしめる戦いでもあるのだ。

 つまるところ、勝負の世界で長く君臨するにはロジャー・フェデラーがアンディー・ロディックやレイトン・ヒューイットにやったようにすること。

 つまりは「2番手を徹底的にたたく」を実践し彼らに、「アイツには勝てない」と劣等感と恐怖心を植えつけること。それが大事なのだ。

 ノバクからすればこの試合は、単に勝つだけではだめで、内容的にも圧倒し、

 「ニューヨークでのオマエは、しょせん勢いだけで勝ったにすぎないんだぞ」

 そう錦織に思い知らせる必要があったのだ。

 前半戦のノバクは、まさにその通りのテニスをした。自慢のフットワークと安定したストロークでしっかりと地を固め、チャンスと見れば得意のバックハンドを鋭く突き刺す。

 それに焦って相手が攻めてくれば、得意のディフェンスではじきかえし、ミスを誘う。まさに「これぞジョコッビチのテニスやなあ」と、ため息しか出ないような完璧さ。

 正直、このセットでは錦織君は自分のテニスを10%程度の出力でしかさせてもらえなかった。スコアは1-6。誰が見ても、ジョコビッチが書いたシナリオ通りにすべてが動いているように見えた。

 はっきりいうが、これが錦織君の試合でなかったら、私は明日に備えてとっとと布団をかぶって、お休みなさいしていただろう。それくらい絶望的な差がこのセットにはあったのだ。

 ところがだ。この試合がおかしなことになるのだから、まったく世の中はわからない。セカンドセットにはいると、どういうきっかけか錦織君が突如覚醒。それまでほとんど封じこめられていたストロークで押しはじめる。

 逆に乱れはじめたのがジョコビッチの方。あからさまに勢いの出だした錦織君に対して、こちらは急激にメロメロになる。

 パーフェクトだったはずのストローク戦でミスが頻出し、ファーストサービスも入らなくなる。メンタル面でも大きく揺れているようだ。その顔には大きくこう書かれていた。「そんなはずじゃない」と。

 この乱れの正体はといえば、それはやはりUSオープン準決勝の記憶であろう。決して調子の悪くなかったジョコビッチは錦織に敗れたとき、大いなる脅威を感じたはずだ。

 「ケイは強くなっている」

 だからこそ、彼はこの試合を勝たなければならなかった。圧勝をねらっていた。すべては、

 「あの準決勝は、ただのまぐれなんだぞ」

 そう錦織圭に認めさせるためだ。

 あの勝利が本当にまぐれなのかどうかはどうでもいい。ジョコビッチからすれば、ナンバーワンのテニスを見せつけることによって「まぐれだと本人に思いこませる」ことができればいいのだ。

 それによってジオンは、じゃなかったジョコビッチはあと10年とは言わないが、今の地位から蹴り飛ばされるのを数年遅らせることが出来るかもしれない。

 追い上げてくる後輩が、あのとき得た自信を木っ端微塵に打ち砕き、「ただの勘違い」に格下げさせるのだ。そのことこそが目的だった。

 ところがどうだ。セカンドセット以降の錦織圭は解き放たれたようにのびのびとプレーし、逆に王者を圧倒。これを見た人々は、皆がこう思ったはずである。

 「おお、やっぱり全米での錦織はフロックじゃなかった」

 そうして、こうも思ったはずである。

 「今のケイは、ジョコビッチにすら勝てる選手なのだと」。

 あれはまぐれじゃなかったと、錦織本人も世界中のファンも再認識してしまった。テニスの内容やスコアよりも、そのことこそがノバクをあれほど震えさせたのではあるまいか。

 もはや隠し通せないほどに動揺してしまったジョコビッチは、ほとんどなんの抵抗も出来ないままセットを落とす。

 これで1-1のタイ。よっしゃと声を出すよりも、とりあえずはホッとした。ストレートでボロ負けという目はなくなったからだ。

 運命の最終セットでも、錦織圭の勢いは止まらない。まともなショットを打てなくなったジョコビッチ相手に押しまくり、最初のゲームで15-40のダブル・ブレークポイントを握る。


 (続く【→こちら】)


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ATPツアーファイナルズ2014 ノバク・ジョコビッチvs錦織圭

2014年11月16日 | テニス
 錦織圭のATPツアーファイナルズは準決勝で幕を閉じることになった。

 ロンドンの、いやさ世界中の注目を集めた日本人選手の快進撃だったが、ナンバーワンであるノバク・ジョコビッチに1-6・6-4・0-6で敗れたのだった。

 結果は残念だったが、この大会に関してはこれまで散々言われていたように、「出られるだけで、とんでもない栄誉」だ。

 だから、負けたことに関しては、どうこういうことはない。

 ましてや、ラウンドロビンでアンディー・マレー、ダビド・フェレールというトップ選手を負かしての堂々のベスト4進出なのだ。それ以上のことは、一体なにを望みうるというのか。

 いわば懸賞でハワイ豪華旅行が当たって、それだけでもすごいのに、さらになにげなく入った現地のカジノでガッポガッポと思いもしない荒稼ぎをしたようなもの。

 そこで「帰りの便がファーストクラスじゃない」とか言い出したらキリがないというか、そこまで言ったらドあつかましいというものであろう。

 USオープン決勝前夜に書かれたというテニスマガジンの記事と同じだ。

 「明日の試合後にかける言葉は決まっている。勝っても負けても、『おめでとう』だ」。

 だから私も、負けたけど同じ言葉をかけたい。

 錦織君、ベスト4おめでとう。

 ……とまあ、結論だけ書いてしまうとこれでお終いであって、今日はもうとっとと店じまいをしてしまってもいいのだが、なんだかそれもちょっとそっけない。

 人によっては「甘い」と感じるかもしれないので、ここはもう少しばかり試合内容と今後の展望を掘り下げてみたい。

 この試合の開始前、私が思っていたことはひとつであった。

 それは勝ってほしいとか、自分らしいテニスをとか、そういうこともあったけど、それよりなにより第一に、

 「頼むから、ボロ負けだけはしてくれるなよ」。

 情けないこと言うなよと失笑されてしまいそうだが、まあ偽らざる本音としては、そうである。勝ち負け以前に、一応は試合の形にはなってほしいな、と。

 もちろん私とて錦織圭の実力を低く見積もっているわけではない。

 いや、それどころか、フェレール戦のようなテニスを見せられれば、王者ノバク・ジョコビッチに一泡も二泡も吹かせてやれるチャンスは充分あると見ていた。

 だが、それでも不安なのは、この試合が地上波でも放送されること。そのこと自体はもう万々歳なのだが、逆に言えば広く見られることによるリスクもある。

 もしこの試合でヘタをこけば、彼の評価が急激に下がり、場合によってはせっかく盛り上がりかけているテニス熱にも大きく水を差されることになるやもしれない。

 そりゃ最初に書いたように、ある程度テニスにくわしい人なら、今年錦織圭がなしとげた数々の偉業や、この大会に出場することの、ましてや準決勝に出られることの意義は理解しているだろう。

 だが最近、特にUSオープン決勝進出からテニスに興味を持ってくれたという人なら、なかなかそうは思わないかもしれない。

 いくら説明されて、理屈ですごいとわかってても、現に目の前でケチョンケチョンにやられるところを見せられたら、

 「なんか期待はずれ」

 なんてテンションだだ下がりになるやもしれぬ。

 なればこそ錦織君はここを、もちろんのこと勝てば文句なしだが仮に結果はどうあれ、ともかくも「せっかく見たのに、しょぼ!」という事にだけはならないでほしいと、切実に願ったわけである。

 その危険性は大いにあった。なんといっても相手は世界ナンバーワンで、今年のウィンブルドンで2度目の優勝を果たしたノバク・ジョコビッチ。

 しかも、今期のノバクは秋から絶好調で北京と、パリのBNPパリバ・マスターズを制してのロンドン入り。

 しかもラウンドロビンの内容がえげつなく、全米優勝のマリン・チリッチを6-1・6-1、全豪優勝のバブリンカ6-3・6-0、ウィンブルドン準優勝の実績があり、デビスカップ2連覇中のトーマシュ・ベルディヒを6-2・6-2。


 おまえは化け物か!


 もう、むっちゃくちゃに調子がいいのである。

 おまけに、USオープン準決勝での敗北は王者である彼のプライドをいたく傷つけたに違いない。ここを最高の復讐戦と、舌なめずりしてねらっているはず。モチベーションも最高潮だ。

 こんなん相手にもしやダブルベーグル(0-6・0-6)なんて食らったら目も当てられないわけで、私はもう公開処刑だけは勘弁してと、なかば目をおおいながら観戦することになったのである。

 ところが……。


 (続く【→こちら】)


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