いろいろ大変なときは「バカ映像」にかぎる。
昨今のコロナ危機で、不便な思いを強いられているが、こういうときはマヌケな動画を観て笑うのが一番リラックスできる。
前回はプロレスラーが家をバンバン破壊しまくる狂った映像や、伝説のカルトゲーム『アイドル八犬伝』をおススメしたが(→こちら)、今回は『ウルトラ6兄弟VS怪獣軍団』(→こちら)。
タイで制作されたという、ちょっと変わり種のウルトラマン映画だが、これが昭和の特撮ファンにはおなじみの怪作。
私も子供のころ見たが、いわくいいがたいインパクトを残す、ヘンな作品であった。
オープニング、宇宙の異変で、太陽が接近しはじめ、地球は干ばつにみまわれている、という説明からはじまる。
このままでは、地球は滅亡してしまうかもしれない。
続いて、場面はロケット基地に。
ここでは水不足に悩む人類のため、降雨ロケットで、人工的に雨を降らせる実験をやっているのだ。
白衣を着た博士が、科学の力で世界を救うのだと力説したところ、助手の女性から、こんなアドバイスを受ける。
「仏様の力を忘れてしまっては、いけないと思うわ」
日本の感覚だと、怪しい新興宗教のセリフみたいだが、タイは敬虔な仏教国なので、実は全然おかしなものではない。
実際、博士も「仏ってなんやねん!」みたいなツッコミを入れず、「そうだな」と素直に納得している。
このあたり、宗教アバウト国家である、日本の感覚ではピンとこないところだ。
そう、この映画のなんかヘンなところは、映画自体の出来もさることながら、この
「日本とタイのカルチャーギャップ」
からくることが多いのだ。
その最たるが、猿神ハヌマーンが、仏像泥棒を成敗するところ。
そもそも、このハヌマーンというヒーローも、ビジュアルからしてアレなうえに、元がお猿さん。
なもんだから、ピョンピョン飛び跳ねたり、クネクネとタイ舞踊を舞ったりして、ちっとも落ち着きがない。
ハヌマーン先生の飛行シーン。もちろん笑うところではありません。
そんな妙にポップなヤツが、いざ殺人犯の仏像泥棒を巨大化して追いかけた日には、
「逃げてもムダだ」
「生かしてはおけぬ」
なにやら不穏なセリフが。
しかも、捕まえて罰をあたえるとか、警察に突き出すとかという順も踏まず、いきなり足でプチッと踏みつぶす。
おいおい、いきなり処刑すなよ、それも勝手な自分の判断で、とつっこみたくなるが、ハヌマーン先生はますます絶好調で、
「ほーら悪党め、どうした」
「逃げてもムダだあ」
「観念するんだホラァ!」
「おまえたちを殺してやるゥ!」
殺してやるゥ!
なんだか、正義の味方というより、ただの快楽殺人犯のようでステキであり、一時期流行った言葉でいえば、声に出して読みたい日本語というやつだ。
アジアの灼熱プラス気候変動で、汗みずくになり必死で逃げる泥棒に、
「逃げられると思っているのか?」
「ほーら逃げろ逃げろ」
「仏様を大切にしろ!」
「しないヤツは死ぬべきなんだ!」
「殺してやるゥ!」
たしかに歴代ウルトラマンも、愛や友情や布団を干すことの大切さを語ってきたけど、別にそれをしなかったとて「死ぬべき」とまでは言わなかったはず。
ほーら逃げろ逃げろとか、もはや釈明の余地なく弱者をいたぶることを楽しんでます。
まあ、根が子供と猿やからなあ……。
なんだか、一時期流行った、ドナルドの「ランランルー」を彷彿させるコワさである。
このあたり、やはり日本とタイの文化の違いで、殺人もさることながらタイでは仏像を盗むというのは、とんでもない大罪。
なんで、「それくらいされても、文句は言えん」くらいのもんだそうなのだ。
子供のころ読んだ、江戸川乱歩大先生の『怪人二十面相』シリーズで、賊はよく仏像を盗んでいるけど、タイであれをやると巨大猿に足の裏でプチッ。
まさに、ところ変われば品変わる。
ただの泥棒でも「万死に値する」行為なんですな。アンドレ・マルローは反省するように。
きわめつけが、これは特撮ファンには有名な「ゴモラ虐殺事件」。
ハヌマーンとウルトラ6兄弟が協力して、首尾よく怪獣を撃破した後、最後に残ったゴモラをボッコボコにするシーンだ。
7人で1匹を囲んで、殴る蹴るのやりたい放題。
みじめに転がるゴモラを、足で踏む、バット(実際は剣だが鈍器に見える)を振り下ろす、尻尾を持って引きずり回す。
しまいにゃエースとタロウが肩を押さえて、背後からバットで何度も強打。どう見ても、ヒーローの所業には見えません。
エースとタロウに押さえさせ、楽しそうにゴモラを金属バットで殴り続けるハヌマーン先生
今なら「イジメ行為につながる」と炎上しそうというか、当時からすでに
「ウルトラマンたち、ヒドイ!」
「またハヌマーンが楽しそうに暴力をふるうんや」
などと爆笑……大いに心を痛めたものであった。
バットをくるんと返すところが、またイジメっぽさを助長させる。
他にも、子役のまわりで容赦なく火薬を爆発させまくるわ(子供の服にも仕掛けてないか?)。
ロケット基地のエリートパイロットが死ぬほど馬鹿面だわ(だからZATの制服が似合う)、なんで『ミラーマン』の怪獣やねんとか、とにかく全編つっこみどころだらけ。
まさに、「歴史のほとんどの時期が黒歴史」といわれる円谷プロの、まごうことなく本物の黒歴史。
のちのタイとのもめごとなども鑑みると、まさに「ガチ中のガチ」ともいえる存在。
みんなで観て笑って、この難局を乗り切る一助となれば幸いである。